魔性男子はモテたくない

月華

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1.開幕

こいつ頭おかしいんじゃない?

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「あ? いや、聞いてるけど……なんで僕にそんな話を……」

「俺と付き合わない?」

「は?」


 脈絡のない会話に、余計に思考がこんがらがっていく。コイツ今、なんて言った?


「生徒会の連中とかその辺のチワワとかもいいんだけどさ、まさか好みドンピシャな王道が隠れてるとか驚きっつーか……もう運命? 俺っていわば非王道ってやつだろ? で、あんたが王道。非王道と王道が付き合うって展開もアリだと思わねぇ?」

「ちょっと、言ってる意味がさっきから全然分からないんですけど」
「なんで? あんたも連れと王道とか非王道って話してただろ?」
「いや、あれは一方的に相手が話してただけで」
「そうなん? まぁその辺はいいよ、どうでも。で、俺と付き合わない?」
「付き合いません……」
「遠慮すんなって。大丈夫、俺、多分浮気しないし」
「遠慮とかじゃなく……付き合いたくない」
「何? 照れてんの?」


 言いながら、いつの間にか目の前まで来ていた転校生が俺の前髪を横に流した。
 驚いて、すぐさま一歩後ろに下がる。


「はは、逃げんなよ。捕まえたくなんだろ?」


 なんだコイツ、まじで意味が分からない。というか、もう意味不明を通り越して怖い。近寄ってきてんじゃねぇよ。
 SHRの終わりを告げるチャイムが聞こえ、あぁ、SHRまでサボっちゃったなと頭の片隅で思いながら、立ち去る算段を立てる。


「いえ、逃げるとかじゃなく……僕もう、帰りますんで……」


 言うが早いか足早に扉へ向かおうとするも、三度みたびのデジャヴ。


「帰すと思ってんの?」


 腕に握力を感じ、全身に危険信号が走った。護身術を披露する時だと思う間もなく足を取られ、気付けば押し倒されていた。足を押さえるように上に乗られ、身動きが取れない。


「ちょ、何すっ」
「だーいじょうぶだって。なんもしねぇよ」


 まるで信用ならない。言葉と行動が合ってなさすぎだろ。
 この状況をどう切り抜けるか考えている俺をよそに、転校生は片手で俺の右腕を地面に縫い、空いた右手で俺の耳を擽るように柔く触れ、ゆっくりとマスクを外した。前髪も横に流れていて、顔を晒した形になる。


「あー、いいね。やっぱあんたの顔サイコーに好みだわ」


 外したマスクを床に放り、転校生の指が頬を撫でた。


「あんた、名前は? 風紀に聞いても教えてくんなかったんだよね」
「その風紀に、近寄るなって言われませんでした?」
「んー、言われたっけか。あんま聞いてなかったな」


 聞き流してんじゃねぇよ。んでそれを見逃してんじゃねぇよ、委員長。全然あんたの忠告役に立ってないじゃないすか。 
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