魔性男子はモテたくない

月華

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1.開幕

黒毬藻、現る

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「何もないなら別にいいんだけどよ」


 煮え切らない様子の俺を見て、秀がため息交じりに言いながら、俺の髪をクシャクシャにしながら撫でてきた。
 そのタイミングで、予鈴が響く。


「お、予鈴。じゃ、俺は先戻るから。お前もさっさと戻れよ」


 最後にポンと撫でるように頭を叩くと、秀は立ち上がって歩き出した。俺が並んで歩くことを避けたがると分かっているから、「戻るぞ」とは言われない。
 秀の背中を見ていると、胸がじくじくと痛んだ。

 俺がどうしてこんな変装をしているのか、どうして性格を偽っているのかを秀に聞かれた時、俺はただ目立ちたくないからとしか答えなかった。けど、秀はそれ以上聞き出そうとはしなかった。最初はそんな無興味な距離感が楽だと思ったけれど、一緒に生活して話したりしていく内に、それは無興味なんかではなくただの優しさだったのだと気付いた。
 そんな秀の優しさに甘えている。

 全て話して、素顔も見せて、何の後ろめたさもない友達になれれば。
 そう何度も思ったけれど、そうして関係がもし変わってしまったらと思うと怖くなってしまう。
 友達だと思っていた相手も、俺を友達として見なくなる。それが怖い。自意識過剰で終わればいいのだけど、そうとぼけるには過去の経験が邪魔をする。
 

「はぁ」


 秀の出て行った扉が閉まったのを見て、思わず溜息。
 よいしょと立ち上がって、思考を切り替えた。うじうじしているのは性に合わないので。秀にもいつかはちゃんと本当の姿を見せればいい。
 ……本当の姿って表現、なんか中二病くさいな。

 なんてことを思いながら、いざ教室へ。




 ……と、思ってたんだけどな。


「お、見ーつけた♪」


 そこの角を曲がれば数メートル先は教室、というところで、まさかの黒毬藻登場。
 見つけたって何? 探してたの? やめてくれません?

 口元だけでにっこり笑っている黒毬藻を見て、くるりと方向転換……しようとして、腕を掴まれていることに気付く。何このデジャヴ。


「……離して」
「離したら逃げんだろ?」
「逃げない」
「はい嘘ー」


 どうせ前髪で見えないだろうけど、これでもかと睨んでやる。この怪力ゴリラめ。掴まれた腕がビクともしない。


「はぁ……何か用ですか?」


 仕方がないと諦めて、逃げの姿勢を解く。


「ちょっと場所変えようぜ」


 そう言いながら、またもや強引に引っ張りながら黒毬藻が歩き出す。


「え、ちょ、どこ行くんですか!」
「何もしねぇから大丈夫だって」
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