魔性男子はモテたくない

1.開幕

実は……な話

　まじか。隣のクラスだったのかよ。あんなナリをしているからか、全然騒ぎになってなかったから気付かなかった。これでイケメンとかだったら騒がれててすぐに気付いてたんだろうけど。
　黒毬藻ゆえの弊害か……。


「まぁ、何かあったらすぐ連絡しろ」
「アリガトウゴザイマス……」


　本当は頼りたくないけれど、力では敵いそうにない相手だったし。ここは素直に頷いておく。
　もしケンカ慣れとかしてたら、多分俺は簡単に負けてしまう。護身術とケンカは違うのだ。上手く決められたら勝てるだろうけども。


「あ、そうだ。梓種先輩、あの件なんですけど……」
「ん？ あぁ、それなんだが……」


　梓種先輩の声が沈むので、すぐに返答内容が分かってしまう。


「いや、そんなにすぐに見つかると思ってないので、大丈夫ス」
「悪いな……。お前には酷かもしれんが、ドナーが見つかってもより危険な状態の患者に優先されるってのは覆らない。もちろんドナーはうちのところでも個人的に探してるが、まずドナー自体がそう見つかるものでもないから……」
「大丈夫です、分かってるつもりです」


　俺が梓種先輩と知り合いだという理由が、コレ。梓種先輩の両親は海外でも名の知れた名医で、日本一と名高い病院も経営している医学一家だ。それを入学してから知った俺は、すぐに会いに行った。妹の心臓病を治すために。

　俺の妹は、先天性心疾患、いわゆる心臓病だ。幼い頃から入院ばかり繰り返していて、多分家にいる時間よりも病院にいる時間の方が長い。
　今も入院していて、年々心臓は弱っている。できればすぐにでも心臓移植をして、すり減っていく命を取り戻したい。シスコンと呼ばれても構わないくらい、俺の命よりも大事な妹だ。
　妹により良い治療を、そしていち早くドナーを見つけられればと思い、梓種先輩に掛け合った。その時に、頼る癖に隠し事はできないと思い、変装や実名を明かした。
　出会ったばかりの後輩の頼みなど無視することだって出来たのに、梓種先輩は真剣に取り合ってくれたし、この学園から一番近い春河一家が経営する春河病院の分院に移転もさせてくれた。そのおかげで、休みの日にはお見舞いに行けるようになったし、最新の治療だって受けさせてもらえている。
　ドナーが見つかるかはわからないけれど、もうそれだけで梓種先輩には一生頭が上がらない。