蜜葉

夏蜜

文字の大きさ
上 下
19 / 35
梅雨入り

9

しおりを挟む
 十秒ほどの互いの沈黙が、一分にもそれ以上にも感じた。高城は自分が言葉を発するよりも先に、帽子で隠れた男の口元が何かを発したがっていることに得体の知れない恐怖を感じた。

 あ……あの…………。

 鼠の鳴き声ともとれる小さくてか弱い一声がその場の空気を切り裂いた気がした。
 勢いよくはずれた栓のごとく高城は男の胸ぐらを鷲掴みにすると、割らんばかりに稲妻の走るガラス窓へ相手の体を押しやる。一度溢れ出した液体は元には戻らず、本能のままに感情をぶつけていた。
「……お前ッ、いったい何が目的だ!」
 身動きのとれない男の体はあからさまに強ばっていた。
 だが、相変わらず口元は何か言いたげに動いていて、高城は恐怖心に煽られる。
「…………男の人が好きなんだ。」
 突拍子もない一言だった。拍子抜けして男の胸ぐらを固く掴んでいた手元は緩み、無意識にその体を解放していた。
 力を抜いた瞬間、相手の男は高城から逃れて廊下の向こうへ走り去る。その際、高城を遣る瀬無さそうに見上げた顔に彼は驚愕した。あの男とは間違いなく、過去に会ったことがあったからだ。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きみが隣に

すずかけあおい
BL
いつもひとりでいる矢崎は、ある日、人気者の瀬尾から告白される。 瀬尾とほとんど話したことがないので断ろうとすると、「友だちからでいいから」と言われ、友だちからなら、と頷く。 矢崎は徐々に瀬尾に惹かれていくけれど――。 〔攻め〕瀬尾(せお) 〔受け〕矢崎(やざき)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

好きの距離感

杏西モジコ
BL
片想いの相手で仲の良いサークルの先輩が、暑い季節になった途端余所余所しくなって拗ねる後輩の話。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...