今年の夏も、きっと只の幼馴染み

夏蜜

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海の日

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 まだ薄暗いなか目が覚めると、真っ先に凌の姿が目に入った。彼はブランケットを腹にだけ掛け、静かな寝息をたてている。凌の寝室は二階にあるが、海人が家に泊まる間、隣に敷き布団を並べ一緒に寝ていた。文机のある、この和室でだ。
 上体を起こして縁側を見遣ると、簾越しに朝の空気を感じた。鳥さえも鳴かない静寂さは、却って耳が詰まるような静けさだ。
 海人は凌に向き直った。中学校の運動着を寝間着にしている彼は、当時の面影を残した表情で眠っている。大きめだった半袖は、今の体格にぴったりとフィットし、艶かしく骨格を浮き立たせていた。
 海人はそっと隣に寄った。この状態なら、気付かれないかもしれないと思ったからだ。片方ずつ、布団に手を沈ませる。凌に覆い被さった海人は、恐る恐る顔を凌の唇に近づけた。
「……あ、海人」
 凌は瞼を開けるなり、海人の浴衣の衿を掴んだ。予期せぬ事態に、海人は抵抗する間もなく、逆に布団へ押しつけられた。凌の温もりが、背中を通してジンワリと伝わってくる。
「寝込みを襲うなんて、最低」
「……いや、違、襲うって」
「油断ならないね。朝ご飯ができるまで、反省してなよ」
 凌は海人をうつ伏せにすると、浴衣の帯を解いて手頸を拘束した。逃れようとするほど前がはだけ、下着を身につけていない下半身が露になる。
 柱へ寄りかかれたときには、浴衣そのものが手頸までずり落ちていた。つまり、素肌を全て晒した状態になってしまった。朝の澄んだ空気がその肌を滑り、淫らな解放感に敏感な反応を示す。
「おい、凌……」
「朝っぱらから、ど変態に付き合う趣味はないよ。言っとくけど、畳に擦らないでよね。比較的新しいんだから」
 凌は敷き布団をさっさと片付けると、和室から姿を消した。二階から物音が聞こえてくるのは、掃除機をかけているからだろう。朝食を得られるのは、当分先と思われた。海人は目を瞑り、明るくなるのを待つしかなかった。

 台所のキッチンテーブルで朝食を食べ終えた二人は、和室に戻ってそれぞれ寛いでいた。海人は畳に寝転がりながら、文机で本を読む幼馴染みの背中を眺める。意味もなく、声をかけてみた。
「凌……」
「……何?」
「……凌」
「だから、何」
 今日の午後には都内へ帰らなければいけないというのに、凌の態度は素っ気ない。海人はゆっくり起き上がり、衝動的に躰を抱き締めた。
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