今年の夏も、きっと只の幼馴染み

夏蜜

文字の大きさ
上 下
1 / 6
土曜日

前半

しおりを挟む
 海人は、萎えるような暑さのなかを道に沿って歩いていた。彼の歩調に合わせて、手に提げているコンビニ袋が揺れ動く。中央車線すらない田舎道に人影は乏しく、屋敷森に潜むヒグラシが絶えず鳴くばかりである。
 陽は西に沈みつつある。背中に浴びせられる熱は、日中頭上へ注がれたものに比べて優しいものの、項に手を充てがえば汗が随分と滲み出ていた。
 道の途中で左手に下り、数件家を通り越して、ある一軒家へ辿り着く。そこは幼馴染みの自宅で、海人が今夜お世話になる場所でもあった。海人は砂利を踏んで正面玄関へ向かう。
 
 幼馴染みの彼とは同級生でもある。玄関脇に停めてあるワゴン車は、昼間、駅に到着した海人を送り届けてくれたものだ。土日と海の日の三連休を利用して、一年振りに凌の許を訪れた。高校入学を機に離れてはいても交流は途切れずにいた。
 
「凌、ただいま」
 玄関口で呼びかけても、相変わらず返答がない。凌は無口というよりぶっきらぼうで、滅多に口を利くことがない少年だった。社会人三年目を迎えた今もそれは変わらず、役場勤めという肩書きが妙にしっくりくるのだった。
 祖父母から譲り受けたという家の中は至って静かだ。廊下を真っ直ぐに進むと、二間続きの和室の隅に彼はいた。出かける前と同じ姿勢で、文机に頬杖をついて本を読んでいる。海人は忍び足で近づき、思いきり肩を抱いた。
「捕まえた」
 凌は咄嗟に海人の腕を払いのけ、鬱陶しそうに横目で睨む。
「俺はカブトムシじゃない」
 そう語気を強めて、また小説に視線を落とす。凌の態度には慣れている。海人は諦めず、友人の躰に纏わりついた。
「アイス、買ってきたんだ。早く食べないと溶けるぜ」
 凌は、目の前にぶら下げられた袋を一瞥する。海人は袋を降ろして中を見せた。味違いのアイスバーが二つ入っている。バニラとチョコだ。凌はおもむろにバニラのほうを取り、やや申し訳なさそうに口を開いた。
「ありがとう、気を遣わせたな」
 海人は満足して凌を放し、自身ももう一方のアイスバーを袋から取り出した。包装を破った冷菓は暑さで溶けかかっており、海人は急いでそれを食べた。冷たい食感が、躰全体に巡ってゆく。開け放した縁側から微風がそよぎ、長押に吊るされた風鈴がチリチリと音を立てた。
「凌、本を読むのもほどほどにしな」
 凌はアイスバーを片手に持ったまま、小説から目を離さない。そのうち、指の間をアイスの雫が伝い始めた。海人は不意に凌の手頸を掴み、雫が畳へ落ちる前に舐めとった。凌は驚いた顔で振り向く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

事故物件で暮らしてみた

ぽいぽい
BL
お金がない佐伯裕太(20)が選んだ部屋は事故物件だった。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...