別れさせ屋

夏蜜

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対面

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「……僕の知ったことじゃない。貴方は何か勘違いしているんだ」
「良い子ぶった面して、意外と往生際が悪いんだな。レコーダーにはあんたの決定的な証拠が残ってるんだ。……素直に警察へ行くか、さもなくば、車と同じ傷が躰に付つくことになるぞ」
 青年はシャツの合わせ目に手を掛け、抵抗できない僕の襟元を開き始める。一刻も早くこの状況から逃れたかった僕はあえて挑発に乗り、彼の腰へ手を回して裾をたくり上げた。ちょうどレンタル店から出てきた学生グループが、からかいに近い眼差しを各々向ける。彼はさすがに気まずくなったのか、僕を直ちに解放した。
「三叉路でのことは故意じゃない。……ポールは初めから折れていて、僕はそれを退かそうとしただけだ」
「だったら、初めからそう言えばいいじゃないか。……余計にたちが悪いな。なおさら信用できない」
「でしたら、連絡先を差し上げます。これで僕は逃げようがない。気に入らなければ、この場で破り捨てて頬を打つなり好きにしたらいい」
 僕は肩に提げていた鞄からノートとペンを取り出し、電話番号を書いて青年に差し出した。彼はまだ不満を湛えた表情をしていたが、僕の手から乱暴に切れ端を抜き取ると、それ以上何も言わず去って行った。
 青年は電話番号がこのビルに入った事務所のものであるとは気付かなかったらしい。徐々に色変わりする街並みを眺めながら内心ほっとしていると、物陰に佇んでいた人物が愉快げに肩を揺らした。内階段へ続くビルの出入口に凭れた男は、淡く差し込んだ夕日に煙草の先端を爆ぜさせている。
「……とんでもねえ悪ガキだな」
 男は独り言のように呟き、人がいるのも構わず思いきり煙を撒き散らす。僕が眉を顰めると、やつは受話口から聞こえたのと同じ調子で密かな笑いを漏らした。
「悪戯電話に器物損壊、挙げ句にトラブった相手に平気で人様の連絡先を教えるとはねえ……」
 待ち侘びたように視線が交差し、それを合図にやつは悠々と歩み寄ってきた。表社会を生きるサラリーマンとは明らかに雰囲気の違う男は、僕の前に立ちはだかると鋭く見据えてくる。あまりにも悪目立ちする容貌に僕は不思議と魅入られた。
「名の知れた学園の生徒がすることかよ。……胸のその校章、あの鈍感男に気付かれなくて幸いだったな」
「……あれは単なる事故だ。本当は知ってるんでしょう。道順を教えたのは紛れもない貴方だ」
「俺は別に責めてるわけじゃない。ただ、お前は今日から俺のものになったんだ。雇い主を差し置いて、さっそく他の男と抱き合うとはいい度胸してるぜ。……オフィスで黙って見てられるかよ」
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