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再開
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空気は淀み、雨は細くちぎれたように降ってくる。肩が濡れるのを嫌い軒下で待っていると、異様な雰囲気を漂わせた乗用車が一台、大型店舗の敷地へ入ってくるのが見えた。車は速度を落とし、いったん広い駐車場を巡回する。そして再び現れると、従業員用出入口を少し過ぎた辺りで停車した。
堂々とした風格のフォルムに、威圧的な黒塗りのボディ。予告通り到着したその中に、見知った人影が動く。運転席のウィンドウガラスが下り、鷲のような眼差しと視線が交わった。やつは車に乗るよう、顎で指図してくる。
気後れしたものの、足下の水たまりを弾いて素早く助手席に乗り込んだ。すると顔を合わせる間もなく、強引に唇を捕えられる。さらに舌を押しこんできたため、空いていた左手で頭部を殴った。拳が熱くなっているのに、やつは背もたれによろけただけで平気な顔をしている。
「随分とご無沙汰じゃないか」
「慎めよ、まだ公然の前だ」
光沢のあるスーツ姿が憎らしいほどで、袖からは革製の腕時計がいやらしく覗く。僕は口元を手の甲で拭い、やつを運転席に向き直らせた。すぐに車は急発進する。店舗を離れた途端、雨脚は強まり、薄く赤らんでいた地平線は忽ち姿を消す。フロントガラスには無数の水沫が続けさまにでき上がり、ワイパーで取り払おうともキリがない。まるで湧き出るようにカウルトップを満たしては溢れ、前方の見通しを悪くさせる。
街路灯は乏しく、渋滞する車両の明かりだけが煌々と暗がりを照らしている。この先は工事中で信号機も近く、なかなかスムーズには進まない。それをいいことに、やつは背もたれに深く腰掛け、リラックスした様子で僕の顎を引いてきた。
「……今ならできるさ」
ベルトを弛め、スラックスのチャックを下げだす。僕が顔を埋めるのを待っているのだ。要求通り、仕方なくそこへ屈みこむ。拒否したところで、結果は同じであろう。やつは僕の頭をわざとらしく撫でる傍ら、背中へも手を伸ばしてくる。指先が下着を弾いたが、それ以上は届かない。幾度も尾てい骨を摩っては、不満げな手つきで円を描く。
通り過ぎる走行音が、しつこいどしゃ降り雨に雑じって聞こえる。外が暗いとはいえ、この状況では誰に見られているのか、分かったものではない。だが、予想より早く車が前進し始めたので、僕はようやく顔を上げることができた。やつもスラックスを直し、ハンドルに手をかけている。
堂々とした風格のフォルムに、威圧的な黒塗りのボディ。予告通り到着したその中に、見知った人影が動く。運転席のウィンドウガラスが下り、鷲のような眼差しと視線が交わった。やつは車に乗るよう、顎で指図してくる。
気後れしたものの、足下の水たまりを弾いて素早く助手席に乗り込んだ。すると顔を合わせる間もなく、強引に唇を捕えられる。さらに舌を押しこんできたため、空いていた左手で頭部を殴った。拳が熱くなっているのに、やつは背もたれによろけただけで平気な顔をしている。
「随分とご無沙汰じゃないか」
「慎めよ、まだ公然の前だ」
光沢のあるスーツ姿が憎らしいほどで、袖からは革製の腕時計がいやらしく覗く。僕は口元を手の甲で拭い、やつを運転席に向き直らせた。すぐに車は急発進する。店舗を離れた途端、雨脚は強まり、薄く赤らんでいた地平線は忽ち姿を消す。フロントガラスには無数の水沫が続けさまにでき上がり、ワイパーで取り払おうともキリがない。まるで湧き出るようにカウルトップを満たしては溢れ、前方の見通しを悪くさせる。
街路灯は乏しく、渋滞する車両の明かりだけが煌々と暗がりを照らしている。この先は工事中で信号機も近く、なかなかスムーズには進まない。それをいいことに、やつは背もたれに深く腰掛け、リラックスした様子で僕の顎を引いてきた。
「……今ならできるさ」
ベルトを弛め、スラックスのチャックを下げだす。僕が顔を埋めるのを待っているのだ。要求通り、仕方なくそこへ屈みこむ。拒否したところで、結果は同じであろう。やつは僕の頭をわざとらしく撫でる傍ら、背中へも手を伸ばしてくる。指先が下着を弾いたが、それ以上は届かない。幾度も尾てい骨を摩っては、不満げな手つきで円を描く。
通り過ぎる走行音が、しつこいどしゃ降り雨に雑じって聞こえる。外が暗いとはいえ、この状況では誰に見られているのか、分かったものではない。だが、予想より早く車が前進し始めたので、僕はようやく顔を上げることができた。やつもスラックスを直し、ハンドルに手をかけている。
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