別れさせ屋

夏蜜

文字の大きさ
上 下
2 / 13

再開

しおりを挟む
 空気は淀み、雨は細くちぎれたように降ってくる。肩が濡れるのを嫌い軒下で待っていると、異様な雰囲気を漂わせた乗用車が一台、大型店舗の敷地へ入ってくるのが見えた。車は速度を落とし、いったん広い駐車場を巡回する。そして再び現れると、従業員用出入口を少し過ぎた辺りで停車した。
 堂々とした風格のフォルムに、威圧的な黒塗りのボディ。予告通り到着したその中に、見知った人影が動く。運転席のウィンドウガラスが下り、鷲のような眼差しと視線が交わった。やつは車に乗るよう、顎で指図してくる。
 気後れしたものの、足下の水たまりを弾いて素早く助手席に乗り込んだ。すると顔を合わせる間もなく、強引に唇を捕えられる。さらに舌を押しこんできたため、空いていた左手で頭部を殴った。拳が熱くなっているのに、やつは背もたれによろけただけで平気な顔をしている。
「随分とご無沙汰じゃないか」
「慎めよ、まだ公然の前だ」
 光沢のあるスーツ姿が憎らしいほどで、袖からは革製の腕時計がいやらしく覗く。僕は口元を手の甲で拭い、やつを運転席に向き直らせた。すぐに車は急発進する。店舗を離れた途端、雨脚は強まり、薄く赤らんでいた地平線は忽ち姿を消す。フロントガラスには無数の水沫が続けさまにでき上がり、ワイパーで取り払おうともキリがない。まるで湧き出るようにカウルトップを満たしては溢れ、前方の見通しを悪くさせる。
 街路灯は乏しく、渋滞する車両の明かりだけが煌々と暗がりを照らしている。この先は工事中で信号機も近く、なかなかスムーズには進まない。それをいいことに、やつは背もたれに深く腰掛け、リラックスした様子で僕の顎を引いてきた。
「……今ならできるさ」
 ベルトを弛め、スラックスのチャックを下げだす。僕が顔を埋めるのを待っているのだ。要求通り、仕方なくそこへ屈みこむ。拒否したところで、結果は同じであろう。やつは僕の頭をわざとらしく撫でる傍ら、背中へも手を伸ばしてくる。指先が下着を弾いたが、それ以上は届かない。幾度も尾てい骨を摩っては、不満げな手つきで円を描く。
 通り過ぎる走行音が、しつこいどしゃ降り雨に雑じって聞こえる。外が暗いとはいえ、この状況では誰に見られているのか、分かったものではない。だが、予想より早く車が前進し始めたので、僕はようやく顔を上げることができた。やつもスラックスを直し、ハンドルに手をかけている。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...