雪の中、ただ君を待つ

夏蜜

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知っている少年

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 先週の金曜日に会った時と変わらず、少年はダッフルコートにマフラーを厚く巻いた格好だった。黒い髪はしっとりと濡れてはいるものの、頬は上気しており、全体的に乾いた印象だ。つい先程まで雪の中にいた遠夜とは違い、しばらくバスに乗っていたのだろうと感じさせるふうだった。
 遠夜は少年の傍らで、コートに纏わり付いた雪を遠慮なく払い落とす。この間とは立場が逆転したらしい。一頻り雪を手で払った後、少年のほうを振り向くと、やや不服そうな顔つきになっていた。結晶が跳ねて少年に付着している。遠夜はさすがに決まりが悪く、素直に謝罪した。
「……ごめん、いつもの癖でつい」
「いいんだ、外は寒かったろう? 早く温まらなきゃ」
 少年は遠夜の手を握って頬に当てる。少年の指先は凍てついていて、頬もまた氷に触れているのかと錯覚する冷たさだ。とてもではないが温まりそうにない。遠夜は思わず身震いした。
「君の手はとても冷たいな。頬だってこんなに」
「遠夜こそ、手袋くらいしたらどうだい。定期入れを取り出すのに邪魔だからって、そんなやつ、まあいないよ」
 少年はやや乱暴に遠夜を離し、怒った様子でそっぽを向いた。手を戻された遠夜は、彼の突き放した態度より、いきなり名前を呼ばれたことに驚いた。
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