何処吹く風に満ちている

夏蜜

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風、吹き荒ぶ

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 新聞部の扉を開けた創一は、寄り添って話をしていた上級生の注目を浴びて部室へ戻った。こんな時に限って平木は見当たらない。冷ました躰が既に熱くなっていた。今日は一日中電子レンジみたいだ、と創一は思う。
「……創一、そろそろいいかな」
 遠矢に耳元で囁かれ、言葉の意味が判るまでに暫し時間がかかった。息を整えるのに夢中で、手を握りっぱなしにしていたことを忘れていたのだ。創一から離れた遠矢は、やけによそよそしい態度をとる。
「あらら、やっぱりそういう関係だったのね」
「みたいですね」
 好奇の眼差しが扉口の二人に刺さる。もう一度、お手洗いに走ろうか。創一が一歩下がったとき、勢いよく部室に人が入ってきた。立て付けの悪い扉が、そろそろ壊れそうな音を立てる。
「こらあ、ノックぐらいしなさいよ。ここは部外者が簡単には入れない、神聖な場所なんだから」
 スツールから飛び降りた皆瀬川は、珍しく部長らしい振る舞いで抗議する。
「ノック? ぼくの心にノックは必要ないよ。いつでもオープンだから」
「ちょっと、何言ってんの?」
 皆瀬川の前に進み出た男子生徒は、彼女の手を自分に引き寄せ甲にキスをした。常に冷静な安藤も、さすがに厳しい顔つきになって立ち上がる。
「今すぐ出ていかないと、もう一度記事に載せますよ。所沢美嶺」
 所沢と名前を聞いて、創一はロビーに張り出された例の記事を思い出した。皆瀬川がカメラに収めた、あの茶髪で猫毛の男子生徒だ。ついさっき、踊り場にいた人物と後ろ姿が似ている。遠矢に絡んだあげく新聞部に乗り込んできたということは、記事に不満があるに違いない。
 安藤も所沢の思惑にはとうに気付いているらしく、皆瀬川を庇って彼と対峙した。部室には緊張感が漂う。
「記事は取り下げられない。君が十股をしているというのは、しっかり証言をとってのことだ。諦めたまえ」 
「なら、編集をしてくれないか。ぼくが複数の女性を誑かしているわけじゃない、ってさ」
「……と言うと?」
「女子のほうからぼくに言い寄ってくる。これが事実。むろん、男子だって例外じゃない。誘いを断るなんて無礼な真似はできないだろう? つまり、十人なんて少なすぎるんだよ」
 話がおかしくなってきた。記事に不満があるという意味合いに、少々ズレがあるようだ。創一から離れていた遠矢が、いつの間にか傍らに立っていた。
「あいつ、イカれてるだろう」
 創一はすかさず首を縦に振る。
「とにかく、新聞部の威信にかけて、記事を取り下げるなんてできないわ。だから、とっとと出てって。さもないと、平木先生に言いつけるわよ」
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