逢魔時に穿つ

夏蜜

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排水溝

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 白い吐息の向こう側に誰かがいるとは思いもしなかった。
 沢尻が仕事から帰宅すると、マンションの前に蹲っている人物が目に入った。片手に口の開いたビール缶を握っていた沢尻は、ふらふらとした足取りで近づく。
 日増しに寒さが厳しくなる十一月。こんな時期に、外で倒れているのは危険だろう。そう思い、沢尻はその人物の傍らに屈み、飲みかけのビール缶を一旦地面に置いた。
「……どうした、気分でも悪いのか?」
 素面なら面倒を避けるところを、今日はほろ酔いからくる気紛れが勝り、沢尻は自ら声をかけていた。呼びかけに、ブルゾンにジーンズ姿の青年は呻き声を上げる。意識はあるようだが、いまいち反応が鈍い。
「救急車、必要なら電話を……」
「……いいんです。ちょっと、休めば……いいから」
「いいわけないだろ。あんた、此処のマンションの住人か? 部屋は何処だ?」
「……違、ち……が」
 携帯電話をスラックスから取り出した沢尻を、青年の腕が弱々しく阻む。だが、直後にだらりと青年の手が沢尻の太股に落ちた。その際、沢尻のくすんだ結婚指輪を指先が掠めた。


 リビングのソファに青年を横たわらせた沢尻は、寝室から毛布を手にして再び戻った。躰にかけてやると、青年は切れ切れに礼を述べる。
「あ、りがとう、ございます……」
 この寒さだというのに、ブルゾンの下は半袖一枚だった。挙げ句に口許には血が滲んでおり、些か物騒な雰囲気を漂わせる。結局、青年を見兼ねた沢尻は、七階の自室へ彼を運び込んだのだった。沢尻はカーペットに胡座をかき、青年と向かい合う。
「何か揉め事でもあったのか?」
 問いに、青年は首をゆっくりと横に振る。一見、生真面目そうな若者だ。とても他人とトラブルを起こすようには思えない。躰の線も細く、自ら喧嘩をふっかけることはしないだろう。だとすれば、何か事件に巻き込まれたのだろうか。
 沢尻は更に詳しく訊こうとしたが、青年がぐったりしているので後にすることにした。飲みかけのビール缶を台所で飲み干し、さらに冷蔵庫からもう一本手に取る。青年を眺めながら晩酌の続きをしていると、そのうちリビングから寝息が聞こえてきた。毛布にくるまれ、安心したらしい。
 途端に隠れていた欲望が疼きだす。酔いが回るのも構わず、沢尻は躍動する鼓動を抑えて青年に歩み寄った。歳は息子と同じくらいだろうか。だとすれば、大学生かもしれない。静かに青年に覆い被さり、その寝顔を確認する。頬や首筋を指で擦っても微動だにしない。多少のことではもう起きないはずだ。
「陸……」
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