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75.トニトゥルス国編〔11〕

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翌朝、少し寝坊してしまったのは仕方がないと思う……

起きた私はすぐに、私とジル2人の魔法によるシーツの証拠隠滅作戦を伝え実行した。
ジルは案の定、これでもう何の問題もないねって爽やかな笑顔で言ってたけど、いえいえ、ラクス様の顔が見れませんからねっ!

トニトゥルス国の侍女達が遅めの朝食を持ってきてくれ、私の着付けもしてくれる。私がジルの寝室で寝ているのに、何の動揺も見せずに支度をしてくれるのは本当侍女の鏡だと思う。
今朝方、グローム陛下から色々お話がしたいとの打診があったので、私はささっと食事をして準備をする。
ジルとグローム陛下の所に行く前に、一度エステラとマノンの所に顔を見せる。

「フィーリアス様っ!!」
「フィ、フィ、フィ、フィーリアス様ぁぁぁ~」

2人とも、私の顔を見るなり駆け寄ってくる。

「ごめんね~、心配かけちゃったよね~」
「フィーリアス様は、何でもご自分でし過ぎです……何の為に私達が付いていると思っているのですか……もっと私達を頼ってくださいませ……」

エステラが涙を溢しながら私に訴えた。

……いつも余裕のあるエステラがこんなに泣くなんて……

私は、いつも余裕のあるエセテラに甘えていたのかも知れない。エステラだって、私より1歳歳下のまだまだ若い女の子なのだから……

「フィ、フィ、フィーリアス様ぁ……うぅ……」

マノンはすっかり泣きじゃくっていた。

「ごめんね本当……心配かけちゃって……もう大丈夫だよ」

私はにっこり笑ってそう言いながら、2人をぎゅっと抱きしめた。
こんなに私を心から心配してくれる2人の気持ちに、寄り添いたいもんね。



2人が落ち着くと、私はジルと共にグローム陛下の所へ行く。昨日あれだけ怒涛の展開があったのだから、その後の事後処理やら何やらの話だと思う。
ウェントゥス国も食糧支援の話をしたから、詳細を詰めないといけないしね。

案内された部屋に入ると、グローム陛下とラアド王太子、そしてレェイが座っていた。

「……む。昨日は色々とすまなかった……」
「昨日は本当にお二人を巻き込んでしまい、大変申し訳ありませんでした……もう具合はよろしいですか?」

相変わらずのラアド様通訳による解説付きだ。

「……フィーリアス、身体は大丈夫?」

レェイが心配そうにこっちを見つめる。

「うん、ありがとう。それが傷が全然ないんだよね。レェイこそ大丈夫?」
「僕は大丈夫。……というか、結局僕を治癒してくれたのはフィーリアスでしょ?」
「え?……う~ん。でも、私が見た時はもうほとんど治っていたよ?」

あれあれ? じゃあ、結局誰が治したの?

「……レェイ様……治癒魔法を使えるんじゃないですか?」

ジルがレェイにそんな事を言った。

「えっ!? ジル、でもレェイは……フラーマがないはず、だよ?」

私はレェイの方をチラチラ見ながらジルに伝える。

「何か自分の中で、今までとは違う感覚があるでしょう?」
「……感覚……」

ジルにそう言われて、レェイがじっと自分の指先を見つめる。グローム陛下もラアド様も、驚愕に目を見開いていた。
すると、レェイに指先に、ぽわっと光が灯る。

「……っ!」
「「っレェイっ!!!」」

レェイがびっくりするのと、グローム陛下とラアド様が叫ぶのが全て同時に行われた。

「……ジル、何で?」
「……まぁ、僕も推測でしかないけど……そもそもフラーマと言うものは、神に愛された魂の中から、神々の遺した鏡のカケラと一つになったものだ。鏡のカケラと一つになった事で力が強くなっただけで、魂の本質そのものは、変わらない。……神々は、僕たち全てを愛してくれているんだと思う。でも、魂の本質を見誤っている人はその本質に気が付けない。魂の本質そのものに気がつくことができれば、人は誰しも魔法が使えるのかも知れない。魂の変容は、いつでも出来るはずだから……」

……そっか。じゃあ、レェイは心が生まれ変わることができたんだね……

「そう言えばっ! って話はどうなったの!?」

このゴタゴタですっかり忘れてしまっていた! どうせ最終手段があるし、とか思っていたし。

「フィー、それは何の事?」

ちょっとだけ、ジルの顔が能面のようになっている。あわあわあわ……これは、何かを察知したジル様がお怒りだ……

「……フィーリアス。ごめんなさい……実はその話は嘘なの……」

レェイが酷くしょんぼりした顔で、私を見つめながら謝罪してきた。

う、う、う、嘘なの~~っ!!! ちょっと、前もこんな事あったよね!? えっ!!??? 私って、そんなに騙されやすい!????

「な、何でそんな嘘を……」
「本当にごめんなさい……フィーリアスをこっちに引き入れようとして……それに……僕と同じ第二王子の立場のジルヴェール様が王太子になったって聞いて……僕は、酷く嫉妬したんだ……僕は、勝手にジルヴェール様と僕が同じだと思っていたんだ。でも、王太子になったジルヴェール様には、フラーマがある。所詮僕はフラーマもない人間なんだって……だから、皆僕を役立たずだと思っているんだって……」

本当レェイは可哀想だ。フラーマの有無でここまで人生左右されちゃうんだから……

「……フィーは、もし僕が即位したら死ぬって話が本当だったら、どうしてたの?」
「え? 即位しなきゃいいでしょ?」

あれ? 何かおかしいこと言ったかな? 皆がビックリしたような顔をしてこっちを見ている。

「……フィーリアスは、ジルヴェール様が即位しなくてもいいの? ーー魔法だって使えないよ?」
「え? 何で? 国王でもそうじゃなくても、ジルはジルでしょう? 魔法だって使えなくってもジルはジルじゃない?」

あれ? おかしいなぁ。だってそうでしょ? 別にジルがフラーマ持っていなくても、ジルはジルだしね。
魔法が使えなくても、2人で考えたら何だって出来ちゃうと思うし。……まぁ、ジルの方が比重が大きくなるのは致し方ないと思うの。適材適所というやつだ。
そうそう! ジルなら平民としてだって、きっと凄くその能力を発揮して生活できると思うよ!

「フィー!!! 大好きっ……愛してる……」

何故か横に座っているジルに、ぎゅぅって抱きしめられる。
ちょっと待ってジル! 皆見てるからっ!!

「フィーリアスは本当凄いね……うん、そうだよね、本当。僕ももっと頑張るよ!」
「……ジルが本当に即位したくないなら、言ってね。そもそも私が国王になって欲しいって、ワガママ言っちゃったんだし。ーーーその時は、2人で仲良く平民になろうね!」

にっこり笑ってそう言ったんだけど、何故かこの場の皆に少し残念な子を見るような目で見られた。


ーーーだから、何でなの~!!???



その後、シエオの話になった。
衛兵に連れて行かれたシエオは、そのまま牢に入れらていた。夜中、シエオが大声で何度も叫んでいたようだけど、衛兵達は皆何か喚いているだけだと思って放置していた。

翌朝、衛兵がシエオの様子を見にいくと、そこには髪の毛が真っ白になって、ぶつぶつと何かをずっと呟いているシエオの姿しかなかった。
ビックリした衛兵達が何があったかを尋ねてみても、意味の分からない事をずっとぶつぶつと呟いているだけだったらしい……

……結局、シエオに身に何が起きたのかは、誰も知らない……



帰国の日。

レェイがお別れの挨拶に来てくれた。
レェイは、その知識を生かしてこれから王族として民を率いていくお手伝いをするらしい。ラアド様を助けていくみたい。グローム陛下があんな感じだし、レェイも国務に携わる方がすごくいいと思う。レェイは治癒魔法もあれから練習しているみたいで、これからこの力も使って民を助けていくんだと張り切っていた。

……私の治癒魔法、すぐ追い抜かれちゃいそう……

名残惜しいけど、もう出立しないといけない時間になった。

「フィーリアス、本当に色々ありがとう……」
「うん。レェイも元気でね! ……毎日美味しいご飯を、お腹いっぱい食べてね。『食』って、『人を良くする』って言うんだよ。美味しく食べることは、元気の基本だから」

美味しくご飯を食べる。人間まずはこれが1番大切だと思う。

「ふふふ。フィーリアスは、本当にジョゥを美味しそうに食べていたもんね」
「いや、あれは本当めちゃくちゃ美味しかったの……」

あぅぅ。恥ずかしい~。あのはしゃぎっぷりを覚えていたなんて……!

「……フィーリアスのお陰で、2回目の、今までとは違う人生が僕にやって来たんだ。……ありがとう、フィー……そして、さようなら。僕の初恋……」
「ん? なになに? 最後の方聞こえなかったよ?」

レェイが最後の方に呟いた言葉、小さくて聞き取れなかったんだよね。

「ふふふ。何でもないよ! 今度は僕がウェントゥス国へ遊びに行くから!」

そう言って、レェイは綺麗な綺麗な笑顔で、私たちを見送ってくれた。


こうして、フラム陛下から依頼されたトニトゥルス国問題を、無事解決することができたのでしたーーー



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