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61.久しぶりの病気 sideジルヴェール&フィーリアス
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《side ジルヴェール》
朝起きたら、フィーの体温がいつもより高い気がした。目も何だかいつもより潤んでいるようだった。気になった僕は、すぐにセリカに侍医を呼ぶように指示をする。
「フィー、体調大丈夫? 今日はもう国務は休んでいいから」
「ん~、でも、まだアクアラング国との調整業務が残ってるんでしょ~?」
フィーは自分の体調の悪さに気が付いていない様だった。
「いいから。それは僕がやっておくから、フィーはとにかく今日は休んでね」
「え~、過保護だよジル」
フィーはにこにこしながら言っているけど、何だかふわふわした雰囲気からやはりいつもと様子が違うのが分かる。
僕はフィーの途中経過の様子を逐一報告するようにセリカ達侍女へお願いすると、国務へと向かった。
「ラクス、明日は謁見の予定は入っていないだろう? フィーの調子が悪そうだから、念のため明日は国務を休む。今日はその調整をするからよろしく頼む」
「フィーリアス様がどうかされたのですか?」
「……ちょっと朝から熱っぽかった。侍医を手配したから、まだ何とも言えないけど……」
僕は今週中の国務を洗い出しながらも、頭はフィーのことでいっぱいだった。とにかく、フィーが携わっている仕事についても内容を確認して、緊急性の高いものを捌いていくようにする。
フィーがゆっくり休めるようにしておかないと……僕は自分の国務についてもなるべく前倒しで捌いて、フィーの為にいつでも時間を空けれるようにしておく。
ガリガリ……
……フィーは大丈夫だろうか……
ガリガリガリ…………
……熱はどんな様子だろう。侍医の診断は何なのか……大病じゃないよな……
「……ジルヴェール様、もう昼になります。ご休憩をした方が」
「ん。もう終わる……これをセレソと兄上に。後、セリカ達から報告は?」
ーーコンコン
「失礼します」
噂をすれば、入ってきたのはセリカだった。
「フィーの様子は?」
僕はすぐ様フィーの様子を聞く。……もし大病だったら……どうしよう……
「はい、フィーリアス様はあれから熱がだいぶ上がられて……侍医の先生のお見立てですと、風邪だろうと。とにかく暖かくしてゆっくり休むようにとのお話でした」
「……分かった。ありがとう。僕も一度部屋に戻る。ラクスは先に昼食を食べておいていいから」
とりあえず、大病ではなさそうでホッと一息つく。フィーの様子が気になった僕は、一度部屋に戻る事にした。
部屋に戻ると、フィーは熱がだいぶ高いのだろう。今はベッドの上で寝ているけど、その呼吸がいつもより荒かった。
「フィーリアス様は食事もほとんど取れておりません。侍医の先生にも、とにかく水分補給はこまめに行うように言われてますので、起きていらっしゃる時になるべく口に含んでいただけるようにしております」
「……ありがとう、セリカ。引き続きよろしくね」
「はいっ!」
セリカは凛々しい顔で大きく頷いた。とにかく今日は侍女たちに任せるしかない……
僕は執務室へと戻ると、手早く昼食を取るとそのまま再び仕事を捌き始めた。
でも、頭の中はやっぱりフィーの事でいっぱいだった……
その晩部屋に戻ると、フィーは起きているようだった。僕はフィーの所へ素早く駆け寄った。
「フィーっ! 大丈夫?」
「あ~じる~……うん、だいじょうぶだよ~」
顔は赤く目がトロンとしている。喋り方からも全然大丈夫に思えない。
僕はフィーのおでこに手を当てた。まだかなり熱かった……
「じるの手、つめたくて……きもちいいね~」
フィーは気持ち良さそうにそう言うと、目を閉じた。まだまだ熱が高いせいか、呼吸も荒い。
「セリカ、フィーの夕食は?」
「……はい、パン粥を準備したのですが、ほとんどお召し上がりになりませんでした……」
「……そう…フィー、何か食べれるものある?」
「ん~……おかゆ……ううん……いまはいいかな……」
とにかく、水分だけは飲ませないと脱水症状になってしまう。僕はフィーを抱き起すと、そっとレモン水を口元へ持っていく。
「ん……おいし……」
フィーは少しだけ口に含むと、すぐにくったりとする。身体中が熱を持っているフィーの身体は、かなり熱かった。
「セリカ、今晩は僕がフィーの世話をするから、ここに準備しておいてね」
「……いいよ~……じるにかぜ、うつしたらいけないから、きょうは……あっちのへやで、ねて~」
「フィー、何言ってるの。そんな事する訳ないでしょ。というか、僕にうつした方が早く治ると思うよ」
まだ納得できていないフィーを無理やり寝かし付けると、僕はフィーのおでこに水で濡らして絞ったタオルをのせた。
少し気持ちよさそうにするフィーの顔を見て僕は少しだけホッとした。
その晩は『闇の石』の灯りをずっと灯したまま、時々仮眠を取りながらフィーの看病をした。
翌朝になってもフィーの熱は下がらなかった。むしろ、昨日よりも高そうだった。
「……はっ……は……」
呼吸も荒く、フィーはかなりぐったりとしんどそうだった。
「……フィー……水分だけは取らないといけないから……飲んで…」
「……ん……」
水分もあまり口に含まないフィーに、僕は心配で堪らなくなってくる。
「……フィー、何なら口に出来そう?」
「……りんご……すりおろしたの……」
……
りんごをすりおろす??
……
僕は、セリカにりんごと氷を持ってきてもらうと、りんごの皮を剥いていく。
ーーーズパパパッ……!ガガガッ……!!
剥いたりんごと氷と風の魔法で細かく切り刻んでいき、器に入れる。
「……フィー。これならどう?」
「……ふわぁ~……おいしい……凄いよ~じる~。これさいこ~だよぉ」
フィーは美味しそうに口に含んでいく。冷たいから食べやすいのだろう。氷を持ってきてもらってよかった。
フィーは半分ほど食べると、満足したようでそのまま眠りについた。先ほどよりも呼吸が少しだけ落ち着いていた。
僕も口に含んでみる。なるほど、やっぱり氷がある方が冷たくて食べやすいんだろう。だけど氷が多すぎても水っぽくなり過ぎてしまう。氷とりんごの配分を計算していった。
眠るフィーのおでこや顔にそっと触れてみる。まだ身体は熱を持っていて、熱で苦しいのか閉じた瞼と睫毛が、時折ふるふると揺れる。
その日、フィーの熱は下がらなかった。その晩も看病をしたけれど、ずっとフィーが気になっていた僕は、ほとんど眠る事ができなかった。
翌朝、まだまだ熱の高そうなフィーに後ろ髪をひかれたけど、午前中に陛下との謁見があったため、フィーの事を侍女達に任せて僕は国務へと向かった。
……午前中の謁見を終わらせたら、すぐにフィーの所へ戻ろう……
僕は謁見を最短で終わらせるシナリオを頭で立て、ついでに残った国務をどう捌くかを計算しながら陛下の元へと向かった。
そのまま最短で謁見を終わらせると、執務室に戻って残った国務を捌いていく。国務を捌きながらも、どうやったらフィーがもっと『りんごのすりおろし』を食べてくれるかを思案する。
僕はフィーの看病の時間が最大限取れるスケジュールを、頭の中で組み立てていった。
午前中に仕事を捌き終えると、急いでフィーの寝ている部屋へと戻る。
フィーはまだ熱で苦しそうな様子だった。
「フィーリアス様は今朝からずっとあのご様子で、お食事もほとんどお召し上がりになっておりませんわ」
「ありがとうエステラ。とにかく今日の昼からと明日の昼までは僕がフィーの看病をするから。皆はうつってはいけないし、あまり近づかないようにね」
「かしこまりましたわ。……ですが、ジルヴェール様もきちんと休息を取ってくださいませ」
そう言うとエステラは部屋から出て行った。
「……フィー……」
僕はまだ熱いフィーの頭を撫でながら、そっと呟いた。
フィーはただの風邪だ。すぐ治る。
……でも、もし。万が一、フィーがこのまま……
僕は自分の頭に浮かんでくる恐ろしい考えを、なんとか打ち消した。
フィーのいないこの世の中で、僕は自分が生きていけるなんて思わない。
僕にとって、フィーは全てだから……
フィーの頭をゆっくり撫でながら、早くフィーが治るようにと懸命に神に祈りを捧げたーーー
その晩も時々『りんごのすりおろし』を求めるフィーに応じて、何度かフィーに食べさせた。
これならフィーも口に含めるようだったので、蜂蜜を入れてみたりして、フィーが食べやすくかつ、栄養を補給できるように改善していった。
翌朝、すやすやと眠るフィーの様子を見てそのおでこに手をやり、ようやく熱が下がった事を知って僕は本当に心底安堵した。
そのままフィーの寝顔を見つめていると、ぴくりと瞼が動いたと思ったら、うっすらと目が開く。
「……ジ……ぁあ……」
「……フィー。熱はもう下がったみたいだよ……声が出ない?」
こくこくとフィーが頷く。どうやら喉をやられたようだ。
「無理して喋らなくていいよ。……ん? 何?」
どうも汗をびっしょりとかいている様で、気持ち悪くて着替えたいようだ。
「じゃあ、ちょっと着替えの合間に軽くタオルで身体を拭こうね」
そう言うとフィーはとても嬉しそうな顔をした。
フィーの夜着を脱がし、お湯で温めたタオルで全身を優しく拭いていく。
3日間ほとんど食べていないせいで、いつもほっそりとくびれた腰が、今や抱きしめると折れそうなほど細くなっている。
全体的に一回り以上細くなった身体のフィーを見て、僕は胸が痛んで泣きそうになる。
何とか僕の動揺をフィーに気取られる事なく着替えを済ませると、フィーに笑って話しかける。
「今日は昼から国務の仕事へ戻るんだけど、フィーは今日から1週間は部屋から出ちゃだめだよ? 何かある時は侍女がいるから呼び鈴を鳴らして呼ぶんだよ。フィーの仕事は僕がしてるから、気にしないでいいからゆっくり休んでね」
ちょっと食欲の出たフィーにご飯を食べさせると、僕は昼からの国務へと出て行った。
それから、1週間フィーは大人しくずっと部屋に篭っていた。
僕が部屋に戻ると、ベッドにいるフィーは嬉しそうな顔をして出迎えてくれる。
それは、僕が時折フィーを閉じ込めたいと願っていた事の体現だった。
……でも、こんな形で閉じ込めても全然嬉しく思えない自分がいる……
僕があんな事願ってしまったから、こんな事になってしまったのだろうか……
僕はあんな事を願ってしまったことが申し訳なくなってしまい、フィーに思わず謝罪してしまった。
でも、フィーは僕が看病した事を喜んでいて、お礼を言ってくれる。
フィーが元気でいてくれることこそ、僕の本当の願いだから……
「……フィー、良かった……どういたしまして、僕の奥さん」
僕はそう言うと、フィーに久しぶりに口付けをした。
「もうすぐフィーの誕生日だね。何がいいか考えておいてね。フィーのお願い何でも聞くからね」
僕はにっこり笑うと、フィーにそう言った。
ーーー愛するフィーリアスのためなら、何だってするから。
《side フィーリアス》
風邪引きました。
私、今まで結構色々あったと思う。特に前世の記憶が蘇ってからは、非常に怒涛な展開が続いていた。そんな中でも病気一つしなかった私は、身体が丈夫な方だと思う。
そんな私でしたが、常夏の国アクアラング国から帰国すると、一気に冬になっていたウェントゥス国の寒さにやられ、ガッツリと風邪をひいたのでした。
……病気なんてすっごく久しぶりだ……
考えてみたら、子どもの時に病気したぐらいだと思う。マジで頑丈だね私。
熱で朦朧とする意識の中、そんなことをうつらうつらと考えていた。
セリカが病気の時は、とパン粥を持ってきてくれたんだけど、前世日本人の感覚がばっちり蘇った私としては、ここは何がなんでも食べたいものがあった。
ーーーそれは、お粥だ。
お粥さんが食べたくて食べたくて食べたくて堪らない。
白いお米がくたくたに柔らかくなり、その白い中にある一粒の赤い梅干し……
柔らかいお米の感触と梅干しの酸っぱい味……
あぁ……お粥が食べたい~~~。
ジルが食べたいものを聞いてくれて、ついつい『お粥』と答えてしまったけど、『パン粥』ではないので、いらないって言った。
治ったら絶対シュテアネ様にお米を融通してもらおうと固く誓った。
でも、次に食べたいものをなんと叶えることができたのだ!
熱の時と言えば。
ーーー次は『りんごのすりおろし』に決まっているでしょう。
ジルに聞かれついつい食べたいものを答えたら、なんとジルは氷と一緒にりんごをすりおろしてくれた。朦朧としていたから覚えていないんだけど、多分風魔法を使ったのかな?
熱でとにかく熱くてしんどい身体には、染み入る美味しさだった。本当に本当にサイコーだった。
さすがジル様だ。抜かりが無さすぎるっ!
3日間熱が出ていた私をジルはすごく甲斐甲斐しく看病してくれたし、随分とジルに心配かけてしまったと思う。最初はへらへらしてたけど、段々熱でしんどくって、朦朧とする意識の中ジルがずっと心配そうにしていたのを感じていた。
本当、久々の病気はぐったりとしんどかった~!
やっぱり、元気が1番だよね!!
熱がひいてからはちょっと声が出にくいぐらいで他はなんとも無さそうだったけど、それから1週間は部屋から出ないで療養しておくように言われた。
ジルってば相変わらず過保護だよね~。
声は3日後には出るようになったんだけど、その間ジルと喋れないのがストレス満載だった。
でも、声も出るようになって体調も回復し出すと、こんなに部屋に篭っているのってジルに監禁された時以来かぁ、と懐かしさを感じるくらいの余裕が出てきた。
国務が終わって部屋に戻ってくるジルを待つ日々。
それ以外はベッドでゴロゴロと(だって療養中だもん!)本を読んだり昼寝をする日々。
……やばい~幸せすぎる~~
何だか、すっかり病気は良くなったのに、惰性で会社を休むサラリーマンの気分だ。
皆が働いている中悪いねぇ。私は休んでいるよ~。
どうせ完治したらまたお仕事の日々なのだから、それまでは心ゆくまで休むと決めたんだもん!
今日で1週間、予定では明日からはお仕事復帰だ。最後のお休みを満喫するため、今日もベッドでゴロゴロと本を読んでいたらジルが帰ってきた。
「あ、ジルおかえり~。お疲れ様~」
「フィー。顔色もだいぶ良くなったね。……明日から大丈夫そう? ……ずっと閉じ込めておいてごめんね」
何故かジルが謝ってくる。何でだろう?
「大丈夫だよ。すっかり体調も戻ったから、もう明日からお仕事復帰するね」
……非常に残念ですが……でも、ジルにばっかりお仕事させるのはいけないと思う!
私はやっと自分にエンジンがかかってきたのを自覚した。
……王太子妃やるぞー!! ファイトっオーっ!!
「あ、あのね、ジル看病してくれてありがとう」
そうそう、今回すごく私のお世話をしてくれたジルにキチンとお礼を言わないと。
「……フィー、良かった……どういたしまして、僕の奥さん」
そう言うと、ジルは甘い口付けをしてくれた。
おまけにもうすぐ私の誕生日なのもちゃんと覚えていてくれて、何でもお願い聞いてくれるらしいっ!
わーいわーい何にしようかなぁ~。
ーーーこの喜びで、明日から頑張れるぞ~!
朝起きたら、フィーの体温がいつもより高い気がした。目も何だかいつもより潤んでいるようだった。気になった僕は、すぐにセリカに侍医を呼ぶように指示をする。
「フィー、体調大丈夫? 今日はもう国務は休んでいいから」
「ん~、でも、まだアクアラング国との調整業務が残ってるんでしょ~?」
フィーは自分の体調の悪さに気が付いていない様だった。
「いいから。それは僕がやっておくから、フィーはとにかく今日は休んでね」
「え~、過保護だよジル」
フィーはにこにこしながら言っているけど、何だかふわふわした雰囲気からやはりいつもと様子が違うのが分かる。
僕はフィーの途中経過の様子を逐一報告するようにセリカ達侍女へお願いすると、国務へと向かった。
「ラクス、明日は謁見の予定は入っていないだろう? フィーの調子が悪そうだから、念のため明日は国務を休む。今日はその調整をするからよろしく頼む」
「フィーリアス様がどうかされたのですか?」
「……ちょっと朝から熱っぽかった。侍医を手配したから、まだ何とも言えないけど……」
僕は今週中の国務を洗い出しながらも、頭はフィーのことでいっぱいだった。とにかく、フィーが携わっている仕事についても内容を確認して、緊急性の高いものを捌いていくようにする。
フィーがゆっくり休めるようにしておかないと……僕は自分の国務についてもなるべく前倒しで捌いて、フィーの為にいつでも時間を空けれるようにしておく。
ガリガリ……
……フィーは大丈夫だろうか……
ガリガリガリ…………
……熱はどんな様子だろう。侍医の診断は何なのか……大病じゃないよな……
「……ジルヴェール様、もう昼になります。ご休憩をした方が」
「ん。もう終わる……これをセレソと兄上に。後、セリカ達から報告は?」
ーーコンコン
「失礼します」
噂をすれば、入ってきたのはセリカだった。
「フィーの様子は?」
僕はすぐ様フィーの様子を聞く。……もし大病だったら……どうしよう……
「はい、フィーリアス様はあれから熱がだいぶ上がられて……侍医の先生のお見立てですと、風邪だろうと。とにかく暖かくしてゆっくり休むようにとのお話でした」
「……分かった。ありがとう。僕も一度部屋に戻る。ラクスは先に昼食を食べておいていいから」
とりあえず、大病ではなさそうでホッと一息つく。フィーの様子が気になった僕は、一度部屋に戻る事にした。
部屋に戻ると、フィーは熱がだいぶ高いのだろう。今はベッドの上で寝ているけど、その呼吸がいつもより荒かった。
「フィーリアス様は食事もほとんど取れておりません。侍医の先生にも、とにかく水分補給はこまめに行うように言われてますので、起きていらっしゃる時になるべく口に含んでいただけるようにしております」
「……ありがとう、セリカ。引き続きよろしくね」
「はいっ!」
セリカは凛々しい顔で大きく頷いた。とにかく今日は侍女たちに任せるしかない……
僕は執務室へと戻ると、手早く昼食を取るとそのまま再び仕事を捌き始めた。
でも、頭の中はやっぱりフィーの事でいっぱいだった……
その晩部屋に戻ると、フィーは起きているようだった。僕はフィーの所へ素早く駆け寄った。
「フィーっ! 大丈夫?」
「あ~じる~……うん、だいじょうぶだよ~」
顔は赤く目がトロンとしている。喋り方からも全然大丈夫に思えない。
僕はフィーのおでこに手を当てた。まだかなり熱かった……
「じるの手、つめたくて……きもちいいね~」
フィーは気持ち良さそうにそう言うと、目を閉じた。まだまだ熱が高いせいか、呼吸も荒い。
「セリカ、フィーの夕食は?」
「……はい、パン粥を準備したのですが、ほとんどお召し上がりになりませんでした……」
「……そう…フィー、何か食べれるものある?」
「ん~……おかゆ……ううん……いまはいいかな……」
とにかく、水分だけは飲ませないと脱水症状になってしまう。僕はフィーを抱き起すと、そっとレモン水を口元へ持っていく。
「ん……おいし……」
フィーは少しだけ口に含むと、すぐにくったりとする。身体中が熱を持っているフィーの身体は、かなり熱かった。
「セリカ、今晩は僕がフィーの世話をするから、ここに準備しておいてね」
「……いいよ~……じるにかぜ、うつしたらいけないから、きょうは……あっちのへやで、ねて~」
「フィー、何言ってるの。そんな事する訳ないでしょ。というか、僕にうつした方が早く治ると思うよ」
まだ納得できていないフィーを無理やり寝かし付けると、僕はフィーのおでこに水で濡らして絞ったタオルをのせた。
少し気持ちよさそうにするフィーの顔を見て僕は少しだけホッとした。
その晩は『闇の石』の灯りをずっと灯したまま、時々仮眠を取りながらフィーの看病をした。
翌朝になってもフィーの熱は下がらなかった。むしろ、昨日よりも高そうだった。
「……はっ……は……」
呼吸も荒く、フィーはかなりぐったりとしんどそうだった。
「……フィー……水分だけは取らないといけないから……飲んで…」
「……ん……」
水分もあまり口に含まないフィーに、僕は心配で堪らなくなってくる。
「……フィー、何なら口に出来そう?」
「……りんご……すりおろしたの……」
……
りんごをすりおろす??
……
僕は、セリカにりんごと氷を持ってきてもらうと、りんごの皮を剥いていく。
ーーーズパパパッ……!ガガガッ……!!
剥いたりんごと氷と風の魔法で細かく切り刻んでいき、器に入れる。
「……フィー。これならどう?」
「……ふわぁ~……おいしい……凄いよ~じる~。これさいこ~だよぉ」
フィーは美味しそうに口に含んでいく。冷たいから食べやすいのだろう。氷を持ってきてもらってよかった。
フィーは半分ほど食べると、満足したようでそのまま眠りについた。先ほどよりも呼吸が少しだけ落ち着いていた。
僕も口に含んでみる。なるほど、やっぱり氷がある方が冷たくて食べやすいんだろう。だけど氷が多すぎても水っぽくなり過ぎてしまう。氷とりんごの配分を計算していった。
眠るフィーのおでこや顔にそっと触れてみる。まだ身体は熱を持っていて、熱で苦しいのか閉じた瞼と睫毛が、時折ふるふると揺れる。
その日、フィーの熱は下がらなかった。その晩も看病をしたけれど、ずっとフィーが気になっていた僕は、ほとんど眠る事ができなかった。
翌朝、まだまだ熱の高そうなフィーに後ろ髪をひかれたけど、午前中に陛下との謁見があったため、フィーの事を侍女達に任せて僕は国務へと向かった。
……午前中の謁見を終わらせたら、すぐにフィーの所へ戻ろう……
僕は謁見を最短で終わらせるシナリオを頭で立て、ついでに残った国務をどう捌くかを計算しながら陛下の元へと向かった。
そのまま最短で謁見を終わらせると、執務室に戻って残った国務を捌いていく。国務を捌きながらも、どうやったらフィーがもっと『りんごのすりおろし』を食べてくれるかを思案する。
僕はフィーの看病の時間が最大限取れるスケジュールを、頭の中で組み立てていった。
午前中に仕事を捌き終えると、急いでフィーの寝ている部屋へと戻る。
フィーはまだ熱で苦しそうな様子だった。
「フィーリアス様は今朝からずっとあのご様子で、お食事もほとんどお召し上がりになっておりませんわ」
「ありがとうエステラ。とにかく今日の昼からと明日の昼までは僕がフィーの看病をするから。皆はうつってはいけないし、あまり近づかないようにね」
「かしこまりましたわ。……ですが、ジルヴェール様もきちんと休息を取ってくださいませ」
そう言うとエステラは部屋から出て行った。
「……フィー……」
僕はまだ熱いフィーの頭を撫でながら、そっと呟いた。
フィーはただの風邪だ。すぐ治る。
……でも、もし。万が一、フィーがこのまま……
僕は自分の頭に浮かんでくる恐ろしい考えを、なんとか打ち消した。
フィーのいないこの世の中で、僕は自分が生きていけるなんて思わない。
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フィーの頭をゆっくり撫でながら、早くフィーが治るようにと懸命に神に祈りを捧げたーーー
その晩も時々『りんごのすりおろし』を求めるフィーに応じて、何度かフィーに食べさせた。
これならフィーも口に含めるようだったので、蜂蜜を入れてみたりして、フィーが食べやすくかつ、栄養を補給できるように改善していった。
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そのままフィーの寝顔を見つめていると、ぴくりと瞼が動いたと思ったら、うっすらと目が開く。
「……ジ……ぁあ……」
「……フィー。熱はもう下がったみたいだよ……声が出ない?」
こくこくとフィーが頷く。どうやら喉をやられたようだ。
「無理して喋らなくていいよ。……ん? 何?」
どうも汗をびっしょりとかいている様で、気持ち悪くて着替えたいようだ。
「じゃあ、ちょっと着替えの合間に軽くタオルで身体を拭こうね」
そう言うとフィーはとても嬉しそうな顔をした。
フィーの夜着を脱がし、お湯で温めたタオルで全身を優しく拭いていく。
3日間ほとんど食べていないせいで、いつもほっそりとくびれた腰が、今や抱きしめると折れそうなほど細くなっている。
全体的に一回り以上細くなった身体のフィーを見て、僕は胸が痛んで泣きそうになる。
何とか僕の動揺をフィーに気取られる事なく着替えを済ませると、フィーに笑って話しかける。
「今日は昼から国務の仕事へ戻るんだけど、フィーは今日から1週間は部屋から出ちゃだめだよ? 何かある時は侍女がいるから呼び鈴を鳴らして呼ぶんだよ。フィーの仕事は僕がしてるから、気にしないでいいからゆっくり休んでね」
ちょっと食欲の出たフィーにご飯を食べさせると、僕は昼からの国務へと出て行った。
それから、1週間フィーは大人しくずっと部屋に篭っていた。
僕が部屋に戻ると、ベッドにいるフィーは嬉しそうな顔をして出迎えてくれる。
それは、僕が時折フィーを閉じ込めたいと願っていた事の体現だった。
……でも、こんな形で閉じ込めても全然嬉しく思えない自分がいる……
僕があんな事願ってしまったから、こんな事になってしまったのだろうか……
僕はあんな事を願ってしまったことが申し訳なくなってしまい、フィーに思わず謝罪してしまった。
でも、フィーは僕が看病した事を喜んでいて、お礼を言ってくれる。
フィーが元気でいてくれることこそ、僕の本当の願いだから……
「……フィー、良かった……どういたしまして、僕の奥さん」
僕はそう言うと、フィーに久しぶりに口付けをした。
「もうすぐフィーの誕生日だね。何がいいか考えておいてね。フィーのお願い何でも聞くからね」
僕はにっこり笑うと、フィーにそう言った。
ーーー愛するフィーリアスのためなら、何だってするから。
《side フィーリアス》
風邪引きました。
私、今まで結構色々あったと思う。特に前世の記憶が蘇ってからは、非常に怒涛な展開が続いていた。そんな中でも病気一つしなかった私は、身体が丈夫な方だと思う。
そんな私でしたが、常夏の国アクアラング国から帰国すると、一気に冬になっていたウェントゥス国の寒さにやられ、ガッツリと風邪をひいたのでした。
……病気なんてすっごく久しぶりだ……
考えてみたら、子どもの時に病気したぐらいだと思う。マジで頑丈だね私。
熱で朦朧とする意識の中、そんなことをうつらうつらと考えていた。
セリカが病気の時は、とパン粥を持ってきてくれたんだけど、前世日本人の感覚がばっちり蘇った私としては、ここは何がなんでも食べたいものがあった。
ーーーそれは、お粥だ。
お粥さんが食べたくて食べたくて食べたくて堪らない。
白いお米がくたくたに柔らかくなり、その白い中にある一粒の赤い梅干し……
柔らかいお米の感触と梅干しの酸っぱい味……
あぁ……お粥が食べたい~~~。
ジルが食べたいものを聞いてくれて、ついつい『お粥』と答えてしまったけど、『パン粥』ではないので、いらないって言った。
治ったら絶対シュテアネ様にお米を融通してもらおうと固く誓った。
でも、次に食べたいものをなんと叶えることができたのだ!
熱の時と言えば。
ーーー次は『りんごのすりおろし』に決まっているでしょう。
ジルに聞かれついつい食べたいものを答えたら、なんとジルは氷と一緒にりんごをすりおろしてくれた。朦朧としていたから覚えていないんだけど、多分風魔法を使ったのかな?
熱でとにかく熱くてしんどい身体には、染み入る美味しさだった。本当に本当にサイコーだった。
さすがジル様だ。抜かりが無さすぎるっ!
3日間熱が出ていた私をジルはすごく甲斐甲斐しく看病してくれたし、随分とジルに心配かけてしまったと思う。最初はへらへらしてたけど、段々熱でしんどくって、朦朧とする意識の中ジルがずっと心配そうにしていたのを感じていた。
本当、久々の病気はぐったりとしんどかった~!
やっぱり、元気が1番だよね!!
熱がひいてからはちょっと声が出にくいぐらいで他はなんとも無さそうだったけど、それから1週間は部屋から出ないで療養しておくように言われた。
ジルってば相変わらず過保護だよね~。
声は3日後には出るようになったんだけど、その間ジルと喋れないのがストレス満載だった。
でも、声も出るようになって体調も回復し出すと、こんなに部屋に篭っているのってジルに監禁された時以来かぁ、と懐かしさを感じるくらいの余裕が出てきた。
国務が終わって部屋に戻ってくるジルを待つ日々。
それ以外はベッドでゴロゴロと(だって療養中だもん!)本を読んだり昼寝をする日々。
……やばい~幸せすぎる~~
何だか、すっかり病気は良くなったのに、惰性で会社を休むサラリーマンの気分だ。
皆が働いている中悪いねぇ。私は休んでいるよ~。
どうせ完治したらまたお仕事の日々なのだから、それまでは心ゆくまで休むと決めたんだもん!
今日で1週間、予定では明日からはお仕事復帰だ。最後のお休みを満喫するため、今日もベッドでゴロゴロと本を読んでいたらジルが帰ってきた。
「あ、ジルおかえり~。お疲れ様~」
「フィー。顔色もだいぶ良くなったね。……明日から大丈夫そう? ……ずっと閉じ込めておいてごめんね」
何故かジルが謝ってくる。何でだろう?
「大丈夫だよ。すっかり体調も戻ったから、もう明日からお仕事復帰するね」
……非常に残念ですが……でも、ジルにばっかりお仕事させるのはいけないと思う!
私はやっと自分にエンジンがかかってきたのを自覚した。
……王太子妃やるぞー!! ファイトっオーっ!!
「あ、あのね、ジル看病してくれてありがとう」
そうそう、今回すごく私のお世話をしてくれたジルにキチンとお礼を言わないと。
「……フィー、良かった……どういたしまして、僕の奥さん」
そう言うと、ジルは甘い口付けをしてくれた。
おまけにもうすぐ私の誕生日なのもちゃんと覚えていてくれて、何でもお願い聞いてくれるらしいっ!
わーいわーい何にしようかなぁ~。
ーーーこの喜びで、明日から頑張れるぞ~!
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