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50.友愛と愛念〔1〕sideジルヴェール
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はぁ……本当自分が情けなくって嫌になる……
まさかフィーが助けにくるとは全く予想していなかった僕は、フィーのその行動力に惚れ直してしまった。
フィーの思考回路は本当に僕には読めない。
こんな国すぐに去りたかった僕は、まだまだ本調子ではない身体を押して国交回復の条約を結ぶとすぐに帰国の途についた。
グラキエス1人に全てを押し付けたこの国に腹は立つものの、ルーメン王太子は身体が回復すればそこそこ使えそうなので、早く姉のグラキエスを助けるようになって欲しい。
媚薬の効果と鞭打ちの傷はフィーの治癒魔法で治ったけれど、ずっと薬漬けにされ蓄積されたダメージは回復しなかったため、帰りの馬車でも情けない事に熱を出して寝ている事がほとんどだった。
はぁ。せっかくフィーに会えたのに、全然フィーを構えない……
だけど、こんな情けない僕をフィーは甲斐甲斐しく世話をしてくれた。僕の体調を気遣って、馬車では膝枕をしてくれたり、ご飯を食べさせてくれたり。
まるで、フィーを連れ去った時のように世話をしてくれるフィーに、僕は嬉しいけど申し訳ない気持ちにもなった。フィーが無理していなければいいんだけど……
でも、小さい頃病気をしても誰にも心配されたことがなかった僕は、愛する人にこんなに心配されて、くすぐったいような胸がホワホワする気持ちになった。
フィーはなんだか今回の件でとても成長したように思えた。
フィーが闇属性も持つことになった事にすごく驚いたけど、今のフィーを見て得心する。光と闇はどちらも必要で、そのバランス感覚が優れているフィーだからこそ闇属性も与えられたのだろう。
ウェントゥス国へやっと帰国すると、フィーには反対されたけど、僕はすぐに国務へと取り掛かった。
情けない自分を国務で紛らわそうとしている部分があったことは間違いない。
でも体調もしっかりと回復させる。早く本調子になってフィーを思いっきり抱きたいから……
暫くしてやっと体調がほとんど元通りになった僕だったけど、一つだけ気になることがあった。
それが解決しないと、なんだかフィーを思いっきり抱けない気がした。
……それは、ラクスとフィーの関係だった。
帰国の時から、ラクスがフィーを仕切りに気にしていた。その様子を見て、僕はモヤモヤする気持ちが抑えられなかった。
何もなかったことは分かっている。でも、それならなぜラクスはあんなにフィーを見つめるのだろう。
あんな眼差しは、ウェントゥス国では見せたことがなかった。
ラクスに限って、僕を裏切ることはしない。でも、ラクスがフィーに惹かれていたら……
僕は悩みに悩んで、結局ラクスと2人で話すことにした。
ラクスに辛い思いをさせているなら、僕も考えなければならない……
僕が2人きりで話したいと言ったら、ラクスはどこかほっとしたような顔をしていた。
「……ラクス。お前は僕に何か言いたいことがあるんじゃないか? ……いや、悪い。こんな言い方良くないな。……フィーを見つめるお前の目が気になって仕方がないんだ……何か僕に言えないことがあるのか? ……言いにくいことでも、言って欲しい。ラクスは僕にとって大切な、友達、だから……」
「……っジルヴェール様っ! ……すいません。私が……ついていながら……フィーリアス様を……」
ラクスはそう言うと、そのまま腹でも切りそうな勢いで僕に跪いてきた。
「…っラクスっ! ……とりあえず話を聞かせてくれ……」
僕は、早鐘のように鳴る自分の鼓動を感じながら、ラクスに座るように促した。
「……ソルム国への旅の途中で、フィーリアス様がジルヴェール様に申し上げていないことがあります。フィーリアス様はあえてジルヴェール様にお話されていない為、私が勝手に報告する事はフィーリアス様を裏切る事になります……ですが、私はジルヴェール様を謀りたくないのです。……お願いします。この話を聞いても、どうかフィーリアス様を責めないでください。彼の方もジルヴェール様に言えない訳があったのです……」
……ラクスは、何を言おうとしているのだろう……僕は目の前が真っ暗になっていくような気がした……
「……ラクス、続けて……」
僕は、何とか震える声と自分の気持ちを抑えてラクスを促した。
聞きたくない気持ちと聞かなければならない気持ちで揺れ動く。
「……はい。実は、2日目の夜、私が目を離した際にフィーリアス様が暴漢に襲われました。私が駆け付けた時、フィーリアス様は顔を殴られ、首には絞められた跡があり、また服も破られた状態でした。……私がお側についていながら、あのような事になってしまい、ジルヴェール様になんと言えばいいのかっ!」
ーーーバリィンっ!!!!
「っジルヴェール様っ!」
……っは!
いけないっ!!!
僕は慌てて自分の魔法を制御した。
自分でも気が付かないうちに魔法を行使していたらしく、部屋に置いてあった花瓶が粉々に割れていた。
……攻撃する魔法を無意識に使ったことは初めてだ。
「……ラクス、すまない。……怪我は!?」
「いえ、私は大丈夫です。……部屋の花瓶が割れてしまいましたが」
危なかった……ここまで自分を制御できなかった事はない。
「……その暴漢はどうした?」
僕は、腹の底から湧き出る怒りを抑えるのに必死だった。
「……それが、暴漢はデアの被害者でもあって、フィーリアス様は彼を許し、あまつさえ負傷した彼の傷を癒やしその命を救いました」
「……フィー」
僕は湧き出ていた怒りが、瞬時に引いていくのを感じた。
……本当に、フィーはお人好しというか、危なっかしいというか……
「フィーリアス様はとても無理をされるお方です。ジルヴェール様を探しに行くと決心されたフィーリアス様は、私たち配下のものにも気を遣ってくださいました。本当にお辛いのはフィーリアス様なのに……それなのに、私はフィーリアス様をお守り出来なかったのですっ! あんな、あのようなお姿で……なのに彼の方は私の心配をされるのです……」
ラクスは、そう言うとボロボロと涙を流した。
ラクスがこんなに泣いているのを初めて見た……
「ラクス……すまない。全ては僕が不甲斐ないせいだ……」
「っ! そのようなことはありませんっ! 私がもっと気を付けていれば、フィーリアス様をあのような目に合わせなかったのに……」
……僕は、少しでもラクスを勘ぐった自分を恥じた。
「ラクス。お前のおかげでフィーと僕はまたこうして会うことができた。お前以外では決して出来ない事だった。お前が僕の側にいてくれて本当に良かった。……ラクス、ありがとう。これからもよろしく頼む」
「……っ! 私のような者でよければ……次は必ず、ジルヴェール様もフィーリアス様もお守りしてみせます」
「あぁ。期待しているぞ」
僕には、もう1人守るべき大切な心からの友ができたーーー
ラクスから話を聞いた僕が、フィーをそのままにしておけるはずがなかった。
……フィー。フィーリアス。何よりも大切な人……
彼女が傷付けられた時、僕はそばに居て守ることが出来なかった……
僕はそれが悔しくて悔しくて……ラクスがあんなに泣くぐらいだ。殴られた彼女はとても痛ましかったのだろう。
その姿を想像しただけで、胸が張り裂けそうな痛みに襲われる。
夜、やっと会えたフィーと寝室で話をする。
フィーはどこか僕の様子が違うことに気が付いたようだ。
「ジル? どうしたの? まだどこか具合がおかしい? 私の治癒魔法使ってみようか? 上手くいくか分かんないけど……」
フィーは心底心配そうに僕の顔を覗き込みながら、その柔らかい肢体を擦り寄せてくる。
フィーは本当に可愛いことを言ってくれる。僕は今回の件で一つだけ感謝することがある。それは、フィーがどれほど僕を愛してくれているかよく分かった事だ。
ーーーフィーは、僕が思っていた以上に僕の事を想ってくれていた。
ずっとフィーを見つめ続けていた僕は、勝手に僕の方がフィーを愛しているのだと思っていた。
だけど、フィーもまた、僕のことをとても深く愛してくれていた。
……本当に。
それは本当に、嬉しいという言葉では表しきれないほどの喜びだった……
「大丈夫。それより、ラクスに聞いたよ。ーーー殴られたの?」
途端にフィーの顔が強張る。
「うぅっ! それは、その……言おうとは思ってたの……ウェントゥス国に帰国したらって……その、心配かけたくなくて……ほらっ! 治癒魔法ですぐ治っちゃったから大丈夫っ! あ! 変なことはされーーたけど、されてないよっ! ちょっと殴られて首絞められて胸掴まれただけだからっ!」
慌てて言うフィーが可愛い。でも、やっぱりフィーがそんな酷いことをされたと思うと、怒りがふつふつと湧いてくる。
僕の怒りを見てとったフィーは、益々慌てたように言い募る。
「……ほらっ! 大丈夫だからっ! 元気だからっ! もう謝ってもらったし本当に大丈夫っ!!」
「……じゃあ、本当に大丈夫か身体の隅々まで確認してもいい?」
……僕の大事な大事なフィーが傷付けられたのは許せないけど、僕はフィーを守れなかった僕自身も許せない。
僕は決めた。これからは、絶対にフィーの傍を離れないことを。僕が絶対にフィーを守る。
フィーと離れていてフィーに何かあった時、僕は絶対に後悔するから……
そう決心しながら、まだビクビクしているフィーの夜着をゆっくりと剥いでいく。
僕がフィーの夜着を剥いでいくと、フィーは躊躇いながら口を開いた。
「……あのね…あのね、ジル……私、ジルとの約束守れなかったの……私……人に攻撃する魔法を使用したの……」
フィーはそう言うと、その小さい唇を震わせながら、ぽたぽたと涙を溢した。
「フィー……」
涙に濡れるその頬を両手で包み込むと、僕は小さく震えるフィーを抱きしめた。
「……ごめんね。フィー。全部僕のせいだ。……フィーに約束させてしまったけど、僕はフィーが1番大事だから。この世の誰よりもフィーだけが大切だから。だから、そんなフィーに何か危険なことがあったら、躊躇いなくその魔法を使用して、絶対に絶対に……死なないでほしい。また、勝手な約束をさせてしまってごめんね。でも、次からは絶対に僕がフィーを守るから」
そう言うと、僕の腕の中にいる誰よりも大切な人を、ぎゅっと抱きしめた。
フィーは、僕の腕の中で小さく震えながら泣いていた。
ーーーそんなフィーを心から愛しく想った。
まさかフィーが助けにくるとは全く予想していなかった僕は、フィーのその行動力に惚れ直してしまった。
フィーの思考回路は本当に僕には読めない。
こんな国すぐに去りたかった僕は、まだまだ本調子ではない身体を押して国交回復の条約を結ぶとすぐに帰国の途についた。
グラキエス1人に全てを押し付けたこの国に腹は立つものの、ルーメン王太子は身体が回復すればそこそこ使えそうなので、早く姉のグラキエスを助けるようになって欲しい。
媚薬の効果と鞭打ちの傷はフィーの治癒魔法で治ったけれど、ずっと薬漬けにされ蓄積されたダメージは回復しなかったため、帰りの馬車でも情けない事に熱を出して寝ている事がほとんどだった。
はぁ。せっかくフィーに会えたのに、全然フィーを構えない……
だけど、こんな情けない僕をフィーは甲斐甲斐しく世話をしてくれた。僕の体調を気遣って、馬車では膝枕をしてくれたり、ご飯を食べさせてくれたり。
まるで、フィーを連れ去った時のように世話をしてくれるフィーに、僕は嬉しいけど申し訳ない気持ちにもなった。フィーが無理していなければいいんだけど……
でも、小さい頃病気をしても誰にも心配されたことがなかった僕は、愛する人にこんなに心配されて、くすぐったいような胸がホワホワする気持ちになった。
フィーはなんだか今回の件でとても成長したように思えた。
フィーが闇属性も持つことになった事にすごく驚いたけど、今のフィーを見て得心する。光と闇はどちらも必要で、そのバランス感覚が優れているフィーだからこそ闇属性も与えられたのだろう。
ウェントゥス国へやっと帰国すると、フィーには反対されたけど、僕はすぐに国務へと取り掛かった。
情けない自分を国務で紛らわそうとしている部分があったことは間違いない。
でも体調もしっかりと回復させる。早く本調子になってフィーを思いっきり抱きたいから……
暫くしてやっと体調がほとんど元通りになった僕だったけど、一つだけ気になることがあった。
それが解決しないと、なんだかフィーを思いっきり抱けない気がした。
……それは、ラクスとフィーの関係だった。
帰国の時から、ラクスがフィーを仕切りに気にしていた。その様子を見て、僕はモヤモヤする気持ちが抑えられなかった。
何もなかったことは分かっている。でも、それならなぜラクスはあんなにフィーを見つめるのだろう。
あんな眼差しは、ウェントゥス国では見せたことがなかった。
ラクスに限って、僕を裏切ることはしない。でも、ラクスがフィーに惹かれていたら……
僕は悩みに悩んで、結局ラクスと2人で話すことにした。
ラクスに辛い思いをさせているなら、僕も考えなければならない……
僕が2人きりで話したいと言ったら、ラクスはどこかほっとしたような顔をしていた。
「……ラクス。お前は僕に何か言いたいことがあるんじゃないか? ……いや、悪い。こんな言い方良くないな。……フィーを見つめるお前の目が気になって仕方がないんだ……何か僕に言えないことがあるのか? ……言いにくいことでも、言って欲しい。ラクスは僕にとって大切な、友達、だから……」
「……っジルヴェール様っ! ……すいません。私が……ついていながら……フィーリアス様を……」
ラクスはそう言うと、そのまま腹でも切りそうな勢いで僕に跪いてきた。
「…っラクスっ! ……とりあえず話を聞かせてくれ……」
僕は、早鐘のように鳴る自分の鼓動を感じながら、ラクスに座るように促した。
「……ソルム国への旅の途中で、フィーリアス様がジルヴェール様に申し上げていないことがあります。フィーリアス様はあえてジルヴェール様にお話されていない為、私が勝手に報告する事はフィーリアス様を裏切る事になります……ですが、私はジルヴェール様を謀りたくないのです。……お願いします。この話を聞いても、どうかフィーリアス様を責めないでください。彼の方もジルヴェール様に言えない訳があったのです……」
……ラクスは、何を言おうとしているのだろう……僕は目の前が真っ暗になっていくような気がした……
「……ラクス、続けて……」
僕は、何とか震える声と自分の気持ちを抑えてラクスを促した。
聞きたくない気持ちと聞かなければならない気持ちで揺れ動く。
「……はい。実は、2日目の夜、私が目を離した際にフィーリアス様が暴漢に襲われました。私が駆け付けた時、フィーリアス様は顔を殴られ、首には絞められた跡があり、また服も破られた状態でした。……私がお側についていながら、あのような事になってしまい、ジルヴェール様になんと言えばいいのかっ!」
ーーーバリィンっ!!!!
「っジルヴェール様っ!」
……っは!
いけないっ!!!
僕は慌てて自分の魔法を制御した。
自分でも気が付かないうちに魔法を行使していたらしく、部屋に置いてあった花瓶が粉々に割れていた。
……攻撃する魔法を無意識に使ったことは初めてだ。
「……ラクス、すまない。……怪我は!?」
「いえ、私は大丈夫です。……部屋の花瓶が割れてしまいましたが」
危なかった……ここまで自分を制御できなかった事はない。
「……その暴漢はどうした?」
僕は、腹の底から湧き出る怒りを抑えるのに必死だった。
「……それが、暴漢はデアの被害者でもあって、フィーリアス様は彼を許し、あまつさえ負傷した彼の傷を癒やしその命を救いました」
「……フィー」
僕は湧き出ていた怒りが、瞬時に引いていくのを感じた。
……本当に、フィーはお人好しというか、危なっかしいというか……
「フィーリアス様はとても無理をされるお方です。ジルヴェール様を探しに行くと決心されたフィーリアス様は、私たち配下のものにも気を遣ってくださいました。本当にお辛いのはフィーリアス様なのに……それなのに、私はフィーリアス様をお守り出来なかったのですっ! あんな、あのようなお姿で……なのに彼の方は私の心配をされるのです……」
ラクスは、そう言うとボロボロと涙を流した。
ラクスがこんなに泣いているのを初めて見た……
「ラクス……すまない。全ては僕が不甲斐ないせいだ……」
「っ! そのようなことはありませんっ! 私がもっと気を付けていれば、フィーリアス様をあのような目に合わせなかったのに……」
……僕は、少しでもラクスを勘ぐった自分を恥じた。
「ラクス。お前のおかげでフィーと僕はまたこうして会うことができた。お前以外では決して出来ない事だった。お前が僕の側にいてくれて本当に良かった。……ラクス、ありがとう。これからもよろしく頼む」
「……っ! 私のような者でよければ……次は必ず、ジルヴェール様もフィーリアス様もお守りしてみせます」
「あぁ。期待しているぞ」
僕には、もう1人守るべき大切な心からの友ができたーーー
ラクスから話を聞いた僕が、フィーをそのままにしておけるはずがなかった。
……フィー。フィーリアス。何よりも大切な人……
彼女が傷付けられた時、僕はそばに居て守ることが出来なかった……
僕はそれが悔しくて悔しくて……ラクスがあんなに泣くぐらいだ。殴られた彼女はとても痛ましかったのだろう。
その姿を想像しただけで、胸が張り裂けそうな痛みに襲われる。
夜、やっと会えたフィーと寝室で話をする。
フィーはどこか僕の様子が違うことに気が付いたようだ。
「ジル? どうしたの? まだどこか具合がおかしい? 私の治癒魔法使ってみようか? 上手くいくか分かんないけど……」
フィーは心底心配そうに僕の顔を覗き込みながら、その柔らかい肢体を擦り寄せてくる。
フィーは本当に可愛いことを言ってくれる。僕は今回の件で一つだけ感謝することがある。それは、フィーがどれほど僕を愛してくれているかよく分かった事だ。
ーーーフィーは、僕が思っていた以上に僕の事を想ってくれていた。
ずっとフィーを見つめ続けていた僕は、勝手に僕の方がフィーを愛しているのだと思っていた。
だけど、フィーもまた、僕のことをとても深く愛してくれていた。
……本当に。
それは本当に、嬉しいという言葉では表しきれないほどの喜びだった……
「大丈夫。それより、ラクスに聞いたよ。ーーー殴られたの?」
途端にフィーの顔が強張る。
「うぅっ! それは、その……言おうとは思ってたの……ウェントゥス国に帰国したらって……その、心配かけたくなくて……ほらっ! 治癒魔法ですぐ治っちゃったから大丈夫っ! あ! 変なことはされーーたけど、されてないよっ! ちょっと殴られて首絞められて胸掴まれただけだからっ!」
慌てて言うフィーが可愛い。でも、やっぱりフィーがそんな酷いことをされたと思うと、怒りがふつふつと湧いてくる。
僕の怒りを見てとったフィーは、益々慌てたように言い募る。
「……ほらっ! 大丈夫だからっ! 元気だからっ! もう謝ってもらったし本当に大丈夫っ!!」
「……じゃあ、本当に大丈夫か身体の隅々まで確認してもいい?」
……僕の大事な大事なフィーが傷付けられたのは許せないけど、僕はフィーを守れなかった僕自身も許せない。
僕は決めた。これからは、絶対にフィーの傍を離れないことを。僕が絶対にフィーを守る。
フィーと離れていてフィーに何かあった時、僕は絶対に後悔するから……
そう決心しながら、まだビクビクしているフィーの夜着をゆっくりと剥いでいく。
僕がフィーの夜着を剥いでいくと、フィーは躊躇いながら口を開いた。
「……あのね…あのね、ジル……私、ジルとの約束守れなかったの……私……人に攻撃する魔法を使用したの……」
フィーはそう言うと、その小さい唇を震わせながら、ぽたぽたと涙を溢した。
「フィー……」
涙に濡れるその頬を両手で包み込むと、僕は小さく震えるフィーを抱きしめた。
「……ごめんね。フィー。全部僕のせいだ。……フィーに約束させてしまったけど、僕はフィーが1番大事だから。この世の誰よりもフィーだけが大切だから。だから、そんなフィーに何か危険なことがあったら、躊躇いなくその魔法を使用して、絶対に絶対に……死なないでほしい。また、勝手な約束をさせてしまってごめんね。でも、次からは絶対に僕がフィーを守るから」
そう言うと、僕の腕の中にいる誰よりも大切な人を、ぎゅっと抱きしめた。
フィーは、僕の腕の中で小さく震えながら泣いていた。
ーーーそんなフィーを心から愛しく想った。
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