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46.ソルム国編〔6〕
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扉の向こうには、横たわったジルに多い被さるように女がいた。
女は、ジルの頬を舐め上げていた。
「っっっ!!!! 私のジルに何すんのよっ!!!!」
今までになくブチ切れた私は、自分の怒りからくる勢いに任せ、思い切り魔法を解き放った。
ーーーーーーーーッッッガシャァァンッッッ
気がつくと床がびっしょりと水に濡れ、部屋の周りにあった石は粉々に砕けていた。
「……っなっ!」
全く水に濡れていない女は、驚いたようにこっちを見ている。
「あんたその髪色はフィーリアスね!? デアは何やってんのっ!?」
いやいや、てか、あなたこそ誰ですかっ! 人の旦那の顔舐める変態に名前を呼ばれたくないっ!
「…フィー。こいつは第二王女ソルスターニアだ……闇の魔法で自分への攻撃魔法を全て吸収する……恐らく、部屋の石はその力を吸収させていて、部屋自体にも魔法吸収効果を付与させていた……」
「……ジルっ!」
流石ジルだ。私の顔色を瞬時に判断して、知りたい情報を全部くれた。
とりあえず部屋の石は全部砕け散ったから、部屋自体の吸収効果はもう無いと思われる。
というか、怒りに任せて放った魔法で横たわっていたジルもびしょびしょになっていた。
……ごめんねジル、水浴びしたとでも思って貰いたい……
「……このぉっ!」
女が私に手を伸ばしてくる。なんか嫌なものを感じた。さっきフラン陛下にもちゃんと教えもらっている。
私は手の先から光を出す。闇を祓う光のイメージだっ!
「……っつ! あんたまさか、光属性も持ってるの!?」
そう言うと、どこからか黒石のようなもので出来たゴツい釘を取り出した。それを私の影に突き刺す。
でも、そこに光を放つ。
ーーーッパァンッ!!
釘が粉々に砕けた。
恐らく、さっき動けなかったのは影に釘を刺されたからだ。本人が直接操る、もしくは影に釘を刺すことによって、私たちの影を縛って動けなくしていたのだろう。
さっきデアが投げたのも太い釘みたいな物だった。
ソルスターニアは、自身の魔法が効かないと思ったのだろう。釘を取り出すと、こちらに向けてくる。
……まさに呪いの構図で、本当にデアと揃って気持ち悪いと思った。
だけど、所詮令嬢同士の肉弾戦。そんな戦士みたいな動きができるわけがない。
ジルがソルム国に出立する前に、心配性のジルに護身術を叩き込まれていた私は、ちょっとした動きならできる。……はず。特に相手はただの令嬢だ。
釘を持って私に向かってくる相手の動きを冷静に見つめ、直前で横に体をいなすと、その勢いのままソルスターニアは倒れ込んだ。
元祖悪役令嬢を舐めんなっ!
第二王女のソルスターニアはこんな訓練受けたことないのだろう。ま、私も付け焼き刃なだけだけど。
倒れ込んだ衝撃で蹲ったままだ。
「うぅぅ。なんで……そんなわけない……闇は……闇はこんなもんじゃないっ! あんなたのその光、私が奪ってやるからっ!!」
ソルスターニアがそう叫ぶと、私は黒いもので覆われて目の前が真っ暗になった。
ーーーここは?
そこは暗いけど暗くない、なんだか宇宙のような空間だった。
『その光を奪ってやるっ!』
この声は、きっとソルスターニアだ。耳から聞こえるというよりも、なんだか直接響いてくる感じだ。声から感じる闇のドロドロは気持ち悪い。
『お前だって闇を抱えているくせにっ! 何が光よっ』
『ーーーそうよ。私にも闇がある。光と闇は表裏一体だもの。私も、攻撃したり、嫉妬したり闇を抱えている。でも、そんな自分を素直に受け入れてる。そんな汚い自分も自分だって。光があって闇があるもの。闇があるからこそ光がより強く輝く。……あなたに光はないの?』
『あるわけないっ! 闇だけで十分だわっ! 光なんて所詮まやかしでしかないわっ!! 綺麗事よ!』
『……光も闇も、どちらもヒトにはあるのに……どっちの自分も自分だわ』
光を拒否し、本当は光を求めたい自分の気持ちを素直に認めれないソルスターニア。
光を欲しているのに、その光を拒絶する。
そんな矛盾に気がつかない彼女の事を、最後まで気持ち悪いなぁと思った。
本当の闇の先には、安らぎがあるのにーーー
……ソルスターニアの存在が遠くなっていくのを感じる。
闇の安らぎを感じ、そこで意識が途絶えた……
……
フィーっ!……
どこかで呼ばれる声がした。
「……っフィーっ! 大丈夫?」
気絶していたらしい私は、目を開けると心配そうに私を覗き込むジルの瞳と目があった。
「……ジル?」
「…良かったっ! 本当にフィーだ。幻じゃないっ!」
ジルはそう言いながら私に覆い被さると、唇に口付けをしてきた。そして、性急な動きで舌を割り入れてくる。
「……っんんっ……ジルっ……!」
気が付くと、私は強くジルを抱きしめて、お互いに深い口付けを交わしていた。
「……はぁ……フィー……フィー……」
ジルは、見ると酷い有様だった。頬は痩け上半身に打たれたような傷がある。なのに目だけが妙に爛々と輝き眦は朱色に色付き変な色気がある。おまけに覆い被さる下肢から猛り立った熱の塊を感じた。
「ジルっ! どうしたの!?」
「……媚薬だ……ぅう……フィー……」
媚薬っ!!???? ジルが変なもの飲まされてて私は焦った。そういえば、なんか身体に傷もあった!変な拷問されていたの!??
私は急いでジルの身体に治癒魔法をかけていく。
魔法をかけながらふと見ると、ソルスターニアが身動きもせずに転がっているのが見えた。
「……はぁ……あ……楽になってきた……」
「ジル、ジル、大丈夫? まだ苦しい?」
「フィー。本当にフィーがいる……幻じゃない……」
「ジル……助けに来たよ……」
私たち2人は、そのままお互い抱きしめ合った。
「あれ? フィーなんか胸がいつもと違う?」
「ん? あぁ。サラシ巻いているからだと思う」
「サラシっ!? てか、フィーその格好何? 一体どうやってきたの!?」
一気にジルに質問責めにあう。
……うん。なんか色々ジルに言えないことが多かった旅のような気がしてきた……
ん?
なんか自分の中に今までない違和感を感じた。
「……あれ?」
「どうしたのっ!? フィー!?」
なんか。
自分に中に何かある気がする……?
ま、いっか。
「……っううん、何でもないよ」
「……ぅうっぅ……」
2人でまだそこに転がっているソルスターニアの方を見る。
あっ! 意識が戻りそうっ!! 反射的にビクッとなった私を庇うようにジルが前に出る。
「……ここは…… っジルヴェールっ!」
あぅ。やっぱり変態だよ。起きてすぐジルの名前を呼ばないで欲しい。
ジルを見ると、軽蔑しきった凄い目つきでソルスターニアを見下ろしていた。
「僕の名前を気安く呼ぶな」
おおおお怒ってるジル様~。そりゃそうだよね。気持ち悪いもんね……
「私を誰だと思っているのっ! ……あ、れ……え? なんで……?」
呆然としたように自分の両掌を見つめる彼女を見て、もしや、と思った。
ジルが、容赦なく風魔法を行使しソルスターニアの服をズタズタにしていく。
流石に傷付けたり髪の毛切ったりはしてないし、見たくもないのか切り刻んだのは大したことない部分だけど、急に攻撃されたソルスターニアにはそれだけで効果は十分だった。
「ぃやっ! なんでっ!! 私の闇はどこっ!?? おかしい! 私には攻撃が効かないはずなのにっ!!」
そう言うと、ソルスターニアは大声で喚き始めた。
それを聞いて眉を顰めたジルは、彼女の首の後ろに容赦なく手刀を打つと気絶させた。
「煩い」
……ジル様、これでもめちゃんこ優しいから、女子どもにここまで容赦のない攻撃したことないよ。おまけに一応王族でしょ? ソルスターニア何したの? ねぇ、私のジルに一体何したの?
すると、フラム陛下がいつもの飄々とした感じで颯爽と現れた。
ボロボロのジルを見て、喜色満面の笑みを浮かべる。
「終わったようだな。くくく。お前のこんな姿を見ることができるなんて……来て正解だった」
「っっお前っ!! どうしてここにっ!」
だよねー。そう思うよね。私あの時突っ込めなかったけど、マジでびっくりだよね。
「くく。これでも一応お前を気にかけてやってんだ。…まぁ、あとは最近ソルム国の荒れ具合が気になっていたからな。ここが荒れたら国境が陸続きのこっちにも影響が出る」
なんとまぁ、お忙しいことですねフラム陛下。ですが、それ、お仕事の範疇超えてますよ絶対。
この人には突っ込む要素が多すぎて、もはや何に突っ込んでいいのか分からなくなってきた。
「くくく。しかしまさか、お姫様自ら王子様を助けに行くとはなぁ。全く、『フィリ』はサイコーだな! どうだ? こんな役に立たんやつは愛想尽かしただろう? 俺の所にこないか?」
「……行きませんよ……」
「フィリ? フィーどう言う事?」
あ、なんかジルの顔がだんだん能面化してきた。怒っているぞ……
「フィリっ! 無事だったんだなっ!」
「レオっ! デアはどうなったの!? 皆は大丈夫!?」
「あぁ。デアのやつは皆で縛った。フラムさんも俺たちの好きにしていいって言ってくれたしな。そうそう、フィリの兄ちゃんのラクスも俺たちで助けたぜ。まぁ、薬飲まされてたのに俺たち以上に暴れてて、結局助けに行った俺らが助けられたけどな」
「……ラクス無事だったんだ……良かった~」
「……レオ……ラクスが兄……」
あ、なんか隣でジルがブツブツ言っている……や、やばい気がする……
私は気が付いていないフリをした。
「……というか、フラム…さんが勝手にデアの処遇決めてもいいの?」
「フラムさんはお偉いさんにコネがあるらしく、これから王城へ訴え出てくれるんだってよ」
フラム陛下~!!! めっちゃ乗り込む気満々じゃないですかっ!
相変わらずのその機動力に、もはやため息しか出ない……
外交問題もこの人なら難なく煙に巻いて、いいようにするんだろう……
「そうだっ! ウェントゥス国から食料を輸送するようにするよ。いいでしょ?」
うちの穀物庫にはまだまだ余剰があったはず……チラリとジルを見上げる。
流石ジル様、何も話していないうちから察してくれたのか、その目の色に反対の色は見られない。
だって、お腹いっぱい食べられないのはツラいもんね。
「あ、あと、自給率上げる為に農作業とか灌漑設備とかのノウハウを教えるようにするね!」
いいよねもう。相互扶助だ。民が飢えるのが1番悲しい。皆はデアの横暴にも耐えて頑張ってきたんだもん。
「フィリ……俺たちの為にそんなことまでしてくれるなんて……あの時も俺たちは皆あんたに助けられた。ーーー俺たちは、今後あんたに忠誠を誓う」
「えっ! いいよ! そんなの!! 私はこの国の人間じゃないし!」
なんだなんだ忠誠って~! そういえば、姐さん、とかって言われてたね私。
……一体私はどこに向かっているのだろう……
「そんなの関係ないさ。だったら、ここで採れた宝石は全部あんたんとこに流してやるよ」
「いらないよ~。そんなに宝石あってももう満足してるし」
「ははっ! 本当欲の無いお貴族様だなぁ。ーーーじゃあ、あんたが困ったとき、必ず助けになるぜ。フィーリアス王太子妃さんよ」
うひぃぃっ! やっぱりバレてましたぁぁっ!
「くくく。まさかここで忠誠を誓う者を作るとは、本当フィーリアスはサイコーだな! 面白いっ! くくく」
せっかく皆無事に出会うことができて、ゆっくりしたいところだけれどもそうはいかなかった。ソルスターニアをこのままにしておけるはずがない。
満身創痍の状態だったけど、私とジル、ラクス様にフラム陛下の4人で飛び急ぎソルム国の王城を目指した。
縛り上げたソルスターニアを、嫌々ながらもラクス様が馬に乗せた。
……ごめんね、このメンバーだとラクス様しかいないの……
馬に乗りつつ、今朝方までラスク様と一緒に乗っていたのに今ジルと馬に乗っていることが不思議に思ってくる。
「……フィー。帰ったら、色々教えてね」
「……うん。ジルも教えてね……」
ジルは物凄く嫌そうに眉を顰めた後、ため息をついた。
「……フィーが全部ちゃんと教えてくれるなら……」
あれ? 私が隠し事するわけないでしょー。……ドキドキ
……ここはあえてお互い聞かない方がいいのかな、と少しだけ思ってしまった。
でも。
ジルといる。
ジルと一緒に馬に乗って、彼の存在を感じて。
ーーー私はやっと、涙する事ができた。
女は、ジルの頬を舐め上げていた。
「っっっ!!!! 私のジルに何すんのよっ!!!!」
今までになくブチ切れた私は、自分の怒りからくる勢いに任せ、思い切り魔法を解き放った。
ーーーーーーーーッッッガシャァァンッッッ
気がつくと床がびっしょりと水に濡れ、部屋の周りにあった石は粉々に砕けていた。
「……っなっ!」
全く水に濡れていない女は、驚いたようにこっちを見ている。
「あんたその髪色はフィーリアスね!? デアは何やってんのっ!?」
いやいや、てか、あなたこそ誰ですかっ! 人の旦那の顔舐める変態に名前を呼ばれたくないっ!
「…フィー。こいつは第二王女ソルスターニアだ……闇の魔法で自分への攻撃魔法を全て吸収する……恐らく、部屋の石はその力を吸収させていて、部屋自体にも魔法吸収効果を付与させていた……」
「……ジルっ!」
流石ジルだ。私の顔色を瞬時に判断して、知りたい情報を全部くれた。
とりあえず部屋の石は全部砕け散ったから、部屋自体の吸収効果はもう無いと思われる。
というか、怒りに任せて放った魔法で横たわっていたジルもびしょびしょになっていた。
……ごめんねジル、水浴びしたとでも思って貰いたい……
「……このぉっ!」
女が私に手を伸ばしてくる。なんか嫌なものを感じた。さっきフラン陛下にもちゃんと教えもらっている。
私は手の先から光を出す。闇を祓う光のイメージだっ!
「……っつ! あんたまさか、光属性も持ってるの!?」
そう言うと、どこからか黒石のようなもので出来たゴツい釘を取り出した。それを私の影に突き刺す。
でも、そこに光を放つ。
ーーーッパァンッ!!
釘が粉々に砕けた。
恐らく、さっき動けなかったのは影に釘を刺されたからだ。本人が直接操る、もしくは影に釘を刺すことによって、私たちの影を縛って動けなくしていたのだろう。
さっきデアが投げたのも太い釘みたいな物だった。
ソルスターニアは、自身の魔法が効かないと思ったのだろう。釘を取り出すと、こちらに向けてくる。
……まさに呪いの構図で、本当にデアと揃って気持ち悪いと思った。
だけど、所詮令嬢同士の肉弾戦。そんな戦士みたいな動きができるわけがない。
ジルがソルム国に出立する前に、心配性のジルに護身術を叩き込まれていた私は、ちょっとした動きならできる。……はず。特に相手はただの令嬢だ。
釘を持って私に向かってくる相手の動きを冷静に見つめ、直前で横に体をいなすと、その勢いのままソルスターニアは倒れ込んだ。
元祖悪役令嬢を舐めんなっ!
第二王女のソルスターニアはこんな訓練受けたことないのだろう。ま、私も付け焼き刃なだけだけど。
倒れ込んだ衝撃で蹲ったままだ。
「うぅぅ。なんで……そんなわけない……闇は……闇はこんなもんじゃないっ! あんなたのその光、私が奪ってやるからっ!!」
ソルスターニアがそう叫ぶと、私は黒いもので覆われて目の前が真っ暗になった。
ーーーここは?
そこは暗いけど暗くない、なんだか宇宙のような空間だった。
『その光を奪ってやるっ!』
この声は、きっとソルスターニアだ。耳から聞こえるというよりも、なんだか直接響いてくる感じだ。声から感じる闇のドロドロは気持ち悪い。
『お前だって闇を抱えているくせにっ! 何が光よっ』
『ーーーそうよ。私にも闇がある。光と闇は表裏一体だもの。私も、攻撃したり、嫉妬したり闇を抱えている。でも、そんな自分を素直に受け入れてる。そんな汚い自分も自分だって。光があって闇があるもの。闇があるからこそ光がより強く輝く。……あなたに光はないの?』
『あるわけないっ! 闇だけで十分だわっ! 光なんて所詮まやかしでしかないわっ!! 綺麗事よ!』
『……光も闇も、どちらもヒトにはあるのに……どっちの自分も自分だわ』
光を拒否し、本当は光を求めたい自分の気持ちを素直に認めれないソルスターニア。
光を欲しているのに、その光を拒絶する。
そんな矛盾に気がつかない彼女の事を、最後まで気持ち悪いなぁと思った。
本当の闇の先には、安らぎがあるのにーーー
……ソルスターニアの存在が遠くなっていくのを感じる。
闇の安らぎを感じ、そこで意識が途絶えた……
……
フィーっ!……
どこかで呼ばれる声がした。
「……っフィーっ! 大丈夫?」
気絶していたらしい私は、目を開けると心配そうに私を覗き込むジルの瞳と目があった。
「……ジル?」
「…良かったっ! 本当にフィーだ。幻じゃないっ!」
ジルはそう言いながら私に覆い被さると、唇に口付けをしてきた。そして、性急な動きで舌を割り入れてくる。
「……っんんっ……ジルっ……!」
気が付くと、私は強くジルを抱きしめて、お互いに深い口付けを交わしていた。
「……はぁ……フィー……フィー……」
ジルは、見ると酷い有様だった。頬は痩け上半身に打たれたような傷がある。なのに目だけが妙に爛々と輝き眦は朱色に色付き変な色気がある。おまけに覆い被さる下肢から猛り立った熱の塊を感じた。
「ジルっ! どうしたの!?」
「……媚薬だ……ぅう……フィー……」
媚薬っ!!???? ジルが変なもの飲まされてて私は焦った。そういえば、なんか身体に傷もあった!変な拷問されていたの!??
私は急いでジルの身体に治癒魔法をかけていく。
魔法をかけながらふと見ると、ソルスターニアが身動きもせずに転がっているのが見えた。
「……はぁ……あ……楽になってきた……」
「ジル、ジル、大丈夫? まだ苦しい?」
「フィー。本当にフィーがいる……幻じゃない……」
「ジル……助けに来たよ……」
私たち2人は、そのままお互い抱きしめ合った。
「あれ? フィーなんか胸がいつもと違う?」
「ん? あぁ。サラシ巻いているからだと思う」
「サラシっ!? てか、フィーその格好何? 一体どうやってきたの!?」
一気にジルに質問責めにあう。
……うん。なんか色々ジルに言えないことが多かった旅のような気がしてきた……
ん?
なんか自分の中に今までない違和感を感じた。
「……あれ?」
「どうしたのっ!? フィー!?」
なんか。
自分に中に何かある気がする……?
ま、いっか。
「……っううん、何でもないよ」
「……ぅうっぅ……」
2人でまだそこに転がっているソルスターニアの方を見る。
あっ! 意識が戻りそうっ!! 反射的にビクッとなった私を庇うようにジルが前に出る。
「……ここは…… っジルヴェールっ!」
あぅ。やっぱり変態だよ。起きてすぐジルの名前を呼ばないで欲しい。
ジルを見ると、軽蔑しきった凄い目つきでソルスターニアを見下ろしていた。
「僕の名前を気安く呼ぶな」
おおおお怒ってるジル様~。そりゃそうだよね。気持ち悪いもんね……
「私を誰だと思っているのっ! ……あ、れ……え? なんで……?」
呆然としたように自分の両掌を見つめる彼女を見て、もしや、と思った。
ジルが、容赦なく風魔法を行使しソルスターニアの服をズタズタにしていく。
流石に傷付けたり髪の毛切ったりはしてないし、見たくもないのか切り刻んだのは大したことない部分だけど、急に攻撃されたソルスターニアにはそれだけで効果は十分だった。
「ぃやっ! なんでっ!! 私の闇はどこっ!?? おかしい! 私には攻撃が効かないはずなのにっ!!」
そう言うと、ソルスターニアは大声で喚き始めた。
それを聞いて眉を顰めたジルは、彼女の首の後ろに容赦なく手刀を打つと気絶させた。
「煩い」
……ジル様、これでもめちゃんこ優しいから、女子どもにここまで容赦のない攻撃したことないよ。おまけに一応王族でしょ? ソルスターニア何したの? ねぇ、私のジルに一体何したの?
すると、フラム陛下がいつもの飄々とした感じで颯爽と現れた。
ボロボロのジルを見て、喜色満面の笑みを浮かべる。
「終わったようだな。くくく。お前のこんな姿を見ることができるなんて……来て正解だった」
「っっお前っ!! どうしてここにっ!」
だよねー。そう思うよね。私あの時突っ込めなかったけど、マジでびっくりだよね。
「くく。これでも一応お前を気にかけてやってんだ。…まぁ、あとは最近ソルム国の荒れ具合が気になっていたからな。ここが荒れたら国境が陸続きのこっちにも影響が出る」
なんとまぁ、お忙しいことですねフラム陛下。ですが、それ、お仕事の範疇超えてますよ絶対。
この人には突っ込む要素が多すぎて、もはや何に突っ込んでいいのか分からなくなってきた。
「くくく。しかしまさか、お姫様自ら王子様を助けに行くとはなぁ。全く、『フィリ』はサイコーだな! どうだ? こんな役に立たんやつは愛想尽かしただろう? 俺の所にこないか?」
「……行きませんよ……」
「フィリ? フィーどう言う事?」
あ、なんかジルの顔がだんだん能面化してきた。怒っているぞ……
「フィリっ! 無事だったんだなっ!」
「レオっ! デアはどうなったの!? 皆は大丈夫!?」
「あぁ。デアのやつは皆で縛った。フラムさんも俺たちの好きにしていいって言ってくれたしな。そうそう、フィリの兄ちゃんのラクスも俺たちで助けたぜ。まぁ、薬飲まされてたのに俺たち以上に暴れてて、結局助けに行った俺らが助けられたけどな」
「……ラクス無事だったんだ……良かった~」
「……レオ……ラクスが兄……」
あ、なんか隣でジルがブツブツ言っている……や、やばい気がする……
私は気が付いていないフリをした。
「……というか、フラム…さんが勝手にデアの処遇決めてもいいの?」
「フラムさんはお偉いさんにコネがあるらしく、これから王城へ訴え出てくれるんだってよ」
フラム陛下~!!! めっちゃ乗り込む気満々じゃないですかっ!
相変わらずのその機動力に、もはやため息しか出ない……
外交問題もこの人なら難なく煙に巻いて、いいようにするんだろう……
「そうだっ! ウェントゥス国から食料を輸送するようにするよ。いいでしょ?」
うちの穀物庫にはまだまだ余剰があったはず……チラリとジルを見上げる。
流石ジル様、何も話していないうちから察してくれたのか、その目の色に反対の色は見られない。
だって、お腹いっぱい食べられないのはツラいもんね。
「あ、あと、自給率上げる為に農作業とか灌漑設備とかのノウハウを教えるようにするね!」
いいよねもう。相互扶助だ。民が飢えるのが1番悲しい。皆はデアの横暴にも耐えて頑張ってきたんだもん。
「フィリ……俺たちの為にそんなことまでしてくれるなんて……あの時も俺たちは皆あんたに助けられた。ーーー俺たちは、今後あんたに忠誠を誓う」
「えっ! いいよ! そんなの!! 私はこの国の人間じゃないし!」
なんだなんだ忠誠って~! そういえば、姐さん、とかって言われてたね私。
……一体私はどこに向かっているのだろう……
「そんなの関係ないさ。だったら、ここで採れた宝石は全部あんたんとこに流してやるよ」
「いらないよ~。そんなに宝石あってももう満足してるし」
「ははっ! 本当欲の無いお貴族様だなぁ。ーーーじゃあ、あんたが困ったとき、必ず助けになるぜ。フィーリアス王太子妃さんよ」
うひぃぃっ! やっぱりバレてましたぁぁっ!
「くくく。まさかここで忠誠を誓う者を作るとは、本当フィーリアスはサイコーだな! 面白いっ! くくく」
せっかく皆無事に出会うことができて、ゆっくりしたいところだけれどもそうはいかなかった。ソルスターニアをこのままにしておけるはずがない。
満身創痍の状態だったけど、私とジル、ラクス様にフラム陛下の4人で飛び急ぎソルム国の王城を目指した。
縛り上げたソルスターニアを、嫌々ながらもラクス様が馬に乗せた。
……ごめんね、このメンバーだとラクス様しかいないの……
馬に乗りつつ、今朝方までラスク様と一緒に乗っていたのに今ジルと馬に乗っていることが不思議に思ってくる。
「……フィー。帰ったら、色々教えてね」
「……うん。ジルも教えてね……」
ジルは物凄く嫌そうに眉を顰めた後、ため息をついた。
「……フィーが全部ちゃんと教えてくれるなら……」
あれ? 私が隠し事するわけないでしょー。……ドキドキ
……ここはあえてお互い聞かない方がいいのかな、と少しだけ思ってしまった。
でも。
ジルといる。
ジルと一緒に馬に乗って、彼の存在を感じて。
ーーー私はやっと、涙する事ができた。
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