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45.ソルム国編〔5〕 sideジルヴェール

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ソルム国への訪問は気が重かった。
僕しか行く人間がいないのも事実だったが、フィーを連れていくことは絶対に避けたかった。
ただでさえ国交が途絶えて長い国。情勢もあまり良く無い噂を聞いている国に、フィーを連れて行けるはずがなかった。

まだウェントゥス国で留守番する方がマシだと判断した僕は、渋るフィーを説得した。最終的にはフィーは納得してくれたので、僕は留守番のフィーの安全のために魔法の勉強をもっと本格化させることにした。
僕が作ったアイリスクォーツのブレスレットを通じて、僕の魔力、僕の存在を感じてくれたフィーはとても可愛かった。

可愛いフィーに後ろ髪引かれつつ、僕は出立した。

ソルム国での国務など、すぐに終わらせてやる。そう意気込んで、長旅を終えた僕はソルム国の王城へと入城した。
ソルム国王陛下は、気の弱そうな人で拍子抜けした。王妃も身体の弱いルーメン王太子を心配するばかりで、あまり聡明そうではなかった。第一王女のグラキエス殿下は、茶色の髪をした平凡な顔付きだったが、聡明そうな瞳と知性的な話し方が印象深かった。第一王女が即位し国を率いた方がいいのでは、と思った程だった。

第二王女のソルスターニアは、なんというか気持ちの悪い女だった。白に近いブロンドは自慢なのか、これ見よがしに髪を靡かせており、良く見ると平凡な顔付きなのに不思議と美人に見える雰囲気を醸し出していた。
城内の人々は、彼女のその良くわからない魅力にやられているのか、皆ソルスターニアをチヤホヤしていた。

「ジルヴェール殿下。私のことはぜひスターニアと呼んでくださいましね。私も外交にとても興味がありますの、ぜひ色々と教えていただきたいですわ」
「スターニアは勉強熱心だなぁ。ジルヴェール殿下、ぜひよろしくお願いします」

何故僕がよろしくされなければいけない? 子どもの教育は親がしろ、と思ったが流石にそう言うわけにもいかず、僕は曖昧に笑って終わらせた。
卒なく会話をしつつも、第二王女の目線がどうも気持ち悪かった僕は、この訪問を早く終わらせようと焦っていた。
その焦りを見透かされたのか、朝食に遅効性の毒が混入しているのに気付くのが遅れた。

ーーーまずいっ!

このままでは最悪僕たちはソルムの王城へ到着しておらず、どこかで襲われた事として処理されるかもしれない。
ウェントゥス国へ知らせに行かすにはラクスが最適だと判断した僕は、ラクスを風の魔法でソルム国の王都へと飛ばし逃した。
薄れゆく意識の中で、部屋の外から何人かの気配を感じた。別の部屋にいるであろう他の随行者たちは大丈夫だろうか……


僕は意識を手放す直前、置いてきたフィーの顔を思い出したーーー



♢♢♢


意識を取り戻した僕が見たのは、地下だろうと思われる窓のない、石で覆われた奇妙な部屋だった。
部屋の中は常に明るく、昼か夜か判別できない仕組みになっているようだ。
薬の混じった食事が小窓から時折置かれる。
死ぬわけにはいかないので、最低限の水と食事だけ口をつける。どれも毒が混入している。おそらく痺れ薬の一種だろう。幻覚剤も少し入っているかもしれない。王族としてある程度毒に慣らしておいてよかった。

何度魔法を行使しても部屋を破ることができず、何かに吸収されてしまう。今は情報種集と体力温存を第一に考え、なるべく動かず毒で弱っているふりをする。

体内時計の計算によると、監禁されて3日ほど経った頃だろう。小窓から女が覗きこんできた。

「うふふ。流石にグッタリしているわね。にしても、試験的に作ったこの部屋があって良かったぁ。ご自慢の魔法使えないでしょ? うふふふふ。もう少しかしら? 本当はあの黒髪の従者も欲しかったんだけど、いなくなっちゃったからしょうがないわ。あなたのその金の瞳とお揃いにしたかったのになぁ。まぁ、その金の瞳だけで我慢しなきゃね」
「……」
「あら。口も聞けないの? う~ん。薬多すぎたかしら? あれ使いすぎると勃たなくなっちゃうし、下手したら死んじゃうもんね……どうしようかしら」

馬鹿な女はペラペラと勝手に喋り出す。

そのまま帰っていった女が示した情報を、僕は頭の中で繋げていった。

魔法を吸収する仕組み。あの女の声。時期と薬の量。僕はなるべくじっとしながら、次に女が来るのを待った。




次の日、女が扉から入ってきた。

「あらあら? もう動けないの? どうしようかしら。それじゃあ面白く無いのよねぇ」

女を見上げると、僕の予想していた人物だった。

近づいてくるのを伺いながら距離を測る。絶対に仕留められる距離まで……
女が動かない僕の元へ手を伸ばした隙に、僕は素早く立ち上がると女の首を締め上げた。

「っ!! ぅあっ!」

ーーその瞬間、僕の身体が動かなくなった。

「ほらほら、ダメですよ油断しちゃぁ」
「っごほっ! ごほぉっ! ーーーこのクソがァァーーっ!」

すると、女の後ろからやってきた男が僕の身体を鞭打った。


ーービシィッ!!

「…っぐっ!!」
「はははは。流石ですねっ! 悲鳴をあげないのは感心しますよ」
「っちょっとっ! 勝手に傷付けないでよっ! 綺麗な身体が台無しじゃないっ! ……でも、いいわね。散々可愛がったら、さっきのお礼に泣いて許しを乞うまで私が鞭打ってあげるわぁ。うふふふ」

頭のおかしい女は、恍惚の笑みでそう言う。僕は睨み付けたまま吐き捨てる。

「お前に許しを乞うことは無い」
「あらぁ。その強がりいつまで保つかしらぁ。うふふふ」

どこからかやってきた男たちが、動けない僕に何かを飲ませようとする。抵抗するが、鼻を摘まれ飲み込むしか選択肢がなくなった。

「さぁて。その理性がいつまで保つかしらぁ。楽しみだわ……」

そのまま、2人は扉から出ていった。
残された僕は、だんだん上昇する体温から、飲まされた薬が恐らく媚薬であると判断した。



媚薬の影響で、意識が朦朧としてくる。おまけに上手く魔法の制御ができず、ブレスレットの石に僕の魔力を通すことが難しくなってきた。
フィーは大丈夫だろうか……僕の守りが効かなくなっている時に何か起こっていないといいんだが……

フィーの事を想いながら、なんとか痛いほどの身体の疼きと熱を逃している内に、一晩明けた。だんだんと薬の効果を抑え込めるようになっていたが、昼過ぎにまた例の女が来た。

「嘘~。あれ飲んでもまだ意識保ってるの? すごい精神力ね。しかもちょっと余裕?」

彼女が指示すると、またもや男たちが薬を飲ませた。

「……っごほっ……はぁっ……!」

薬の影響で身体の機能が低下しているのだろう。酷く咽せた。

「ほらほら~。無理しないでね。本当は自分から望んで欲しかったんだけど、しょうがないよねぇ。ここまで薬飲んだら、ほらもう我慢できないでしょう?」

薬の影響で、勝手に勃っているのが自分でも分かる。昨日からも何度か勃ってはいたが、薬で無理やり勃たされているそれは、痛みがくるほど猛り立っていた。

「ふふふふ。ほらね。後はもう挿れるだけ……」

絶対にこんな女に挿れたくないっ!
僕に触っていいのはフィーだけだっ!

薬でフラフラながらも計算する。昨日の男はいないし、の仕組みもわかっている。

……後は賭けだ……

近づいてくる女が来る前に一気に距離を詰めようとしたが、その動きが

くそっ! 賭けに負けた……

「ふふふ。私は、がなくても縛れるの」
「……っちぃ。そうだろうな。……影を縛るのだろう?」
「嘘ぉ。すごい優秀ね。流石ジル様ね~。素敵。でも残念でした。ここでお終いね」

僕は影を縛られたまま、横に倒される。

「…っくっ……!」

女の手が下肢にかかり、服の上から猛り切った僕の肉棒を触る。それだけで吐精してしまいたくなる程の快楽が身体を駆け巡った。

「ほらほら。身体は素直でしょ~」

僕は、最悪の展開に最後の手段に出た。

焼け切りそうな理性を総動員して魔力を練ると、硬化した石で下肢全体を覆う。

「……これではお前に挿れることはできないな。というか触れないだろう。残念だったな」
「……ジルヴェールっ!!! ……いいわ。いつまで保つかしらねその理性も。それまでせいぜい我慢くらべといこうじゃない」

そう言うと、女は僕の上半身の服を切り裂き始める。鞭打ちで破れかけていた服は、呆気ないほどすぐに破れた。
そのまま、僕の身体に舌を這わす。

「……っっ!!!」

薬で敏感になった僕の身体は、舌が這うたびに気持ち悪いほどの快楽を感じて脳がおかしくなりそうだった。

「ふふふふ。どこまで保つかしら……とりあえず、上半身は全部舐めてあげるわ。勿論その綺麗な顔もね……」
「……っつぅっ……!」
「そうそう、口は最後にしてあげる。私の物になったら、その柔らかい唇を貰ってあげるわ」

うっとりとした顔で嗤う女の顔を見て、酷い吐き気に襲われる。

「……僕は、絶対にお前に屈しない……っ」
「うふふふふふ。強がりもいつまでかしらね」






どれくらい経っただろうか……

朦朧とする意識の中で、僕はひたすらフィーの事を想っていた。


フィー。


フィーリアス……


覆われていない上半身部分を至る所舐め回されても、フィーの事ばかり考えて意識もしなくなった。
流石に目玉まで舐めようとした時は、気持ちの悪さに目を閉じた。



フィー……






僕はとうとう狂ったのかもしれない。

なぜなら、扉の向こうには僕の最愛の人が立っていたからだ。


「……フィー」


僕は、ここにいるはずのない君の名を呼んだーーー


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