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35.イグニス国編〔2〕 sideフィーリアス&ジルヴェール
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《side フィーリアス》
泣きそうになる気持ちを必死に抑えて、なんとか夕食会へ臨む。
気持ちを切り替えて私っ! 仕事仕事っ!!
でも、広間に入り挨拶の時にはいなかった顔を見てビックリしたおかげで、さっきの動揺はすっ飛んでいった。
広間の上座には、このイグニス国の国王であるフラム・ジャーマ・イグニス陛下その人が臨席されていたからだ。
「これはこれは、フラム陛下ご自身にご臨席いただけるとは幸甚に存じます」
ちょっと動揺していた私だったのに、ジルは何事もなかったかのようにサラッと爽やかに挨拶を行う。出来る男ですジル様~。私ってばまだまだだ。自分を情けなく思う。
「くくく。そう畏まらなくていいぞ。今日は身内の会だと思って気楽にして良いからな」
笑いながら話をするフラム陛下は、赤毛の髪を右側に纏めて緩く結った、どう見ても45歳には見えない美貌のイケオジ陛下だった。
すごー。アンチエイジングの秘密を是非是非教えていただきたい。
ちなみに、ジルのお父様でもあるウェントゥス国の国王陛下は、トリスティン様が年齢を重ねたら斯くや、という風貌のおじさまで、爽やか系ではあるもののこんなに若々しくはない。
どちらかというと、ジルがこのまま歳を重ねたらこんなになるのかぁ、とか思った私は、失礼ながらも陛下のお顔をマジマジと見てしまった。
そして、隣の旦那様の将来を妄想する。ジルがあの歳の頃はきっと……
……っは!! いけない、ついつい妄想癖が出ていた……!
にやけそうだった顔をなんとか抑えて淑女の仮面を被り、にこりと笑って着席する。
夕食会に出た料理は、イグニス国の郷土料理が中心となっていた。ウェントゥス国と違った濃い目の味付けと肉料理に舌鼓を打つ。
そしてっ! 何よりっ! こうした夕食会にも関わらず私のテンションが爆上がりなのがっ!!
ーーーお米があるのです~~!!!!
小麦が特産品の我が国では、お米はないのです。毎日ふわっふわの白いパンが食べられるのはすごくいいんだけど、何せ前世日本の記憶が蘇った私。お米に対する愛はそれはもう、魂の奥の奥まで染み付いておりますから。
出された料理にお米があるのを見つけた私は、その嬉しさを隠しきれずふるふると歓喜に身体を震わせた。危うく小躍りしそうになった。
危ない危ない、王太子妃失格だよね。お米はどうやらここではリースという食材らしい。
その、パエリアみたいなリース料理を給仕してもらい、食す。
……うまぁぁぁぁ……ありがとうお米さん。ありがとう……ありがとう……
この世の全てに感謝を捧げながら、モグモグと咀嚼する。私にとってはリースではなくお米です。
「噂に聞いていたのとは随分違うようだな。ピクリとも動かぬ笑みを常に貼り付けた氷の薔薇と聞いていたのだが」
お米への感謝で思考がいっぱいになっていた私は、急に陛下にそう話しかけられ飛び上がりそうな程ビックリした。
え? なになに?? 何て言われた?? あ、やばい、聞いていなかった。
「申し訳ありません、あまりにこのお料理が美味しかったもので……見苦しい所をお見せいたしました」
お米を嚥下し、優雅にお返事する。
……優雅にできたはず……とりあえず謝っておけば問題ないはずっ!
「ははは。どうやらフィーリアスは我が国のリースを随分と気に入ってくれたものだ。……どうだ? その氷も我が国の火で溶けた貴方が、この国で薔薇を咲かせてみるというのは如何か? そうすれば随分愛らしい薔薇が咲く事だろう」
えっと、なになに? お米は大変魅力的ですが、まさかそんな社交辞令に乗っかる私ではないですよ~!
「まぁ。私のような者にそのような過分なお言葉を頂きまして、大変嬉しく思いますわ。ですが、そのようなお戯れをフラム陛下ともあろう方が仰っては、私のような者はひたすら恐縮してしまいますわ」
「ははは。戯れのつもりはないのだがな」
隣でジルが能面の顔になりながら、握り締めた手がピクピクしているのが見える。
おおおお落ち着いてーー!! あんな社交辞令に本気で相手したらダメだよぉぉおおお!!!
ジルから漂う只ならぬ雰囲気に変な汗をかきつつ、フラム陛下ににこりと微笑みかける。
「陛下に不躾ながらご質問してもよろしいでしょうか? このリースの栽培方法はやはり温暖な気候が適しているのでしょうか?」
「ふふ。随分お気にめしたようで何よりだ。ーーーこの国で咲く薔薇には毎日与えられるぞ? どうだ? ここに残るのは?」
おぉい! いい加減そのよく分からない勧誘やめておくれー!! 隣のジル様がどえらい事になってるんですけどぉぉお!! 社交辞令はもういいってば~。
「父上、いい加減にしてください。フィーリアス様も困っておいでです」
ナイスですフェイゴ王太子様!! こんな父親に似なくて本当良かったね! 社交辞令も過ぎたらハラスメントになっちゃうからね。
「うふふ。フラム陛下は本当に女性をおもてなしするのがお上手ですね」
取り敢えず社交辞令のお礼を言って、この場を収めようと思った。
だけど私がそう言うと、何故かその場の全員に残念な子を見るような目で見られた。
ーーー何故!??
その後、場の空気を読んだシュテアネ様の裁量で様々な世間話をした後、無事夕食会は終了となった。
シュテアネ様の話題の運び方や相手へのタイミングなど全てにおいて素晴らしく、これが王太子妃、ひいては王妃になられる方なのだと非常に勉強になった。
部屋へと戻り、各々入浴を済ませベッドに入る。
でも、ジルはいつもと違ってすごく離れた場所に陣取る。
「……ジル? 今日大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。フィーは良くやったよ。疲れているだろうからもうお休み」
そう言っておでこに軽いキスをしてくれると、頭をなでなでしてくれた。
安心した私は、やはり色々疲れていたのだろう。すぐに眠りの世界へと誘われる。
ーーーおやすみなさい、ジルヴェール
その言葉はすでに夢の中で発していたものなのか現実なのか。
それすらも分からずぐっすりと深い眠りについた。
《side ジルヴェール》
広間に入ると、予想していた通りあいつがいた。
ニヤニヤ顔から見ると、僕たちを驚かせたかったんだろう。相変わらず人が悪い……
可哀想にフィーは少しばかり動揺していた。まぁ、普通はそうだろう。
「これはこれは、フラム陛下ご自身にご臨席いただけるとは幸甚に存じます」
嫌味を込めてにっこりと挨拶してやる。全く、年甲斐もなく若者を揶揄って楽しむとは趣味が悪い。
どうやったらあんなのんびりした息子になるのか、心底不思議に思う。
案の定、人を小馬鹿にしたような口調で席を勧める。
だけど、フィーがあいつに見惚れている様子を見て僕の心は昏くなった。
……なんであんなやつを……
確かに顔はいいかもしれないが、あいつの性格は最悪だ。僕はよく知っている。
我に帰ったフィーは、にこりと笑うと席に着く。というか、フィーは淑女の仮面を被ったつもりでも、昔のように人形を彷彿とさせる表情を取ることが無くなったフィーは、微笑むだけでもその内から漏れ出る輝きで皆を魅了している。本人は気が付いていないようだけど……
今も笑いかけられた給仕の顔が少し赤くなったのを僕は見逃していなかった。
フィーは、なぜかイグニス国の主食であるリースを見るとその顔を輝かせ、うっとりとしながら食していく。
あまりに嬉しそうに食べるフィーの蕩けるような顔は、この場ではとても危険だと察知する。
見ると他の皆もフィーのその顔に見惚れているようだった。
フィーのあんな可愛い顔をあいつに見せることになった僕は、最悪の状況に内心で悪態をつく。案の定あいつが放っておくはずがなく、フィーに話しかける。
話しかけられると思っていなかったフィーは、ビックリしていたようだ。
その大きい目を更に大きくするフィーは、素が出ていてとても愛らしかった。
「ははは。どうやらフィーリアスは我が国のリースを随分と気に入ってくれたものだ。……どうだ? その氷も我が国の火で溶けた貴方が、この国で薔薇を咲かせてみるというのは如何か? そうすれば随分愛らしい薔薇が咲く事だろう」
……まさか。陛下自らがフィーを誘うなんて……
明らかな側室勧誘に、僕は一瞬怒りで前が見えなくなる。なんとか自分を押さえ込もうとするが手が震える。
護衛に立っているラクスが、殺気を放つのがわかる。
僕の空気を察したフィーがなんとか話を変えようとするが、勿論あいつにそんな事が通じるはずがない。
さっきよりももっと直接的な表現に流石に焦ったフェイゴ王太子が、父親を諌める。
自分の父親ぐらい御しておけ、と無理難題の悪態を心でつく。
すると、当人であるフィーは全く気が付いていないのか、本気であいつの言葉を社交辞令だと思っているようで、的外れなお礼を言った。
ーーーいい加減自分の魅力を正しく認識して欲しい。
僕は心からそう思った。
部屋に戻ると就寝まで別々に支度した。
ーーー危なかった。多分部屋に戻って2人きりになっていたら、間違いなくフィーに襲いかかってしまっていた。
特に、あいつに煽られた僕は、フィーへの独占欲から酷くフィーを犯したい気分になっている。
それがフィーを傷付ける事だと分かっている僕は、風呂でとりあえず自己処理をした。
こうでもしないと同じベッドでは眠れそうにないからだ。
でも、同じベッドに入ると自分を抑える自信がなくなり、いつもよりフィーと距離を保とうとする。
「……ジル? 今日大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。フィーは良くやったよ。疲れているだろうからもうお休み」
不安に揺れる瞳のフィーを見た僕は、おでこに軽くキスすると頭を撫でる。
予想通り疲れていたフィーは安心したようにぐっすりと眠りにつく。
そのフィーのあどけない寝顔を見ると、僕はまた欲情する自分を抑えることが出来なくなった。
そのままトイレに行き自己処理をしてから、そっとフィーと距離をとってベッドに入る。
この地獄の夜があと3日も続くのかと思うと、気が狂いそうになってくる。
こうして僕は、浅い眠りを繰り返しつつ眠れぬ夜を悶々と過ごしたーーー
泣きそうになる気持ちを必死に抑えて、なんとか夕食会へ臨む。
気持ちを切り替えて私っ! 仕事仕事っ!!
でも、広間に入り挨拶の時にはいなかった顔を見てビックリしたおかげで、さっきの動揺はすっ飛んでいった。
広間の上座には、このイグニス国の国王であるフラム・ジャーマ・イグニス陛下その人が臨席されていたからだ。
「これはこれは、フラム陛下ご自身にご臨席いただけるとは幸甚に存じます」
ちょっと動揺していた私だったのに、ジルは何事もなかったかのようにサラッと爽やかに挨拶を行う。出来る男ですジル様~。私ってばまだまだだ。自分を情けなく思う。
「くくく。そう畏まらなくていいぞ。今日は身内の会だと思って気楽にして良いからな」
笑いながら話をするフラム陛下は、赤毛の髪を右側に纏めて緩く結った、どう見ても45歳には見えない美貌のイケオジ陛下だった。
すごー。アンチエイジングの秘密を是非是非教えていただきたい。
ちなみに、ジルのお父様でもあるウェントゥス国の国王陛下は、トリスティン様が年齢を重ねたら斯くや、という風貌のおじさまで、爽やか系ではあるもののこんなに若々しくはない。
どちらかというと、ジルがこのまま歳を重ねたらこんなになるのかぁ、とか思った私は、失礼ながらも陛下のお顔をマジマジと見てしまった。
そして、隣の旦那様の将来を妄想する。ジルがあの歳の頃はきっと……
……っは!! いけない、ついつい妄想癖が出ていた……!
にやけそうだった顔をなんとか抑えて淑女の仮面を被り、にこりと笑って着席する。
夕食会に出た料理は、イグニス国の郷土料理が中心となっていた。ウェントゥス国と違った濃い目の味付けと肉料理に舌鼓を打つ。
そしてっ! 何よりっ! こうした夕食会にも関わらず私のテンションが爆上がりなのがっ!!
ーーーお米があるのです~~!!!!
小麦が特産品の我が国では、お米はないのです。毎日ふわっふわの白いパンが食べられるのはすごくいいんだけど、何せ前世日本の記憶が蘇った私。お米に対する愛はそれはもう、魂の奥の奥まで染み付いておりますから。
出された料理にお米があるのを見つけた私は、その嬉しさを隠しきれずふるふると歓喜に身体を震わせた。危うく小躍りしそうになった。
危ない危ない、王太子妃失格だよね。お米はどうやらここではリースという食材らしい。
その、パエリアみたいなリース料理を給仕してもらい、食す。
……うまぁぁぁぁ……ありがとうお米さん。ありがとう……ありがとう……
この世の全てに感謝を捧げながら、モグモグと咀嚼する。私にとってはリースではなくお米です。
「噂に聞いていたのとは随分違うようだな。ピクリとも動かぬ笑みを常に貼り付けた氷の薔薇と聞いていたのだが」
お米への感謝で思考がいっぱいになっていた私は、急に陛下にそう話しかけられ飛び上がりそうな程ビックリした。
え? なになに?? 何て言われた?? あ、やばい、聞いていなかった。
「申し訳ありません、あまりにこのお料理が美味しかったもので……見苦しい所をお見せいたしました」
お米を嚥下し、優雅にお返事する。
……優雅にできたはず……とりあえず謝っておけば問題ないはずっ!
「ははは。どうやらフィーリアスは我が国のリースを随分と気に入ってくれたものだ。……どうだ? その氷も我が国の火で溶けた貴方が、この国で薔薇を咲かせてみるというのは如何か? そうすれば随分愛らしい薔薇が咲く事だろう」
えっと、なになに? お米は大変魅力的ですが、まさかそんな社交辞令に乗っかる私ではないですよ~!
「まぁ。私のような者にそのような過分なお言葉を頂きまして、大変嬉しく思いますわ。ですが、そのようなお戯れをフラム陛下ともあろう方が仰っては、私のような者はひたすら恐縮してしまいますわ」
「ははは。戯れのつもりはないのだがな」
隣でジルが能面の顔になりながら、握り締めた手がピクピクしているのが見える。
おおおお落ち着いてーー!! あんな社交辞令に本気で相手したらダメだよぉぉおおお!!!
ジルから漂う只ならぬ雰囲気に変な汗をかきつつ、フラム陛下ににこりと微笑みかける。
「陛下に不躾ながらご質問してもよろしいでしょうか? このリースの栽培方法はやはり温暖な気候が適しているのでしょうか?」
「ふふ。随分お気にめしたようで何よりだ。ーーーこの国で咲く薔薇には毎日与えられるぞ? どうだ? ここに残るのは?」
おぉい! いい加減そのよく分からない勧誘やめておくれー!! 隣のジル様がどえらい事になってるんですけどぉぉお!! 社交辞令はもういいってば~。
「父上、いい加減にしてください。フィーリアス様も困っておいでです」
ナイスですフェイゴ王太子様!! こんな父親に似なくて本当良かったね! 社交辞令も過ぎたらハラスメントになっちゃうからね。
「うふふ。フラム陛下は本当に女性をおもてなしするのがお上手ですね」
取り敢えず社交辞令のお礼を言って、この場を収めようと思った。
だけど私がそう言うと、何故かその場の全員に残念な子を見るような目で見られた。
ーーー何故!??
その後、場の空気を読んだシュテアネ様の裁量で様々な世間話をした後、無事夕食会は終了となった。
シュテアネ様の話題の運び方や相手へのタイミングなど全てにおいて素晴らしく、これが王太子妃、ひいては王妃になられる方なのだと非常に勉強になった。
部屋へと戻り、各々入浴を済ませベッドに入る。
でも、ジルはいつもと違ってすごく離れた場所に陣取る。
「……ジル? 今日大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。フィーは良くやったよ。疲れているだろうからもうお休み」
そう言っておでこに軽いキスをしてくれると、頭をなでなでしてくれた。
安心した私は、やはり色々疲れていたのだろう。すぐに眠りの世界へと誘われる。
ーーーおやすみなさい、ジルヴェール
その言葉はすでに夢の中で発していたものなのか現実なのか。
それすらも分からずぐっすりと深い眠りについた。
《side ジルヴェール》
広間に入ると、予想していた通りあいつがいた。
ニヤニヤ顔から見ると、僕たちを驚かせたかったんだろう。相変わらず人が悪い……
可哀想にフィーは少しばかり動揺していた。まぁ、普通はそうだろう。
「これはこれは、フラム陛下ご自身にご臨席いただけるとは幸甚に存じます」
嫌味を込めてにっこりと挨拶してやる。全く、年甲斐もなく若者を揶揄って楽しむとは趣味が悪い。
どうやったらあんなのんびりした息子になるのか、心底不思議に思う。
案の定、人を小馬鹿にしたような口調で席を勧める。
だけど、フィーがあいつに見惚れている様子を見て僕の心は昏くなった。
……なんであんなやつを……
確かに顔はいいかもしれないが、あいつの性格は最悪だ。僕はよく知っている。
我に帰ったフィーは、にこりと笑うと席に着く。というか、フィーは淑女の仮面を被ったつもりでも、昔のように人形を彷彿とさせる表情を取ることが無くなったフィーは、微笑むだけでもその内から漏れ出る輝きで皆を魅了している。本人は気が付いていないようだけど……
今も笑いかけられた給仕の顔が少し赤くなったのを僕は見逃していなかった。
フィーは、なぜかイグニス国の主食であるリースを見るとその顔を輝かせ、うっとりとしながら食していく。
あまりに嬉しそうに食べるフィーの蕩けるような顔は、この場ではとても危険だと察知する。
見ると他の皆もフィーのその顔に見惚れているようだった。
フィーのあんな可愛い顔をあいつに見せることになった僕は、最悪の状況に内心で悪態をつく。案の定あいつが放っておくはずがなく、フィーに話しかける。
話しかけられると思っていなかったフィーは、ビックリしていたようだ。
その大きい目を更に大きくするフィーは、素が出ていてとても愛らしかった。
「ははは。どうやらフィーリアスは我が国のリースを随分と気に入ってくれたものだ。……どうだ? その氷も我が国の火で溶けた貴方が、この国で薔薇を咲かせてみるというのは如何か? そうすれば随分愛らしい薔薇が咲く事だろう」
……まさか。陛下自らがフィーを誘うなんて……
明らかな側室勧誘に、僕は一瞬怒りで前が見えなくなる。なんとか自分を押さえ込もうとするが手が震える。
護衛に立っているラクスが、殺気を放つのがわかる。
僕の空気を察したフィーがなんとか話を変えようとするが、勿論あいつにそんな事が通じるはずがない。
さっきよりももっと直接的な表現に流石に焦ったフェイゴ王太子が、父親を諌める。
自分の父親ぐらい御しておけ、と無理難題の悪態を心でつく。
すると、当人であるフィーは全く気が付いていないのか、本気であいつの言葉を社交辞令だと思っているようで、的外れなお礼を言った。
ーーーいい加減自分の魅力を正しく認識して欲しい。
僕は心からそう思った。
部屋に戻ると就寝まで別々に支度した。
ーーー危なかった。多分部屋に戻って2人きりになっていたら、間違いなくフィーに襲いかかってしまっていた。
特に、あいつに煽られた僕は、フィーへの独占欲から酷くフィーを犯したい気分になっている。
それがフィーを傷付ける事だと分かっている僕は、風呂でとりあえず自己処理をした。
こうでもしないと同じベッドでは眠れそうにないからだ。
でも、同じベッドに入ると自分を抑える自信がなくなり、いつもよりフィーと距離を保とうとする。
「……ジル? 今日大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。フィーは良くやったよ。疲れているだろうからもうお休み」
不安に揺れる瞳のフィーを見た僕は、おでこに軽くキスすると頭を撫でる。
予想通り疲れていたフィーは安心したようにぐっすりと眠りにつく。
そのフィーのあどけない寝顔を見ると、僕はまた欲情する自分を抑えることが出来なくなった。
そのままトイレに行き自己処理をしてから、そっとフィーと距離をとってベッドに入る。
この地獄の夜があと3日も続くのかと思うと、気が狂いそうになってくる。
こうして僕は、浅い眠りを繰り返しつつ眠れぬ夜を悶々と過ごしたーーー
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