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34.イグニス国編〔1〕 sideフィーリアス&ジルヴェール
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《side フィーリアス》
いきなりですが、ジルと喧嘩をしています。
うーん? 喧嘩? まぁ、意見の不一致というやつですかね。
でもでも、ぜーったいに私は譲らないのっ!!
喧嘩の原因は、隣国イグニス国への挨拶と顔見せを兼ねた訪問旅行にあるーーー
隣国であるイグニス国は、『隣国』という言葉から東西どちらかにあるとイメージさせるけど、ウェントゥス国の南に位置する。ウェントゥス国は西側を海、東側は南北に長い大きな湖が存在し、北側は神々の山々と言われる大きな山脈が聳え立っている。
なので、国境を隣接しているのはイグニス国だけだったりする。
山々の先はまだ人々は越えたことないので、未知の地域となっている。
この世界は魔法大戦により一度滅亡の危機を迎え、その後生き残った人々たちが細々とした生活を営み今現在の暮らしまで続いている。前世的に考えると人口もまだまだ少なく、皆のんびりと日々の暮らしを営んでいる感じだ。
大戦で失われた知識や技術も多くある、と前にチラッとジルの魔法講義から聞いたことがある。そんなわけで国家同士の争いは禁じられているだけじゃなく、ぶっちゃけそんな事している暇なんてないので、各国お互い手を取り合って仲良く相互依存で頑張っているのである。
我が国ウェントゥス国は農業・畜産業を主に営んで輸出しているため、世界の食糧基地ともいえる。今回訪問するイグニス国は鉄鋼業を主としている国で、我が国との繋がりは非常に大きい。農具大切!
昔から繋がりがあるイグニス国とはちょこちょこ訪問しあっているらしく、今回はウェントゥス国の王太子夫妻となった私たちの挨拶と顔見せを兼ねて、私とジルが訪問することになったのだ。
イグニス国も同じ歳頃の王太子夫妻がいるので、将来も兼ねて仲良くしましょう的なやつだ。
さて。なぜここで喧嘩になっているかというと。
ーーーそれは、閨関係なのである……
ウェントゥス国の王都からイグニス国の王都までは、馬車で3日ほど。今回そこまで大々的な訪問ではないのでジルにはラクス様、私にはエステラを供にしての訪問だ。まぁ、その他荷物やら護衛やらで結構の人は移動するのだけどね。なので、道中の宿は男女で別れてジルとは別々になる。滞在予定は5日なので、往復すると計11日の禁欲生活となるわけだ。
でも、ジルってばそれが耐えられないと言うの。11日だよっ! たった11日なんだよ!! 訪問先では一緒の寝室で就寝することをジルは強固したらしく、まぁそれは夫婦だからいいとしても、他所様のお家にお泊まりしてそこで致すって絶対ありえないよねっ!!??
今でも正直慣れなくて考えないようにしているけど、ベッドメイキングとかは侍女たちがしてくれているわけで、その、致した後とかバッチリ残っているわけで。
それが、他所様のっ! 侍女にっ!! 公式訪問中にっ!!!!
いやーーー! 考えただけで死ぬぅぅぅぅう。死んじゃうよ恥ずかしくてっ!!
という訳で、ジルに訪問中のいちゃこらは最低限でお願いします、と言ったところ結婚して初めて結構大きな喧嘩をしてしまったのである。
……でも、絶対、絶対に私は譲らないもん……
断固として譲らない私に折れてくれたジルによって、なんとか出発までには喧嘩を終えることができた。
出発前日に抱き潰されてヘロヘロの出発日を迎えるわけにもいかないので、前日の情事はほどほどにお願いしたらとても苦しそうな顔をしたけど、そこも譲るわけにはいかないっ!
……ちょっとジルに申し訳ないような気がして心が痛んだけど。
ーーーけどけどっ! 私は悪く無いと思うのっ!!
♢♢♢
出発日の前の晩からちょっと不穏な空気はあったものの、とりあえず3日の旅程は何事もなく終わった。
馬車にはエステラとラクス様も同乗しており、私はもっぱらエステラと、道中変わりゆく景色や隣国での流行のオシャレ関係の話で盛り上がっていた。
……ジルがなんとなく余所余所しいのは気のせいだと思いたい……
心の奥がチクチク痛むのを見ないフリして、エステラと道中を楽しんだ。
でも、皆なんとなく私とジルが余所余所しいのに気が付いているのか、イマイチ盛り上がらない感じはしていた。
あーー!! ポンコツの私にはもうどうしていいか分からないよぉ~。到着前なのにすでに心は折れそう……
そのままの流れでイグニス国の王都へと到着し、王城へと通された。
イグニス国は南側に位置しており、ウェントゥス国よりは温暖な気候となる。温暖といえば言い方がいいが、ぶっちゃけて言うと結構暑い。
カラッとしているしそこまで気温が高い訳では無いけど、何せ淑女としてガチガチにコルセットやらドレスを着込んでいる私はそれだけでクラクラしてくる。
こっちの気候に合わせて袖の短いドレスは着ているものの、暑いものは暑い。淑女なのでそんな素振りは見せないけどね。何にせよ苦行である。
王城に到着すると、イグニス国の王太子夫妻が出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。ジルヴェール・アニマ・ウェントゥス殿下」
「こちらこそ、フェイゴ・フェルム・イグニス殿下自ら出迎えてくださるとは。ありがとうざいます。私の事はぜひジルヴェールとお呼びください」
「あぁ。私もぜひフェイゴとお呼びください」
イグニス国王太子のフェイゴ殿下は、赤毛が強めのブロンドの持ち主で、ちょっとおっとりした雰囲気のイケメンさんである。少し垂れ目なのが益々おっとりさを醸し出している。
「お初にお目にかかりますジルヴェール殿下。王太子妃と務めさせていただいておりますシュテアネと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」
にっこり笑って挨拶してくれたシュテアネ様は、濃いピンクの髪を緩やかに纏められて、ややふくよかな身体にあった大らかさが醸し出された美人さんだった。ただ大らかなだけでなく、その瞳は知性に輝いておりとても頼もしいお姉さん!って感じで、私は初めてお会いしたけどすぐに好きになった。
「初めましてフェイゴ殿下。シュテアネ殿下。フィーリアスと申します。まだまだ王太子妃として経験も浅く未熟者ではございますが、ぜひ色々とご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
にっこりと淑女の挨拶を行う。うひゃ~緊張するわ~。
「まぁ。フィーリアス様はお噂通り大変お美しい方ですわね。ジルヴェール様と並ばれると本当にお綺麗なご夫婦で、非常に目の保養になりますわ。ーーー形式ばった挨拶はこれぐらいにして、どうぞ仲良くしてくださいねフィーリアス様」
シュテアネ様にそう言われてホッとした私は、笑顔で返事をする。いい人で良かったと心から思った。
挨拶はこれぐらいにして、そのまま私達は滞在部屋へと案内された。こうして短いけれども初めての異国でのお仕事が始まった。出張業務頑張りまーす!
お互いの交流を深めることが主な目的である今回の訪問では、基本的に王族同士での交流で日程がほぼ終わる。
初日は疲れているだろうからと部屋でゆっくりして、そのまま懇親会を兼ねた夕食会だ。明日からは昼間はジルとは別れてお互い別々に交流を図る。私はもっぱらシュテアネ様とお茶会だ。あまり緊張しなくても良さそうな人柄だったので楽しみだ。
寝室は同室でも、イグニス国の侍女達にも手伝ってもらい各々の部屋で夕食会の支度をする。
ここまでジルと2人きりにならないしジルと会話をしない事が続いたのは、結婚してから初めてだ。
……やばい。もうダメ。ジルにぎゅうっとしたい……
だんだんジル不足になっていく自分がすごく実感され、寂しくて仕方がなくなってくる。でも、国務の一環でお仕事だから! 我慢せねば、と自分を戒める。
袖の短いドレスに着替えさせられて髪もアップにされると、夕食会へとジルと連れ立っていく。
久々にジルに触れる事ができた嬉しさから、いつもよりちょっとジルの腕を自分の方へ寄せたんだけど、何故かジルがそっと私と距離をとる。
……なんで……
夕食会前なのに、めちゃくちゃ動揺して泣きそうになってしまった。
《side ジルヴェール》
フィーと初めて喧嘩をしてしまった。でも僕は悪くないと思う。
フィーは僕のそばにいるべきだし、僕はフィーを離すつもりはない。フィーがそばにいるとフィーを抱きたくなるのは当たり前だと思う。
移動中の3日間フィーと一緒に寝れないだけで僕は気が狂いそうになるから、せめて滞在中は一緒に寝れるように寝室は同室でとお願いした。
でも、フィーと一緒のベッドに寝ていて、僕がフィーを抱かない訳がない。
フィーにそう言うと、フィーは初め驚いたような顔になり、その後顔を真っ赤にしながら怒り出した。
曰く、他所様のお家で致すとは何事か、噂が広まる、等々……
僕は別にそんなことはどうでも良かったのでフィーにそう言うと、フィーが益々怒った。あれだけ怒ったフィーを見たのは、北部の領地で監禁して初めて顔を合わせた時以来だ。
……僕は一旦は意見を翻さなかったけど、烈火のごとく怒るフィーを見て反省した。
ーーーフィーがあれだけ怒るような事をする勇気は、僕に無い。
だから、訪問先ではなるべくフィーと接触しないようにしないと……
僕は自分の自制心がどこまで保てるか不安になりながらも、訪問に向けての準備を行う。
♢♢♢
道中の馬車にはラクスとエステラを同乗させた。フィーと2人きりになって、フィーを襲わない自信なんて全くなかった。
出発の前日に、暫く味わえないフィーを思う存分抱いておこうと思ったのに、まさかの1回でストップがかかってしまった。
はぁ……フィーが足りない……全然足りない……
フィーに口付けしてそれだけで終える自信がない僕は、フィーに触れるのも躊躇ってしまう。
それもまたフィー不足に陥る事になるというのに、僕はその悪循環にどっぷり嵌っていく。
馬車の中から外を見ながら、これから赴くイグニス国の王の顔を思い出し憂鬱になる。結果、僕はさっきからずっと同じ事ばかり考える。
ーーー帰りたい。
僕をこんなに弱気にさせるのは、この世でフィーしかいない。
イグニス国の王城へ到着し、王太子夫婦と挨拶を交わす。第二王子として長年公式の場に出席していなかった僕と会うのは初めてだろうに、フェイゴ様は探るような様子もなくニコニコと挨拶をしてくる。
あの陛下の息子とは思えないぐらいのんびりとした気質だ。王太子妃のシュテアネ様もフィーと仲良くしてくれそうでホッと一安心した。
フィーの噂がどれくらいイグニス国で出回っているかは正しく分からないから、警戒していた分やや拍子抜けした。
ただ、出迎えた他の面々がフィーの顔をチラチラと見ているから油断は出来ない。フィーは本当人前に出したくない。自分の美貌を認識していなさすぎてハラハラする。
部屋へと案内された僕は、これからの滞在を思うと憂鬱な気持ちになった。
フィーと同室とはいえ、支度は別々の部屋で行われる。これだから頭の硬い王族の扱いは嫌なんだ……
ただ、触れ合いを人に見られるのを極端に嫌うフィーの気持ちを蔑ろにするわけにもいかず、僕はフィーが近くにいるのにいないという、この世の中で考えられる1番の苦行を行なう事になった。
支度を終えたフィーの、いつもより短い袖から覗くほっそりとした白い腕を見るだけで僕はソワソワしてくる。しかも、フィーはあろうことか僕の腕をとると、いつもよりぐいっと引き寄せてきた。引き寄せられた腕にフィーの豊かな胸が僅かに当たっている感触がする。
……やばい……このままではフィーを押し倒してしまう。
焦った僕は、そっとフィーから距離を取り腕をなんとか当たらない位置に持ってきた。
気持ちを遠くにやっていた僕は、その時のフィーの顔を見る余裕なんて全くなかったーーー
いきなりですが、ジルと喧嘩をしています。
うーん? 喧嘩? まぁ、意見の不一致というやつですかね。
でもでも、ぜーったいに私は譲らないのっ!!
喧嘩の原因は、隣国イグニス国への挨拶と顔見せを兼ねた訪問旅行にあるーーー
隣国であるイグニス国は、『隣国』という言葉から東西どちらかにあるとイメージさせるけど、ウェントゥス国の南に位置する。ウェントゥス国は西側を海、東側は南北に長い大きな湖が存在し、北側は神々の山々と言われる大きな山脈が聳え立っている。
なので、国境を隣接しているのはイグニス国だけだったりする。
山々の先はまだ人々は越えたことないので、未知の地域となっている。
この世界は魔法大戦により一度滅亡の危機を迎え、その後生き残った人々たちが細々とした生活を営み今現在の暮らしまで続いている。前世的に考えると人口もまだまだ少なく、皆のんびりと日々の暮らしを営んでいる感じだ。
大戦で失われた知識や技術も多くある、と前にチラッとジルの魔法講義から聞いたことがある。そんなわけで国家同士の争いは禁じられているだけじゃなく、ぶっちゃけそんな事している暇なんてないので、各国お互い手を取り合って仲良く相互依存で頑張っているのである。
我が国ウェントゥス国は農業・畜産業を主に営んで輸出しているため、世界の食糧基地ともいえる。今回訪問するイグニス国は鉄鋼業を主としている国で、我が国との繋がりは非常に大きい。農具大切!
昔から繋がりがあるイグニス国とはちょこちょこ訪問しあっているらしく、今回はウェントゥス国の王太子夫妻となった私たちの挨拶と顔見せを兼ねて、私とジルが訪問することになったのだ。
イグニス国も同じ歳頃の王太子夫妻がいるので、将来も兼ねて仲良くしましょう的なやつだ。
さて。なぜここで喧嘩になっているかというと。
ーーーそれは、閨関係なのである……
ウェントゥス国の王都からイグニス国の王都までは、馬車で3日ほど。今回そこまで大々的な訪問ではないのでジルにはラクス様、私にはエステラを供にしての訪問だ。まぁ、その他荷物やら護衛やらで結構の人は移動するのだけどね。なので、道中の宿は男女で別れてジルとは別々になる。滞在予定は5日なので、往復すると計11日の禁欲生活となるわけだ。
でも、ジルってばそれが耐えられないと言うの。11日だよっ! たった11日なんだよ!! 訪問先では一緒の寝室で就寝することをジルは強固したらしく、まぁそれは夫婦だからいいとしても、他所様のお家にお泊まりしてそこで致すって絶対ありえないよねっ!!??
今でも正直慣れなくて考えないようにしているけど、ベッドメイキングとかは侍女たちがしてくれているわけで、その、致した後とかバッチリ残っているわけで。
それが、他所様のっ! 侍女にっ!! 公式訪問中にっ!!!!
いやーーー! 考えただけで死ぬぅぅぅぅう。死んじゃうよ恥ずかしくてっ!!
という訳で、ジルに訪問中のいちゃこらは最低限でお願いします、と言ったところ結婚して初めて結構大きな喧嘩をしてしまったのである。
……でも、絶対、絶対に私は譲らないもん……
断固として譲らない私に折れてくれたジルによって、なんとか出発までには喧嘩を終えることができた。
出発前日に抱き潰されてヘロヘロの出発日を迎えるわけにもいかないので、前日の情事はほどほどにお願いしたらとても苦しそうな顔をしたけど、そこも譲るわけにはいかないっ!
……ちょっとジルに申し訳ないような気がして心が痛んだけど。
ーーーけどけどっ! 私は悪く無いと思うのっ!!
♢♢♢
出発日の前の晩からちょっと不穏な空気はあったものの、とりあえず3日の旅程は何事もなく終わった。
馬車にはエステラとラクス様も同乗しており、私はもっぱらエステラと、道中変わりゆく景色や隣国での流行のオシャレ関係の話で盛り上がっていた。
……ジルがなんとなく余所余所しいのは気のせいだと思いたい……
心の奥がチクチク痛むのを見ないフリして、エステラと道中を楽しんだ。
でも、皆なんとなく私とジルが余所余所しいのに気が付いているのか、イマイチ盛り上がらない感じはしていた。
あーー!! ポンコツの私にはもうどうしていいか分からないよぉ~。到着前なのにすでに心は折れそう……
そのままの流れでイグニス国の王都へと到着し、王城へと通された。
イグニス国は南側に位置しており、ウェントゥス国よりは温暖な気候となる。温暖といえば言い方がいいが、ぶっちゃけて言うと結構暑い。
カラッとしているしそこまで気温が高い訳では無いけど、何せ淑女としてガチガチにコルセットやらドレスを着込んでいる私はそれだけでクラクラしてくる。
こっちの気候に合わせて袖の短いドレスは着ているものの、暑いものは暑い。淑女なのでそんな素振りは見せないけどね。何にせよ苦行である。
王城に到着すると、イグニス国の王太子夫妻が出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。ジルヴェール・アニマ・ウェントゥス殿下」
「こちらこそ、フェイゴ・フェルム・イグニス殿下自ら出迎えてくださるとは。ありがとうざいます。私の事はぜひジルヴェールとお呼びください」
「あぁ。私もぜひフェイゴとお呼びください」
イグニス国王太子のフェイゴ殿下は、赤毛が強めのブロンドの持ち主で、ちょっとおっとりした雰囲気のイケメンさんである。少し垂れ目なのが益々おっとりさを醸し出している。
「お初にお目にかかりますジルヴェール殿下。王太子妃と務めさせていただいておりますシュテアネと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」
にっこり笑って挨拶してくれたシュテアネ様は、濃いピンクの髪を緩やかに纏められて、ややふくよかな身体にあった大らかさが醸し出された美人さんだった。ただ大らかなだけでなく、その瞳は知性に輝いておりとても頼もしいお姉さん!って感じで、私は初めてお会いしたけどすぐに好きになった。
「初めましてフェイゴ殿下。シュテアネ殿下。フィーリアスと申します。まだまだ王太子妃として経験も浅く未熟者ではございますが、ぜひ色々とご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
にっこりと淑女の挨拶を行う。うひゃ~緊張するわ~。
「まぁ。フィーリアス様はお噂通り大変お美しい方ですわね。ジルヴェール様と並ばれると本当にお綺麗なご夫婦で、非常に目の保養になりますわ。ーーー形式ばった挨拶はこれぐらいにして、どうぞ仲良くしてくださいねフィーリアス様」
シュテアネ様にそう言われてホッとした私は、笑顔で返事をする。いい人で良かったと心から思った。
挨拶はこれぐらいにして、そのまま私達は滞在部屋へと案内された。こうして短いけれども初めての異国でのお仕事が始まった。出張業務頑張りまーす!
お互いの交流を深めることが主な目的である今回の訪問では、基本的に王族同士での交流で日程がほぼ終わる。
初日は疲れているだろうからと部屋でゆっくりして、そのまま懇親会を兼ねた夕食会だ。明日からは昼間はジルとは別れてお互い別々に交流を図る。私はもっぱらシュテアネ様とお茶会だ。あまり緊張しなくても良さそうな人柄だったので楽しみだ。
寝室は同室でも、イグニス国の侍女達にも手伝ってもらい各々の部屋で夕食会の支度をする。
ここまでジルと2人きりにならないしジルと会話をしない事が続いたのは、結婚してから初めてだ。
……やばい。もうダメ。ジルにぎゅうっとしたい……
だんだんジル不足になっていく自分がすごく実感され、寂しくて仕方がなくなってくる。でも、国務の一環でお仕事だから! 我慢せねば、と自分を戒める。
袖の短いドレスに着替えさせられて髪もアップにされると、夕食会へとジルと連れ立っていく。
久々にジルに触れる事ができた嬉しさから、いつもよりちょっとジルの腕を自分の方へ寄せたんだけど、何故かジルがそっと私と距離をとる。
……なんで……
夕食会前なのに、めちゃくちゃ動揺して泣きそうになってしまった。
《side ジルヴェール》
フィーと初めて喧嘩をしてしまった。でも僕は悪くないと思う。
フィーは僕のそばにいるべきだし、僕はフィーを離すつもりはない。フィーがそばにいるとフィーを抱きたくなるのは当たり前だと思う。
移動中の3日間フィーと一緒に寝れないだけで僕は気が狂いそうになるから、せめて滞在中は一緒に寝れるように寝室は同室でとお願いした。
でも、フィーと一緒のベッドに寝ていて、僕がフィーを抱かない訳がない。
フィーにそう言うと、フィーは初め驚いたような顔になり、その後顔を真っ赤にしながら怒り出した。
曰く、他所様のお家で致すとは何事か、噂が広まる、等々……
僕は別にそんなことはどうでも良かったのでフィーにそう言うと、フィーが益々怒った。あれだけ怒ったフィーを見たのは、北部の領地で監禁して初めて顔を合わせた時以来だ。
……僕は一旦は意見を翻さなかったけど、烈火のごとく怒るフィーを見て反省した。
ーーーフィーがあれだけ怒るような事をする勇気は、僕に無い。
だから、訪問先ではなるべくフィーと接触しないようにしないと……
僕は自分の自制心がどこまで保てるか不安になりながらも、訪問に向けての準備を行う。
♢♢♢
道中の馬車にはラクスとエステラを同乗させた。フィーと2人きりになって、フィーを襲わない自信なんて全くなかった。
出発の前日に、暫く味わえないフィーを思う存分抱いておこうと思ったのに、まさかの1回でストップがかかってしまった。
はぁ……フィーが足りない……全然足りない……
フィーに口付けしてそれだけで終える自信がない僕は、フィーに触れるのも躊躇ってしまう。
それもまたフィー不足に陥る事になるというのに、僕はその悪循環にどっぷり嵌っていく。
馬車の中から外を見ながら、これから赴くイグニス国の王の顔を思い出し憂鬱になる。結果、僕はさっきからずっと同じ事ばかり考える。
ーーー帰りたい。
僕をこんなに弱気にさせるのは、この世でフィーしかいない。
イグニス国の王城へ到着し、王太子夫婦と挨拶を交わす。第二王子として長年公式の場に出席していなかった僕と会うのは初めてだろうに、フェイゴ様は探るような様子もなくニコニコと挨拶をしてくる。
あの陛下の息子とは思えないぐらいのんびりとした気質だ。王太子妃のシュテアネ様もフィーと仲良くしてくれそうでホッと一安心した。
フィーの噂がどれくらいイグニス国で出回っているかは正しく分からないから、警戒していた分やや拍子抜けした。
ただ、出迎えた他の面々がフィーの顔をチラチラと見ているから油断は出来ない。フィーは本当人前に出したくない。自分の美貌を認識していなさすぎてハラハラする。
部屋へと案内された僕は、これからの滞在を思うと憂鬱な気持ちになった。
フィーと同室とはいえ、支度は別々の部屋で行われる。これだから頭の硬い王族の扱いは嫌なんだ……
ただ、触れ合いを人に見られるのを極端に嫌うフィーの気持ちを蔑ろにするわけにもいかず、僕はフィーが近くにいるのにいないという、この世の中で考えられる1番の苦行を行なう事になった。
支度を終えたフィーの、いつもより短い袖から覗くほっそりとした白い腕を見るだけで僕はソワソワしてくる。しかも、フィーはあろうことか僕の腕をとると、いつもよりぐいっと引き寄せてきた。引き寄せられた腕にフィーの豊かな胸が僅かに当たっている感触がする。
……やばい……このままではフィーを押し倒してしまう。
焦った僕は、そっとフィーから距離を取り腕をなんとか当たらない位置に持ってきた。
気持ちを遠くにやっていた僕は、その時のフィーの顔を見る余裕なんて全くなかったーーー
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