上 下
17 / 94

10.懐かしき神話

しおりを挟む
監禁されて以降ジル様が来なくなって、1週間経った。
その間、ご飯は気がついたら部屋の扉入り口付近(ギリギリ私の鎖が届く範囲)に置かれるだけで、人っ子1人見ていない。あまりにご飯を置いていく気配がしないので、幽霊屋敷かとちょっと怖くなったりした。

勿論、入浴だって1人でする。これ、前世の記憶があるからいいけど普通の公爵令嬢だったら発狂するんじゃない? と心で少し突っ込んでしまった。
勿論、私は1人で満喫させていただきましたとも。

でも、これだけ1人の時間があるとどうしても色々考えてしまう。
そもそもなんでジル様はこんな監禁してきたんだろう……私を自分のモノにするためってなんだ?
これから私は一体どうなるんだろう……このまま死ぬまで監禁?


ーーーもしかしてっ!


これまでの展開を思い返して一つの結論に達した。私が牢屋に入れられた時、なんかあそこにいる皆リリー様を慕っている、みたいなこと言ってなかった?
ということは、だ。
この監禁も皆に愛されたスーパーヒロイン(予想)リーリウム様の為の復讐なんだ!!
ジル様は自分の愛を貫いて、こんな手の込んだ復讐までするなんて……

自分がこんなことまでされる悪役令嬢(予想)になってしまったことに、もはや悲しみも湧いてこない。
いやいや、そろそろこの(予想)は外して、正々堂々と悪役令嬢を名乗るべきではないだろうか。
ということは、だ。私が死ぬまでここで監禁生活になるのかな? うーん。ま、結構快適生活なので娼館送りとか処刑とか、最悪の事態は免れたからいっか!



……でも。


結局皆リリー様を愛している。私なんかではなくて。


ーーー自覚すると、それは結構心の奥深くを抉ってきた。そして、ジワジワと私を苦しめる。


例えば、今日も1人お風呂に浸かりながらふと思い出す。
ジル様が私を洗ってくれてたんだって。
すごく優しい手付きで洗ってくれた事とか、髪の洗ってくれたのがサイコーに気持ちよかった事とか思い出して。

でもそれだって、結局はリリー様への復讐だったって事なわけで。
あの優しさも嘘だったんだなぁ、と思うと何故か胸がギュッと苦しくなる。
ジル様凄い策士ですよ。さすが黒い笑顔をお持ちです。単純な私なんて、まんまとその策に嵌って、優しくされたジル様に心を許しかけていましたよ……

『単純な自分』ってことで、またまた自己嫌悪に走る。トリスティン様のことだ。
思い返してみると、トリスティン様が私を『フィーリアス』って甘く呼ぶ時って、自分に都合悪い時と私を使いたい時だった気がする。
それなのに、ちょっと甘く名前を囁かれただけで有頂天になっていた自分。そして彼が自分に好意を持ってくれていると勘違いをしていたあの頃の自分。

そもそも、婚約者に決まった時にトリスティン様に『俺の隣に立つのに相応しい大人の淑女になれ』って言われた所から私の11年間の努力の歴史が始まったんだけど、そもそも6歳差なんてひっくり返せるわけもないのに、単純な私は期待されていると勘違いして立派な王妃になるべく邁進し続けた。

実は簡単な話で、6歳も下の私なんてトリスティン様の好みではなかったのだ。
1歳上のリリー様を選んだことからもよく分かる。

結局、前世の記憶があっても私が単純でチョロい人間である事には変わりなかった。

……芋づる式に自分の痛い過去を思い出して、物凄い精神的ダメージを食らった。自爆だ……

一つだけ気になることがあるといえば、ジル様が私を『フィー』と呼んだことだ。私の愛称が『フィー』であることは、家族ぐらいしか知らない。それも、幼い間だけだった。
トリスティン様は勿論、そんな愛称で呼んだことすらない。
まぁ、そんな些細なこと今はどうでもいいわけで。


ーーー結局私は誰からも認められない、愛されない人間なのだから。


と、ここまで考えると暗くなるだけなので、凄くモヤモヤしてくる!
結局これじゃあ前と変わらないじゃないか、と自分を叱咤激励する。前世の記憶がある今、昔の私とは違うってことを忘れちゃいけないぞー!


気持ちを切り替える為に、部屋に置いてあるクローゼットと本棚に行く。
そう、ここ監禁専用部屋のはずなんだけど、今の私には意外と快適だったりする。
クローゼットにはたくさんの可愛い服があって、よりどりみどり。1人で着替えれるようにドレスではなく簡素なワンピースなんだけど、多分これ素材が最高級!って物ばっかりなんだよね~何故か。
きっと、王族からの配慮なんでしょう。一応私元公爵令嬢。

クローゼットから自分好みの可愛いワンピースをチョイスして着替えると、無駄に鏡の前でクルリと回ってみる。足枷がジャラジャラ言うのは見えてない!
うんうん。今日の私も可愛いぞ~。可愛いワンピースに着替えれて満足満足。

さてさて、次はどの本読もうかな~、と今日の本を求め本棚へ移動。
前世みたいにテレビがあれば完璧なんだけど、ここにはそんなものは存在しないから、本を思う存分堪能する。
本はすごい種類がある。実用的な勉強向けの本から、小説やら挿絵のある本とか、絵ばっかりの本とか。
絵は手書きだからすごい迫力で、まるで絵画を見ているみたいで飽きない。まさに娯楽品だ。

「相変わらず順応性高いなぁ私……」

このバリエーションの多さに何故かジル様の愛を少し感じて、テンション上がってしまった自分を諌めるように、思わず独り言で突っ込んでしまった。

……っは! いかんいかん私思っていた以上にメンタルきてるのかしら……

ジル様の愛とか云々は置いといて、これだけの本がある事には素直に感謝感謝だ!

ーーだって、こんな娯楽品の本を、私は初めて見るのだから。


そもそも私、婚約者に決まった時から、ずーーーーーーっと王妃勉強しかしてなかった。
自国だけでなく各国の歴史、全ての貴族の名前とその交流関係、語学の勉強に、国政のための勉強。更には令嬢として、次期王妃として恥ずかしくないように、マナー、ダンス、ピアノ、刺繍等々……
6歳も年上のトリスティン様に見劣りすることがないように、トリスティン様が恥をかかないように。
そればかりを思って、ずっとずっと勉強ばかりしてきた。

7歳からずっとって、本当、今思えば何であんなに必死だったのか……バカらしい……
自分の青春全て、勉強とか勉強とか勉強に捧げてきたなんて……

あーーー! ダメダメ!! どうも思考がネガティブ方面にしか発動しない~。
また黒歴史に沈みそうになる自分を無理やり持ち上げて、本棚を覗く。
そこには、子供向けの絵本があった。

「あ、懐かしい……」

それは、いわゆるこの世界の成り立ち、神話を絵本にしたものだった。
この世界は、世界を作った神々を大切にしている。
前世でいう教会とかは特にないけど、皆何かある時は各々心の中で神様に祈ったりしている。
もちろん、言葉に出して神々に祝福をすることもある。
その絵本は、私がまだ婚約者になる前に、兄や姉によく読んでもらったものだった。

懐かしい思い出の絵本の表紙をそっと撫でると、頁を開いていくーーー

==========

昔々、神々は数々の魔法を使ってこの世界を作られた。
神々はこの世界を非常に愛していて、特に神々に愛された魂を持つ人たちを神の子と呼んだ。
神々に愛された神の子は、その力の象徴である魔法をほんの少しだけ使う事ができた。
神々はこの世界が安定するのを見届けて、自分たちの世界へ帰ることとなった。
残された人々は、神が帰ることを嘆き悲しんだ。
神々は、いつでも自分たちがこの世界を見守っていることを伝え、帰っていく。
帰るとき、神々は自分たちが大切にしていた鏡を割ってしまい、粉々になったそのカケラは、世界中に散り散りになり、それは世界を照らした。


んん? あれ??
なんかこの絵本私が知らない続きがある……


散り散りになったそのカケラは、神々が愛していた神の子の魂に飛んでいき、一つになった。
カケラを持つ魂は、神々ほどではないにしても、もっと強い魔法を使えるようになった。
カケラを持つ魂のことを、人々はフラーマと呼ぶようになる。

また、ソラへ帰る時、神々は涙した。
その涙が地上へ降って、固まり、石へと変わった。
神の石と呼ばれるそれは、フラーマと呼応しフラーマを有する人が持つと淡く光った。


==========

よく読んでた絵本に続きがあって非常にワクワクした。
もしかして、魔法が使えるってことは、その神の子の子孫が王家なのかしら?

そんなことに思いを馳せたり、兄や姉たちとの懐かしい思い出が蘇ってきたりして、久々に楽しい気持ちになった。

やっぱり読書はサイコーだね!


ーーーでも、そんな明るい気分も、扉を開ける音が聞こえて霧散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

執着系皇子に捕まってる場合じゃないんです!聖女はシークレットベビーをこっそり子育て中

鶴れり
恋愛
◆シークレットベビーを守りたい聖女×絶対に逃さない執着強めな皇子◆ ビアト帝国の九人目の聖女クララは、虐げられながらも懸命に聖女として務めを果たしていた。 濡れ衣を着せられ、罪人にさせられたクララの前に現れたのは、初恋の第二皇子ライオネル殿下。 執拗に求めてくる殿下に、憧れと恋心を抱いていたクララは体を繋げてしまう。執着心むき出しの包囲網から何とか逃げることに成功したけれど、赤ちゃんを身ごもっていることに気づく。 しかし聖女と皇族が結ばれることはないため、極秘出産をすることに……。 六年後。五歳になった愛息子とクララは、隣国へ逃亡することを決意する。しかしライオネルが追ってきて逃げられなくて──?! 何故か異様に執着してくるライオネルに、子どもの存在を隠しながら必死に攻防戦を繰り広げる聖女クララの物語──。 【第17回恋愛小説大賞 奨励賞に選んでいただきました。ありがとうございます!】

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...