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第一章 楼桑からの使者
4-㉒
しおりを挟む大公宮脇のいまは足を踏み入れる者とてまれな質素な小舎に場を移し、ダリウスは懐かしむように三人に昔話しを語った。
「ここはその昔われらのような門閥貴族の子弟が、正式な役職に就く前の部屋住みの頃にいつも不満を語り合っていた場所だ。〝侍伝苑〟と呼ばれていた。主な顔ぶれはガリフォンを中心として儂と、ブルースお前の父御であるコルデス。当時から大人しいがよく気が利いていたユーディと、まだほんの子どもだったくそ生意気なブラーディン。みな若かった、ここが儂らの青春の溜まり場というやつだったんだろうな。そしてあるときから、そこにペランが仲間に加わった。――そして可愛いマルコも。儂らは大公であるブルガ様と、悪夢のように恐ろしいが頼りになるシュタイナー様とに見守られ、自由闊達に生きていた。宮廷の大人たちからは、相当煙たがれていたがな。それに時々ブルガ様のお気遣いで、内密にジャンドール様が酒と食いもんを小言と一緒に運んできてくれたりもした。思い出せばすべてが懐かしい、まるで昨日のことのように」
三人にとって周知の名もあれば、まったく知らぬ名前も出てくる。
ダリウスは口元を綻ばせながら、若き大公ブルガと青年家臣団との、目くるめくような日々の物語を少しずつ話し始めた。
「あれは熱き日々であった、みながサイレンの明日を思って行動しておった。かなえられぬ理想などあるはずがないと、勝手に思い上がっていた。若さと時間に限りがあることなど、爪の先ほども考えてはいなかった。それはいつの世にもある、若さゆえの暴走と呼んでもよかっただろう。しかしわれらには、その先にはっきりとした目標を見せくださる偉大な存在があった。ブルガ様という類い希なお方が身近に居られたのだ。ブルガさまは大きな大志を持ったお方であった。われらの考えも及ばない世界を、みなに見せて下さった。サイレンと言う一国にとどまらぬ、大きなことを考えておられたのだ。大国の影に怯えることのない小国どうしが手を握り合った、グレナダのような名前ばかりではない、真の意味での聯合国家と言う壮大な夢を描いておられた。儂らは若さという未熟さ故に、多少の諍いごとは日常茶飯事だったが、それでも確かに上手くいっていたのだ、途中までは――」
それまで明るかったダリウスの顔が、ここまで話したところで急に曇った。
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