アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志) 第一巻「運命の婚礼」前篇

泗水 眞刀(シスイ マコト)

文字の大きさ
上 下
64 / 82
第一章 楼桑からの使者

4-⑤

しおりを挟む



 今回の任務が、彼にとっての表舞台へのデビューとなるはずである。
 才をひけらかせすぎる感のあるブラーディンに対する、一種のお目付け役と言ったところだろう。

〝さあてクルーガーよ、この癖の強いブラーディンをどのように捌き、面目を潰さずに役目をまっとうさせるか。お前の腕を試すよい機会だぞ〟

 今日も宰相府の自分の机で山積する難事を、ひとつひとつ誠実にこなしているであろう、聡明でありながらも控えめな表情の青年の顔を思い浮かべ、ガリフォンはほくそ笑んだ。

 ならば最初からボルスとクルーガーを使者に立てればよいと思うかもしれぬが、物事というのはそう簡単なもではない。

 使者にはそれなりの名前が必要である。

 サイレン軍総帥と商都シャザーンの領主で財務卿という肩書きが、世間ではものを言う。
 表の顔は派手であるに越したことはない、一将軍と下級実務官では通る話しも通らないのだ。

 副官の役目は、困難な実務を裏で調整し推し進める。
 それが出来るものにしか務まらない。
 ましてや正使がダリウスとブラーディンでは尚更であった。

 わずかの間にここまでの判断を下すガリフォンの手腕からして、やはり並みの為政者とは違うことがわかる。
 だからこそダリウスやブラーディンという癖のある者を、従わせることができるのであろう。

「最後の難問は殿ですな。ご苦労を掛けるが宰相殿、ここは貴殿にお願いするよりあるまい」
 息苦しそうに巨体を椅子に沈めたビンスウェルが、申し訳なさそうな顔をガリフォンへ向けた。

「分かっておる、なんとかやってみよう」
「殿は娘のエメラルダを信用しておられるようすじゃ、それにブルースとも心安くしておられる。この二人からも説得させてみればよかろう。グリッチェランドに発つ前に、二人には儂から話しておこう。後は頼むぞガリフォン」
「お前こそ短気を起こさず、首尾よくことを果たせよ」

 国の政と武の両輪たる二人は、互いのこれからの任を気遣いしかと目を合わせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...