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第一章 楼桑からの使者
4-⑤
しおりを挟む今回の任務が、彼にとっての表舞台へのデビューとなるはずである。
才をひけらかせすぎる感のあるブラーディンに対する、一種のお目付け役と言ったところだろう。
〝さあてクルーガーよ、この癖の強いブラーディンをどのように捌き、面目を潰さずに役目をまっとうさせるか。お前の腕を試すよい機会だぞ〟
今日も宰相府の自分の机で山積する難事を、ひとつひとつ誠実にこなしているであろう、聡明でありながらも控えめな表情の青年の顔を思い浮かべ、ガリフォンはほくそ笑んだ。
ならば最初からボルスとクルーガーを使者に立てればよいと思うかもしれぬが、物事というのはそう簡単なもではない。
使者にはそれなりの名前が必要である。
サイレン軍総帥と商都シャザーンの領主で財務卿という肩書きが、世間ではものを言う。
表の顔は派手であるに越したことはない、一将軍と下級実務官では通る話しも通らないのだ。
副官の役目は、困難な実務を裏で調整し推し進める。
それが出来るものにしか務まらない。
ましてや正使がダリウスとブラーディンでは尚更であった。
わずかの間にここまでの判断を下すガリフォンの手腕からして、やはり並みの為政者とは違うことがわかる。
だからこそダリウスやブラーディンという癖のある者を、従わせることができるのであろう。
「最後の難問は殿ですな。ご苦労を掛けるが宰相殿、ここは貴殿にお願いするよりあるまい」
息苦しそうに巨体を椅子に沈めたビンスウェルが、申し訳なさそうな顔をガリフォンへ向けた。
「分かっておる、なんとかやってみよう」
「殿は娘のエメラルダを信用しておられるようすじゃ、それにブルースとも心安くしておられる。この二人からも説得させてみればよかろう。グリッチェランドに発つ前に、二人には儂から話しておこう。後は頼むぞガリフォン」
「お前こそ短気を起こさず、首尾よくことを果たせよ」
国の政と武の両輪たる二人は、互いのこれからの任を気遣いしかと目を合わせた。
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