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第一章 楼桑からの使者
3-⑯
しおりを挟む一瞬の沈黙の後ユーディは、いつもの温和な表情に戻り口を開いた。
「わかったダリウス将軍、いや義兄上。私も少々大人気ない態度を取ってしまっていたようだ、此度のことは水に流しましょう。ネール総監、トリキュス卿、先ほどは声を荒げてすまなかったな、他の方々も許されよ」
「なにをおっしゃるユーディ殿、謝らねばならぬのはわれらの方だ。他意はなかったとはいえ、よくよく考えれば口にしてはならぬことを言ってしまった。ダリウス将軍の申される通り、この場で首を刎ねられても致し方のない所でござった。重ねて謝罪致す、なにとぞ許して頂きたい」
トリキュスがこれ以上はないというほど、深々と頭を下げた。
「トリキュス殿のおっしゃる通りでござる。なんとも思慮に欠けた愚かなことを申してしまいました。いまさら取り返しのつかぬこととは重々承知しておりまするが、なにとぞ此度ばかりは容赦して頂きたい。公太后さまへあらせられても、心からの謝罪をご許容していただけるよう貴公から取りなしてくださいませぬか。この通りでござる」
ネールも同様に、深く頭を下げた。
「お二人とも、お手をお上げください。このことはすでに過ぎ去った話しなれば、一切を水に流しましょうぞ。娘とてなんの怒ったりするものでしょう、優しい心根を持った子なのですよ。いままで人を恨んだことなど一度たりともありませぬ。わが子とはいえなかなかに自慢の娘でござるよ、親馬鹿でござろうかな。ははは・・・」
「よう言うたユーディ。お前に怒鳴り声や、あのような形相は似合わぬ。その温和で人を安心させるような懐の深さこそが、わがサイレンの誇る名外交官の姿よ。相手に大声を上げたり、心を突き刺すような憎まれ口を叩いたりするのは、儂とブラーディンめに任せておけばよい。人にはそれぞれ適した役割と言うものがあるからのう。しかしさっきは中々に迫力があったぞ見直したわい。トリキュスとネールの宿み上がった様はなんとも滑稽であったのう。しかしボルスよ、あの勢いは戦場でも十分通用するとは思わんか」
そう言って部将であるボルスの肩を叩きながら、ダリウスが豪快に笑った。
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