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第一章 楼桑からの使者
3-③
しおりを挟むライディン・ド=マーベル、ヴァビロン帝国宰相にして皇帝特別最高顧問。
アギレリオス聖教枢機卿の名を持つ帝国随一の人物。
国境に現れた食い詰め商人から一代でのし上がり、いまや帝国の政治・軍事両面にわたり絶大なる力をふるう怪物的人間である。
「まさにわれらの考えも同じでござる。あの生ける伝説とまで謳われる怪物が、とうとう大陸制覇へと動き出したと思われる」
「これは只事ではござらぬな。きゃつめが出てきたとなれば、安易な小細工などなんの意味もなさぬ、笑うしかないのお──」
「・・・・・」
ガンツは黙ってガリフォンの思慮深く老獪、それでいてどこか吹っ切れてでもいるかのような、深く青い瞳を見詰めた。
「打つ手を誤れば、この世からわがサイレンは消え去ることとなる。マーベル枢機卿が本気だとすれば、まず十中八九貴殿の申された通りになろう。かといって黙ってヴァビロンの軍門に下るサイレンではない、敵わぬまでも一矢報いる覚悟で立ち向かうことになろうのう。なにせわが国にはダリウスという、武の塊のような男がいるのでな・・・」
ガリフォンの口から出て来る沈痛な覚悟の言葉に、さもありなんといった表情でアルバートが頷く。
「さすがはサイレン公国でござる。わが楼桑はそこまでの覚悟は出来ますまい――。そこでわが主ロルカ王が考えられたのが、ロザリー姫とフリッツ殿下の縁組でござる。楼桑王国とサイレン公国とが縁戚という絆で深く結びつき、同盟関係を築けば、いかな大国ヴァビロンとはいえ易々と付け入る隙はできぬはず。この話し、わが命に代えても必ず成就させる覚悟で儂はここへ参っておりまする」
「それは某も同様の思いじゃ、二国の関係を固く築きヴァビロンにあたる。それ以外に、生き残る道はなさそうでござるな」
「左様。ヴァビロンに横やりを入れさせず、素早く縁組の既成事実を諸国へ披露する。情報を漏らさず迅速にすべての準備を進める、これこそが成否の要でござる。話しが漏れれば必ずヴァビロンは潰しに掛かるは必定。なればこその此度のような訪問となった次第。得心して頂けましたかガリフォン殿」
「なるほど――。いかにしてヴァビロンの目を掠めてことを運ぶか。それこそが可否を決すると言う訳ですな」
ガリフォンの蒼い瞳が、ガンツの老いてはいるが澄んだ鳶色の瞳を正面から見詰めた。
国を異とする二人の老臣が、互いの目と目で心を確かめ合った瞬間であった。
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