アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志) 第一巻「運命の婚礼」前篇

泗水 眞刀(シスイ マコト)

文字の大きさ
上 下
45 / 82
第一章 楼桑からの使者

3-③

しおりを挟む


 ライディン・ド=マーベル、ヴァビロン帝国宰相にして皇帝特別最高顧問。
 アギレリオス聖教枢機卿の名を持つ帝国随一の人物。

 国境に現れた食い詰め商人から一代でのし上がり、いまや帝国の政治・軍事両面にわたり絶大なる力をふるう怪物的人間である。

「まさにわれらの考えも同じでござる。あの生ける伝説とまで謳われる怪物が、とうとう大陸制覇へと動き出したと思われる」
「これは只事ではござらぬな。きゃつめが出てきたとなれば、安易な小細工などなんの意味もなさぬ、笑うしかないのお──」

「・・・・・」

 ガンツは黙ってガリフォンの思慮深く老獪、それでいてどこか吹っ切れてでもいるかのような、深く青い瞳を見詰めた。


「打つ手を誤れば、この世からわがサイレンは消え去ることとなる。マーベル枢機卿が本気だとすれば、まず十中八九貴殿の申された通りになろう。かといって黙ってヴァビロンの軍門に下るサイレンではない、敵わぬまでも一矢報いる覚悟で立ち向かうことになろうのう。なにせわが国にはダリウスという、武の塊のような男がいるのでな・・・」
 ガリフォンの口から出て来る沈痛な覚悟の言葉に、さもありなんといった表情でアルバートが頷く。

「さすがはサイレン公国でござる。わが楼桑はそこまでの覚悟は出来ますまい――。そこでわが主ロルカ王が考えられたのが、ロザリー姫とフリッツ殿下の縁組でござる。楼桑王国とサイレン公国とが縁戚という絆で深く結びつき、同盟関係を築けば、いかな大国ヴァビロンとはいえ易々と付け入る隙はできぬはず。この話し、わが命に代えても必ず成就させる覚悟で儂はここへ参っておりまする」

「それは某も同様の思いじゃ、二国の関係を固く築きヴァビロンにあたる。それ以外に、生き残る道はなさそうでござるな」
「左様。ヴァビロンに横やりを入れさせず、素早く縁組の既成事実を諸国へ披露する。情報を漏らさず迅速にすべての準備を進める、これこそが成否の要でござる。話しが漏れれば必ずヴァビロンは潰しに掛かるは必定。なればこその此度のような訪問となった次第。得心して頂けましたかガリフォン殿」
「なるほど――。いかにしてヴァビロンの目を掠めてことを運ぶか。それこそが可否を決すると言う訳ですな」
 ガリフォンの蒼い瞳が、ガンツの老いてはいるが澄んだ鳶色の瞳を正面から見詰めた。

 国を異とする二人の老臣が、互いの目と目で心を確かめ合った瞬間であった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...