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第一章 楼桑からの使者
2-⑯
しおりを挟む「いや、お二方の指摘される通りでござる。わが主ロルカ王もそうお考えになっておられる。なにを好き好んで楼桑のような小国の娘を娶りたがるのか、はなはだ納得のゆく話しではございません。ましてやヴァビロン十二公家中でも、過去に皇帝継承者さえ出しておる程の名門の家柄との縁組。裏を勘繰るのが常識でござる。家臣達の意見も二つに割れて、収拾がつかない状態でして。それでも王のお心は、フリッツ殿下へ姫を嫁がせたいと決めておられるのでございます」
ガンツはしみじみとした表情で、居合わせた面々をぐるりと見渡した。
「ましてやロザリー姫は殊更にロルカ王の寵愛深い姫君でござりますれば、王は政治的な意味合いを極力排除し、姫にとって一番の幸せとなる縁組をお考えになっておられるのです。そこでこのガンツめを、内々の使者として先ずはフリッツ殿下並びに、サイレン国の家臣団の方々のお気持ちを確かめて来るようにと遣わされた次第でございます。その実、フリッツ殿下の人となりも直に見て来るようにと」
情を絡めた、いかにも老獪な言い回しである。
父として娘の幸せを願う気持ちに偽りはないにしろ、一国の姫が一国の君主のもとに嫁ぐのに、政治的な意味合いがないなどとはあり得ない話しである。
さらにガンツの言葉は続く。
「この状況において、楼桑国からサイレン公国へ正式な婚礼の申し入れをしたとなれば、ヴァビロン帝国がどのような手を打ってくるか分かりません。なにせ相手は大国中の大国、下手をすればどのような災いが両国へ降りかかることやら。ロルカ王はそれを危惧しておられるのです。故に非公式な立場として、このような礼を欠いた訪問となったのです」
「ロルカ王がヴァビロン帝国との縁組を、快く思われていないようすはなんとなく察するが、しかしそこで何故わたしの名前が出て来るのか、それもまた唐突な話しではございませぬかガンツ殿」
思いもかけずフリッツが口を開いた。
詰問でもしているかのような、硬い口調である。
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