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第一章 楼桑からの使者
2-⑮
しおりを挟む一騒動起こしたばかりのダリウスとブラーディンは、発言するのをはばかっているのか、なにか言いたげな表情のまま、不満そうに楼桑国からの使者を睨み付けている。
それを察知した外務卿のユーディが、やれやれといった風に軽く息を吐くと、二人の言葉を代弁するかのようにガンツに尋ねた。
「わが大公殿下と、楼桑国の姫君の婚礼話しであれば、正使をお送りなされたうえで、物事の筋を通されるのが当たり前の作法だと存じますが。先程のガンツ殿のお言葉ですと、正式な国の使者ではなく、ロルカ王の友としての使いだとおっしゃられたと記憶します。それはいかなる存念でございますのか」
「方々のご懸念はもっとものことでござる。このような作法にかなわぬ訪問となったのには、わが国が直面しておる、ある事情が関係しておりまする」
老伯爵が暗鬱な表情で声を絞り出す。
「その事情とは、姫君に持ち上がっておる、もう一つの婚礼話しではござりませぬか」
「ご存じでござったのか・・・・・」
ガンツがはっとした表情で、ガリフォンを見詰めた。
「わがサイレンと楼桑とは隣国同士、小国とはいえその位の情報網は持っておりますぞ」
「それではなにも遠回しな言い方をする必要はございませんな。その通りヴァビロン帝国のロッキンガム公家の公子との縁談話が持ち上がっております。それも急な申し出の上に、かなり強硬な態度でありまして」
「気に喰わぬな、その縁談話!」
「なにか、怪しい裏があるとしか思えませんな」
それまで口を閉ざしていたダリウスとブラーディンが、我慢もこれまでといわんばかりに同時に言い放った。
「その方らは少し口を閉じておれ」
ガリフォンが語気鋭く、二人をたしなめる。
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