25 / 82
第一章 楼桑からの使者
1-⑮
しおりを挟む「まあ、久し振りですねブルース殿。勇ましいお噂はかねがねエメラルダからお聞きしておりました。お元気そうでなによりです」
フリッツとは正反対に優雅な物腰で、ラフレシアはブルースに艶然と微笑み掛けた。
ラフレシアの言葉通り、半年前までブルースはサイレン国軍の龍騎隊に所属していた。
そこからの異例の三段跳びの昇進で、近衛騎士団の司令のひとりとして移動していたのである。
それと同時に無冠であった爵位も伯爵を賜り、星光宮への参内も自由の身となっている。
武門貴族序列二位のデュマ家の男子であれば、それもまた当然のことと言えよう。
「は、はい・・・。公太后さまもお健やかそうで──えー・・・」
今度はブルースがしどろもどろになっている。
「このような場所へ、お偉い軍人さまがお見えになるとは、きっと殿に急用でもおありなのでございましょう。さ、お早くお支度をなされませ」
ラフレシアはブルースの機先を制して、フリッツにそう促した。
「ちっ、やっぱりこの方はどうにも苦手だ」
ブルースは誰にも聞こえない位の、小さな声で呟いた。
「な、なに用だブルース、わたしに用事か。それならそうと女官にでも告げればよいものを・・・」
フリッツはバツの悪さを悟られまいとして、ことさらぞんざいな口調になった。
「誰に聞いてもみな知らぬと申しますので、こうしてわたくし自らお探ししておったのです。それがこのような所でお寛ぎとは、このブルース夢にも思いませなんだ」
静かな口振りの中に、一昨日の約束をもう破ったのか、と暗に諌めているのがフリッツにも理解できた。
「しかし、よくこの部屋が分かったな。内宮へなどきたことはあるまいに。又こんな奥へはブルース、其方とはいえ入ってはこれまい。無礼であろう」
男子禁制の内宮最奥部へ入って来たことに対して、多少の咎めを込めてフリッツは目の前の軍人を睨んだ。
「火急の用件とお聞きしましたので、わたしがご案内致しました」
後ろからエメラルダが応えた。
「エ、エメラルダ、お前・・・」
フリッツは上手くブルースをあしらうために様子を見にいかせたエメラルダが、自分を裏切りこの部屋にまで連れてきたことに腹を立てたが、ここでそれを怒ってしまえばブルースが自分を探していたのに、知らぬふりをしていたと自ら白状してしまうも同然となる。
なんとも悔しげな表情となって唇を噛んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる