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第一章 楼桑からの使者

1-⑮

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「まあ、久し振りですねブルース殿。勇ましいお噂はかねがねエメラルダからお聞きしておりました。お元気そうでなによりです」
 フリッツとは正反対に優雅な物腰で、ラフレシアはブルースに艶然と微笑み掛けた。

 ラフレシアの言葉通り、半年前までブルースはサイレン国軍の龍騎隊に所属していた。
 そこからの異例の三段跳びの昇進で、近衛騎士団の司令のひとりとして移動していたのである。
 それと同時に無冠であった爵位も伯爵を賜り、星光宮への参内も自由の身となっている。
 武門貴族序列二位のデュマ家の男子であれば、それもまた当然のことと言えよう。

「は、はい・・・。公太后さまもお健やかそうで──えー・・・」
今度はブルースがしどろもどろになっている。

「このような場所へ、お偉い軍人さまがお見えになるとは、きっと殿に急用でもおありなのでございましょう。さ、お早くお支度をなされませ」
 ラフレシアはブルースの機先を制して、フリッツにそう促した。

「ちっ、やっぱりこの方はどうにも苦手だ」
 ブルースは誰にも聞こえない位の、小さな声で呟いた。


「な、なに用だブルース、わたしに用事か。それならそうと女官にでも告げればよいものを・・・」
 フリッツはバツの悪さを悟られまいとして、ことさらぞんざいな口調になった。

「誰に聞いてもみな知らぬと申しますので、こうしてわたくし自らお探ししておったのです。それがこのような所でお寛ぎとは、このブルース夢にも思いませなんだ」
 静かな口振りの中に、一昨日の約束をもう破ったのか、と暗に諌めているのがフリッツにも理解できた。

「しかし、よくこの部屋が分かったな。内宮へなどきたことはあるまいに。又こんな奥へはブルース、其方とはいえ入ってはこれまい。無礼であろう」
 男子禁制の内宮最奥部へ入って来たことに対して、多少の咎めを込めてフリッツは目の前の軍人を睨んだ。

「火急の用件とお聞きしましたので、わたしがご案内致しました」
 後ろからエメラルダが応えた。

「エ、エメラルダ、お前・・・」
 フリッツは上手くブルースをあしらうために様子を見にいかせたエメラルダが、自分を裏切りこの部屋にまで連れてきたことに腹を立てたが、ここでそれを怒ってしまえばブルースが自分を探していたのに、知らぬふりをしていたと自ら白状してしまうも同然となる。
 なんとも悔しげな表情となって唇を噛んだ。
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