アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志) 第一巻「運命の婚礼」前篇

泗水 眞刀(シスイ マコト)

文字の大きさ
上 下
13 / 82
第一章 楼桑からの使者

1-②

しおりを挟む



「か弱き女を相手にさような大声を出して、一体なにをしておいでなのですかブルース殿」
 その緊張感を破り、涼やかな声が前方から聞こえた。

「むっ」
 ブルースが声の方に目を移すと、そこには一人の女騎士が立っていた。

 サイレン公国軍の中でも最精鋭と言われる騎馬軍団・聖龍騎士団の、上級将校の軍服を身に着けている。

 スラリとした身体は、並の男よりも頭半分ほどは高い。
 女としてはかなりの長身である。
 軽くウェーブした金色に輝く髪が、背中で揺れている。

「あっ、エメラルダさま・・・」
 その人影を目にした途端、女官は瞳から大粒の涙を溢れさせ、頽れるようにその場に座り込んだ。

「さあ、もう安心なさいフェリシア。なにも泣くことはありませんよ」
 軍服姿の女エメラルダが、優しく微笑みながら、女官フェリシアに手を添えて立ち上がらせる。

「もうよいからお行きなさい、恐い大男はこのわたしが叱っておいてあげますから」
 そういわれた若い女官は、涙で濡れた純朴そうな瞳で上目遣いにおずおずとブルースを見ながら、内宮の奥へ去っていった。


「おい、いまの女はなんで泣き出したんだ。俺は殿のお姿を見掛けなかったかときいただけだぞ」
 ブルースがエメラルダに、不思議そうに尋ねる。

「ただきいただけですって。あなたのような無骨な大男が、あのような声で話しかけたら、普通の娘ならみな怒鳴られていると思い泣き出してしまうのが当然ではないか。お前はなにもわかっていないようだな」
 エメラルダは呆れたように、ブルースの顔を睨んだ。

「まったく女という奴は、どうにも扱いにくくて困る・・・」
 ブルースは頭をごりごりと掻きながら、ぶつぶつと不満げに呟く。

「おう、そうだ。エルダ、殿がどこに居られるか知らぬか」
 その言葉を聞いた途端、エメラルダの顔付きが一気に変わった。

「エルダなどと、子どもの頃の愛称を使うのはやめていただきたい。いまは聖龍騎士団の第二大隊の一角を預かる身。マクシミリオン将軍と呼んでもらおう」
 エメラルダが食ってかかる。

 サイレン公国の軍事部門の最高責任者、ダリウス・サウス=マクシミリオン元帥兼筆頭上級大将の一人娘、エメラルダ・サウス=マクシミリオン子爵。

 それが彼女の正式な名前である。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...