アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志) 第一巻「運命の婚礼」前篇

泗水 眞刀(シスイ マコト)

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序章

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 通路は人間二人が、どうにか並んで歩けるだけの広さがあった。
 進むにつれて分かったのはこの通路は幾本もの分かれ道や、無数の枝道で構成されていることだった。

 一度進む道を間違えてしまうと、永遠に闇の中を彷徨い続ける、迷路のように造られているらしい。


 真実この抜け道は星光宮の造営が始められるのと同時に、極秘裏のうちに掘り進められたものであった。
 城の完成後も延々と作業は続き、ここまでの形に完成するまでには百年近い歳月が費やされた。

 建設に携わった者たちは親、子、孫の何代にもわたり、誰にも話すわけにもいかない日の当たらない地下で、ただただ穴を掘ることだけに生涯を費やしたのだろう。
 まるでそんな人々の執念が凝り固まったような、地下迷宮と言っても過言ではないしろものであった。

 ダリウスは路が分かれている所へくると、壁をなぞってはなにごとかぶつぶつと小さく呟きながら、進むべき方角を探っている。
 知るべき者のみに分かる、なんらかの印が壁に彫られているのだろう。

「皆、はぐれるでないぞ。はぐれたら最後、この地下道の中を死ぬまで歩き続けることになる。運良くさっきの入口へ戻れたとしても、もうあの扉は内側からは開くことは出来ぬ」
 ダリウスが注意を促す。
 それを聞いた兵たちが無言で頷いた。

「ねぇ爺、爺はこの道の出口を知っているの」
 それまで黙って手を引かれるに任せていた少年が、守役の老人ダリウスに訊いた。

「大丈夫ですぞ若さま。この爺がついておれば無事に出口へ、城の外へ出られますとも」
 ダリウスは少年の手をしっかりと握り締めたまま、ゆっくりと優しい口調で応えた。

「僕ね、こんな秘密の道があるなんて全然知らなかったよ。あんな所が扉になっているのもね」
 少年は自分がどんな状況にあるのかも分からずに、無邪気にダリウスに話し掛けた。

 まるで小さな冒険にでも出掛けるかのように、瞳を輝かせている。


「爺、なぜお城が燃えていたの? 火事になっちゃったの?」
 少年は目覚めてこの方ずっと疑問に思っていたことを、やっと老人に問うた。

 少年の問いに対し、ダリウスは顔に深い苦悶の色を浮かべた。

「敵が攻めて来たのです。信じておった隣国の楼桑国ろうそうこくが、不意を衝き夜襲を掛けてきたのです」

「えっ、楼桑国はかあさまがお生まれになった国でしょ。シリウス伯父さまが治めている国じゃないか。それがどうして攻めてくるの。僕、去年シリウス伯父さまが王さまになるお祝いに行ってきたよ。優しそうな顔をした方だったよ。母さまのすぐ上のお兄さまなんだ、珍しいお菓子も沢山くれたよ」
 少年は驚いたように、ダリウスの手を強く握り締めた。
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