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序 章 業火転生變(一) 新免武蔵
3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)『鹿賀』⑫
しおりを挟む鹿賀は窓からなるべく身体を離し、ひとしきりなにかを考えていた。
この時点ではまだ狙撃手は配置されておらず、身を隠す必要はなかったのだがそんなことは知りようもない。
「おい、数字の一番から順番に右側から窓の前に立て。ぐずぐずするなよ、殺すぞ」
人々は命じられるがまま、少ない数字の者から並んでゆく。
窓際に並べきれなくなると二列、三列と重なり合うように整列させられる。
そうやって九十六人が、まるで人形が並んでいるように整然と窓に向かって立っている。
次ぎに鹿賀が出した命令は、常軌を逸していた。
「服を脱げ、全員素っ裸になるんだ。ぐずぐずするなよ、俺は気が短いんだ」
みな一瞬戸惑いを見せたが、言うことを聞かねば殺されるために仕方なく服を脱いでゆく。
まだ二十歳前だと思われる若い娘が、最期のパンティを脱ぐのを躊躇っている。
隣の三十代後半らしい女性が、小声で娘に囁いた。
「脱がなきゃ殺されるわよ。こんな場合に恥ずかしがったってしょうがないでしょ、早く脱いじゃいなさい」
その声が聞こえたのか、鹿賀がふたりに近づいてゆく。
「なんだ、脱ぎたくねえのかお嬢ちゃん。嫌なら嫌でいいんだ、はっきり言いな」
娘は顔を引き攣らせ、怯えたように唇を震わせた。
「脱がなくていいんですか? わたし恥ずかしくって――」
「そうかい、ほかに脱ぎたくない奴はいるか。いたら手を挙げろ」
五人の女性が、おずおずと手を挙げた。
「そうか、脱がねえんならそれで構わないよ。じゃあここに並べ」
鹿賀は最前列に並んでいる数人を横に寄せ、六人の女たちを窓際に立たせ、窓を全開にする。
六人はパンティだけはいている者、ブラジャーとパンティの者と様々だった。
最初に声を掛けた娘の後ろに立ち、鹿賀が嗤った。
「言うことを聞かない奴は殺す、そう言ったよな」
背後から喉にナイフを当て、サッと手を引く。
頸動脈を切断された娘は、まるで潮を吹くように血を撒き散らした。
鹿賀はその娘が床に斃れるより早く、窓から突き落とした。
すかさず隣の女の喉も引き裂き、同じく外へ押し出す。
残った四人は、すぐさま身につけていた下着を脱ぎ捨てた。
「なあんだ、ちゃんと脱げるんじゃねえか。手間かけさすんじゃねえよ、でもペナルティは必要だな。お前ら一番から四番の奴らと入れ替われ」
ガクガクと身体を震わせながら、四人は最前列に右から立った。
いくら順番が早まったとは言え、この場で死ぬよりはましであった。
その時スマホに着信が入った。
番号を見ると、さっきかかってきた立花と名乗る警官のものである。
「ほうら、すぐに順番が来ちゃったな。残念だね」
言うなり一番右の女の喉を先ほどと同じように切ると、窓外へと転落させた。
「だから言っただろ、電話をかけてきたら殺すって。お前ら馬鹿か」
着信に出て、鹿賀は呆れたような口ぶりで薄ら笑いを浮かべる。
「やめろ鹿賀、いったいなん人の命を奪えば気が済むんだ。要求があれば聞こうじゃないか、頼むからこれ以上馬鹿なことはするな」
立花が声が引っ繰り返るほど、必死に訴えてくる。
「なん人殺せば気が済むかだと? そんなこと知るか。世界中の野郎を殺したって俺の気は済まねえ、それに要求なんざひとつもねえよ。俺はやりたいようにやる、いや命ぜられるままやるんだ。余計な手出ししやがると、いっぺんに全員殺すぞ。脅しじゃねえのは判っただろ、もう電話はかけてくるな」
「まて、切るな――」
必死な呼びかけも空しく、通話は途切れた。
人質になっている人々は、その鹿賀の言葉を聞きいっそう怯えきった。
この狂った男はその言葉通りに、自分たちを殺してゆくだろうと実感したからだ。
鹿賀がこの場に現れてから、すでに八人が死んでいる。
こんな事になるのなら最初に試験官職員が撃たれたときに、一斉に逃げ出していればほとんどの人間は助かっただろう。
運の悪いものは射殺されただろうが、それもいまの被害者人数である八人と大差なかったはずだ。
しかしこうなってしまっては、そんな考えも後の祭りだった。
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