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序 章 業火転生變(一) 新免武蔵
3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)『武蔵』①
しおりを挟む〝舟島での立ち合いはどうだっただと、なんでそんなことを教えなきゃならねえ。俺と小次郎二人のことだ、ほっといてくれ〟
あの日からいままでの年月、ことある毎に他人は武蔵に訊いてくる。
その度に同じ答えを返す。
〝俺は自分からあの時のことは、ひと言も喋っちゃいねえ。なんでみんな訊いてくるんだ、ほかにも大勢の人間を殺してきた。あの爺さんもその中のひとりじゃねえか〟
武蔵はいつもそう考える。
〝なにが特別だってえんだよ、五月蠅えよ〟
しかし、それは確かに特別な瞬間だった。
それは武蔵自身が一番分かっている。
〝武芸者として、いいや人としてやっちゃいけねえことをしちまった〟
この思いは、死ぬまで武蔵を責め苛み続ける。
そう、今日死ぬその瞬間まで。
有馬家の家臣たちが一斉に石垣に取り付き、城内への侵入を開始したとの報が届いたのは朝餉が済んだときだった。
〝けっ、やっぱり始めやがったか。俺もこうしちゃいられねえ、一番乗りを譲るわけにはいかねえからな〟
武蔵が押っ取り刀で駆けつけると、すでに有馬直純の家臣が必死で石垣にへばり付いている。
ここ原城は国替えの前まで有馬家の居城であった。
その後廃城となっていたものを、一揆勢が改築し要塞と為したのであった。
ゆえに此度の城攻めに際して、有馬勢の士気は高かった。
〝それにしたって寄せ手のなんと不甲斐ないことか、これだけの数で囲んでおきながら未だに落とせぬとは〟
単なる武芸者である武蔵には、戦というものが良く分かっていない。
しかも攻城戦の難しさなど知りもしなかった。
すでに原城内には、ほとんど食料が残っていなかった。
その上、当てにしていたポルトガルからの援軍はとうとう来ず、逆にオランダ船から砲弾を撃ち込まれる有り様となった。
援軍の来る事なき籠城は、すなわち落城が必至ということである。
そんな飢餓地獄の中でも、天主に祈りを捧げ人々は屈することはなかった。
どのみち降伏しても、生きては許してもらえぬ事が分かっていたからだ。
ならば神の御名を唱えながら死んでゆくことが、その御心に沿う行為だと考えている。
これは信仰のための戦いなのである。
総大将・松平伊豆守信綱はすでに食うものさえない城中の惨状を知り、総掛かりの機を窺っていた。
しかし一揆勢の抵抗も激しく、上から一抱えもある石を落とし登り来る兵たちを次々と叩き落とす。
〝畜生あんな農民や痩せ浪人共など、剣を手に闘えば屠るに造作もなきことだが、城内へ入らんことにはどうにもならねえ。果たし合いと比べ、城攻めとは厄介なものだな〟
武蔵は年甲斐もなく石垣の下まで来て、上をのぞき見ている。
その間にも、大小の石が降ってくる。
〝おいおい、こりゃ下手したら死んじまうぞ。止めた止めた、君子危うきに近寄らずだ〟
武蔵は現実を前にして、あっさりと城への討ち入りを断念してしまった。
彼独特の〝勘〟が働いたらしい。
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