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第一章 発端 1
⑧
しおりを挟む〝ピーッ、ピーッ、ピッピピーッ〟
「こら貴様ら、皇居の玄関口である東京驛でなにを騒いでおる。逮捕するぞっ」
官憲が数名、サーベル片手にこちらに向かって走ってくる。
「大政の兄貴、警官だ逃げましょう」
薫子と真吾に叩きのめされた男たちが立ち上がり、一斉に逃げてゆく。
「俺たちは明神一家の身内だ、お前らの顔は覚えたぞ。礼は必ず返す」
小男小政の兄貴が、去り際にそう言い放った。
「おい壬生、俺たちもずらかるぞ」
そう言って身なりのいい方の青年が、壬生真吾の袖を引っ張る。
学生ふたりはホームから線路へ飛び降り向かいのホームへ一気に飛び、悠々と階段を駆け上がった。
ちょうどその時神戸からの列車が汽笛を鳴らし、ホームへと滑り込んで来た。
やって来た警官は、ひと目で上流階級と分かる一行を見て丁寧に敬礼をする。
「お怪我はございませんか、近頃はゴロツキや不良学生共が多くて困っておるのです。ちとお話しをお伺いしたいのですが、驛事務所までご同行頂けましょうか」
警官のひとりが近文に要請する。
そこには慇懃ではあるが、有無をも言わせない響きが含まれていた。
列車は完全に停車し扉が開くと同時に、乗客たちが次々と降車し来る。
「ほかにいまの騒動を見ておった者はおるか、おったら話しを聞きたい」
「おりゃあ初めっから見ていたよ」
小商人風の三十半ばの男が言った。
「お前見ていたのか、で原因はなんだった。やはりゴロツキ共の因縁が元か」
「いいや、悪いのは大きな書生の方だ。ボーとしてぶつかったのに謝りもしねえで、知らん振りだ。そこでやくざもんがひと言謝罪しろと声を掛けたのさ。そこから騒動が始まったんでさ、そうしたらこの気の強いねえちゃんが啖呵を切ったもんだから手荒なことになっちまった。それに柔で投げ飛ばしたのもねえちゃんの方だし、やくざってだけで悪者にしちゃ可愛そうってもんですよ。俺から言わせりゃこのねえちゃんと、あの大男が一番悪い。やくざが怒るのも無理はねえ」
「そうだな、俺も見てたがこの人の言うとおりだ。それにあの連中明神一家って言ってただろ、あそこの親分は今次郎長だの、神田の忠治だのと言われてる大侠客だ。そこらのチンピラとは訳がちがわあね」
職人とおぼしき若者も口を出す。
話しを聞き、警官の顔がみるみる強張ってゆく。
「大変申し訳ないが、そこのお嬢さんにも原因があるようですな。事務所ではなく署の方にご足労お願いせねばなりませんようです」
「えっ、あたしが! だって相手はやくざでしょ、むかしっからやくざは悪者だって決まってるじゃない。なんであたしが悪くなるのよ」
「だから爺がいつも言っておるではありませんか。お転婆もいい加減になさいませと、警察沙汰など旦那さまや奥さまに顔向けが出来ません。爺は腹を切るしかございませんぞ」
執事の乱丸はハンカチを取り出し、目頭を押さえている。
「まあまあご老人、そんな物騒な話しは止めてください。太正の治世に腹をどうなどとおっしゃられては、警察の威信に関わります」
年配の警官が乱丸を諭す。
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