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第一章 発端 1
④
しおりを挟むこの大戦争は中央同盟、協商国のどちら側にもなんの実利のないものとして終結した。
それどころかそれまで列強と言われた諸国は経済がボロボロになり、長引いた戦闘により多大な若者の人命が失われ、残ったのは厭戦気分だけであった。
世界屈指の大国ロシア・ロマノフ王朝は、この後滅亡し〝ソヴィエト社会主義共和国連邦〟という、共産主義者による国家へと変わってしまう。
大独逸帝国もその実権をプロイセン蒸気第三帝国に取って代わられ、協商国側相手に停戦交渉の場に現れたのは、オーストリア出身の若い小男だった。
彼は自分を、プロイセン蒸気第三帝国『帝皇代理人』のアドルフと名乗った。
それで分かるように大独逸帝国は実質上消滅し、プロイセン地方から突如出現した謎多き存在に乗っ取られていた。
戦争終結に向け、各地での両陣営の交戦は鎮静化してゆく。
ここでプロイセン蒸気第三帝国は、誰もが驚愕する行動を取った。
その余剰兵力をあろう事か、同盟関係にあったオーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国に向けたのである。
一方で大戦争の停戦交渉を続けながら、もう一方の手では背信とも取れる同盟国への侵攻作戦を始めたのだ。
圧倒的な数の龍機兵と機械化軍団の前に両国は、まともな戦闘をすることもなく吸収併合された。
この暴挙を、世界は指を咥えてただ傍観していた。
これ以上の戦争継続をする気概は、もうどの国にも残っていなかったのである。
そうして両陣営は完全なる停戦条約を結び、五年にもわたる未曾有の大戦争は終結を見た。
数年前まで取るに足らぬ一軍閥でしかなかった勢力は、瞬く間に欧州最大規模の大帝国となった。
さらにその牙は、新たな標的へと向けられる。
停戦条約締結から三月も経たぬうちに、プロイセン蒸気第三帝国(これからはプロイセン帝国、または第三帝国と記載)はイタリア王国へ電撃侵攻し、たったひと月でローマを陥落させ伊州全土を自国領へと組み込んだ。
この暴挙でイタリア王国を内部から弱体化させたのは、前の〝帝皇代理人・アドルフ〟よりもさらに若い、〝ベニート〟という鋭い目つきの青年だった。
疲れ切った列強はこの暴挙に対抗する術もなく、追随了承という形でオーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国の時と同様にその蛮行を認めてしまう。
いまや大帝国となったプロイセンは、ベルリンを〝ゲルマニア〟と改名し、そこを帝国の首都と定め大規模な建築工事を開始した。
この工事が完成するのは、三年後だとも五年後だとも言われている。
そしてまことしやかに噂されているのは、ゲルマニア完成と共に第三帝国は欧州全土を手中に収めるための、さらなる大戦争を企てているらしいと言うものであった。
それがなった時に真の国名『聖アーリア大帝国』を名乗るのだと。
このプロイセン帝国が唯一不満に思っているのが、東洋屈指の大国である大日本帝国に奪われた、亜細亜・太平洋諸島の領土と権益であった。
しかし日本はあまりにも遠く、汎用龍機兵に対抗できる機神兵も配備されており、あからさまに手出しが出来ないでいた。
奇しくもこれから僅か九年後に起きる〝世界大恐慌〟を経て、十五年後には此度の戦争で躍進したその三国に共産国家ソヴィエト連邦を加えた、未曾有の世界大戦が勃発するのだが、それはまだまだ先の話しである。
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