12 / 16
第一章 発端
12
しおりを挟む「さあ、ここから下って行けばその先は海岸だ。かなり長いからそのつもりでな」
住職である了海が、境内の裏手にある小さな道を生徒たちに指差した。
降り口には小さな山門がある。
「開闢当時は、ここが正式な参道だったらしい。途中から山道が切り拓かれ、君たちがバスでやって来た方が正門となったんだ。文政年間というから、江戸時代の頃だな。こんな急坂じゃ物を運ぶにも大変だからね、それにいまでは車でやってくる人間が多いから、ここは地域の人だけが使用する裏参道となってしまった。しかし海に出るには都合がいい。年寄りの身には堪えるが、若者であればこの位の坂はどうという事はあるまい。連いて来なさい」
言いながら、了海が坂を降りはじめる。
二十メートルほど降りると、そこそこの広さの平地があり、小さな社のようなものと寂れて枯れた手水舎があった。
そこに設けられている山門は、古いが立派なものだ。
ここから先は石段が続いている。
かなりいびつで急な、古い階段である。
正式な参道だった頃の名残りだろう。
そこに立つと、石段は真っ直ぐに海岸にまで伸びている。
三百メートルほどありそうだ。
それ以上にここから正面を見降ろすと、眼下には真っ青な太平洋が広がっていた。
「凄え眺めだな、見渡す限り海じゃねえか。ねえケンちゃん」
剛志が真っ先に声を上げた。
「ガキみてえに騒ぐんじゃねえよ、みっともねえ」
斜に構えているが、健一も興奮しているのがその表情で分かる。
「あにき、やっぱ健一さんはかっこいいっすね。こんな景色見ても騒いだりしねっすもん」
一年の大夢が、兄貴分の剛志に言う。
「あたりめえだろ、ケンちゃんは実質的には地区の大将なんだぞ。形式的には三年の寅さんにその座を譲ってるけど、喧嘩なら敗けはしねえんだ。なんせ中学二年で空手の黒帯を取ったんだからな、無敵だよ」
まるで自分のことのように、剛志が自慢する。
剛志の言う〝寅さん〟というのは、R工業高校の一条寅雄のことだ。
百九十センチ以上の身長を持つ大男で、真偽は定かじゃないが、本職のヤクザをぶっ飛ばしたという噂もある。
「凄え、凄え。健一さん最強。あの化け物みてえな歳上の一条さんを〝寅ちゃん〟呼ばわりだからな。うちの三年なんかびびって、健一さんの姿見ただけで逃げちまうもん」
同じく一年の雄作が、憧れの眼差しを健一に送っている。
「ねえ鈴、さっき言ってた階段ってここの事でしょ。見るからに大変そうね」
降りる前から夕香が、げんなりした顔になっている。
「なによその顔、若いんだから元気出しなさい」
鈴が夕香の背中をなでる。
「若くったって疲れるものは疲れるっしょ、これはきつそうよ」
「確かにね。でもここからの夕陽はとても綺麗よ、幼心にも印象に残ってるもの。沈む夕日を受けて海が黄金色に輝くの。オレンジ色の空に凪いだ金色の海、滅多に見られる景色じゃない。きっと夕香も感動するはず」
鈴が小さかった頃を思い出し、うっとりとした顔で目の前のパノラマを眺めている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【短編完結】間違え続けた選択肢
白キツネ
青春
人には選択肢が存在している。しかし、それは結果となって時にあの時ああして良かったと思う、もしくは後悔するだけである。
明美は後悔していた。
家族のような付き合いをしていた彼に自分の気持ちを伝えなかった。今の関係が崩れてしまうのが怖いから。
そしてある時、明美は過ちを犯すことになる。その時に選んだ選択肢はこれから先もずっと自身を苦しめることになる。
これは彼女が彼に対して行った後悔の選択肢についてのお話。
他投稿サービスにも投稿しています。
朝起きたらイケメンだったはずの俺がブサイクになっていた
綾瀬川
青春
俺は西園寺隼人。15歳で明日から高校生になる予定だ。
俺は、イケメンでお金持ち、男女問わず友達もたくさん、高校生で美人な彼女までいた。
いたというのが過去形なのは、今日起きたら貧乏な家でブサイクになっていたからだ。
ーーなんだ。この体……!?
だらしなく腹が出ていて汚いトランクス履いている。
パジャマは身につけていないのか!?
昨晩シルクのパジャマを身に纏って寝たはずなのに……。
しかも全身毛むくじゃらである。
これは俺なのか?
どうか悪い夢であってくれ。
枕元のスマホを手に取り、
インカメで自分の顔を確認してみる。
それが、新しい俺との出会いの始まりだった。
「……は?」
スマホを見ると、超絶不細工な男がこちらを見ている。
これは俺なのか?夢なのか?
漫画でお馴染みの自分の頬を思い切りつねってみる。
「痛っっっ!!!」
痛みはばっちり感じた。
どうやらいまのところ夢ではなさそうだ。
そうして、俺は重い体をフラフラさせながら、一歩を踏み出して行った。
萬倶楽部のお話(仮)
きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。
それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。
そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。
そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。
傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――
玉水ひひな
青春
「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」のサイドストーリー短編です!
ヒロインは同作登場の佐々木史帆(ささきしほ)です。
本編試し読みで彼女の登場シーンは全部出ているので、よろしければ同作試し読みを読んでからお読みください。
《あらすじ》
憧れの「高校生」になった【佐々木史帆】は、彼氏が欲しくて堪まらない。
同じクラスで一番好みのタイプだった【桐生翔真(きりゅうしょうま)】という男子にほのかな憧れを抱き、何とかアプローチを頑張るのだが、彼にはいつしか、「高嶺の花」な本命の彼女ができてしまったようで――!
---
二万字弱の短編です。お時間のある時に読んでもらえたら嬉しいです!
咲き乱れろスターチス
シュレッダーにかけるはずだった
青春
自堕落に人生を浪費し、何となく社会人となったハルは、彼女との待ち合わせによく使った公園へむかった。陽炎揺らめく炎天下の中、何をするでもなく座り込んでいると、次第に暑さにやられて気が遠のいてゆく。
彼は最後の青春の記憶に微睡み、自身の罪と弱さに向き合うこととなる。
「ちゃんと生きなよ、逃げないで。」
朦朧とした意識の中、彼女の最後の言葉が脳裏で反芻する。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる