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第15話 ご褒美は高級携帯食

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 今日の尋問室の主役は私で、決まりということで目隠しと椅子に拘束されて意識探査される。この後で眠らされることは確定済みで、眠ってないと暴れるケースがあるからだ。
 
 進行に注意を戻すと珍しいことがあるもので、今回の探査担当は室長が引き受けるらしい。

 私は意味のないことで逆らわず、目隠しを素直に受け入れておとなしく待つ。

「そろそろ始めるけど良いかしら?」
「はい、お願いします」
「先輩、今日は私が記録係ですよ。しっかり書き込みますからね。恥ずかしい記憶、狙ってます!」
「ほどほどにして欲しいわ」
「お二人さん、時間は貴重だから。もう、眠ってもらうね」
「はい」

 私は睡魔に連れ去られるように眠気に襲われる。室長の魔法を受けると心地よかった。


 断片的な情景が浮かんでは消えていく。意識して記憶したの、無意識に捉えていた場面。多種多様な記憶が次々と現れる。たぶんこれは私の記憶。

 火災現場を逃げ惑う人。炎の花が開く。悪魔のような人達。
 7人が炎に飛び込んだ。3人が遅れて続く。
 車の陰から見つめる男。
 火山が噴火する。
 崩落。

 時系列に連なった記憶。それなのに地下空洞や黒騎士の記憶がない。何故だろう。
 どこかに置き忘れたのか。記憶とは別なものなのか。私にはわからない。
 私は出来事を追いきれなくなり、意識を放り投げた。



 目が覚めると見慣れた待機室で横になっていた。終わったようだけど長く眠っていた気がする。
 夢現術の後より気分はいいし、食事も食べられそう。

 私の荷物も持ち込まれていて起き上がってバッグから焼き菓子の袋を取り出す。お茶がないけど適当にお菓子を食べていく。水を取りに行くのが面倒なので、魔法で水球を作って飲み込んだ。

 魔法水は純度が高すぎてミネラルがないから少量しか飲めない。


 私は待機場所を後にして職場に戻り、深夜なのに待機していた室長に復帰報告した。探査は正常に終了したらしい。服は着たきりで着替えたいところだが、仕事に支障はきたさないので我慢する。

 探査の結果は諜報課が確認中ということで、結果が出たら呼び出しがあるかもしれない。
 室長から帰宅しなさいと言われて素直に家に帰ることにした。

「まって、これ持って帰りなさい」

 私は騎士団食堂の高級携帯食を渡された。紙袋に入っていてもサイズでわかるのだ。上級士官しか食べられない幻の携帯食、運がよければ魔物のお肉かもしれない。

 ちょっと元気になる私だった。

「私から差し入れよ。夕食まだでしょう。帰ってから食べなさい」
「ありがとうございます。有難くいただきます」

 私は脱兎のごとく、一目散に自宅を目指す。



 アパートメントの玄関を開けて台所に滑り込む。魔導具で湯を沸かしながら携帯食を確認する。黒くて立派な魔導具の使い捨て容器に、王家の紋章がシンプルに主張している。

 間違いなく高級携帯食だった。

 有頂天の私は緑黄色野菜を取り出し刻んで魔導釜に放り込む。軽く炒めて火を通し高級携帯食についてきたスープをそのまま流し込んで調味料で味を調える。ちょっとアレンジしたけどベースがいいから味見に終わらないほど試食してしまった。

 調理したスープとサラダをテーブルに置き、儀式を開始する準備は整った。この携帯食の容器は蓋を開けるまで温調される優れものなのだ。さて、開けてやろうじゃないか。何が出るか今から楽しみだ。

「蓋を開けると香草の香り。香辛料も微かに匂う。あ! 霜降りルーバブルのカルターレソース煮、エルラとスイッキーもある!!」

 グルメ番組でしか見たことない料理の数々。私は完食取りつかれたように料理を貪った。味がどうかとか余韻や隠し味などすべて吹き飛んで完食してしまった。一度食べると取りつかれる者が居るというのはうなずける話だ。

 私は行儀が悪いくらいパンでソースをかすめ取って、残ってないか確認までしてしまう。それはしばらく幸福感に浸ってられるほどのご馳走だった。

 たぶん魔物3種肉などもう食べられないかもしれない。
 特に深海に生息するルーバブルは幻と言われるほど獲れない。


「ルーバブルにエルラとスイッキー! 君たちは私の胃の中だよ!!」


 一人部屋に寂しい絶叫が響いた。
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