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第12話 落下と落とし穴

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 ケーキを買うことを思いだした私は、行きつけの店に続く路側帯を歩いていた。浮かれながら検察局の前を通過していると、大型魔導車が乗り上げ目前の路側帯に止まってしまう。

 私は立ち止まって何事かと傍観を決め込む。全身に重魔導兵器を装備した怪しげな集団が車から下りてくる。

 これヤバいやつだ。

 意識して目を合わせないように観察すると、服装や持ち物から推測して、急進派の過激派構成員に違いない。一瞬であるが頭の片隅にテロの文字が浮かんで消えた。私は慌てて構成員の顔を記憶に収めた。

 私はこれでも国家魔導士の端くれだ。非番とはいえ情報は押さえておくべきだろう。私は尾行を開始する。

 どうやら検察局を目指しているようだ。

「主任、緊急連絡です。過激派が第23ポータルの検察局に突入しています」

 私は魔導通信にメッセージを残した。

 過激派集団はガラスを破って防御結界を破壊、これはテロだ。それも訓練された動きで無駄がない。検察庁の建物前では魔法の応報が始まった。

 主任からメッセージの着信を確認するも今はそれどころではない。構成員の一人が魔道具を胸に突き立てて局内に飛び込んだからだ。閃光が私の視力を奪った。通常兵器とは威力が違う。私は爆風にあおられ緑地前まで転がされた。

 私は起き上がり検察局に走る。反対方向から3人の男が駆けてくる。目的地は同じ建物のようだ。義務感から顔をしっかりと見て記憶した。

 犯罪の証拠を報告するため、生きて帰らないといけない。

 私はスピードを抑えて辺りを観察する。検察局のエントランスは崩壊していて原形を留めていない。遺体や家具、机などが変形して散乱している。建物内にはまだ生きているものがいた。

 どうしよう。

 3人の男は私の横を通り過ぎていく。三人は別人なのに顔に浮かべた表情はみな同じ。目は三日月、口角は悪魔のように釣り上げている。狂信者という言葉が頭をめぐった。

 私は本能的にその場に伏せた。閃光と爆発、そして火山礫のように建物の構成物が飛んでくる。私は結界を張り耐えている。飛ばされなかったのは運がよかっただけ。

 爆風が収まって私は用心して立ち上がる。


 結界を維持しているから行動制限ですばやく動けない。検察局は半壊していて、隣接の建物では火災が発生している。私は通信魔導具を探すがいつの間にか紛失したようだ。服もボロボロで煤だらけ。良く生きていたと思う。

 負傷者の叫びと焼ける臭いで現実に戻される。

 人命救助をしなければ、私は建物内に入るのは躊躇われ、路面にいるけが人の救助を優先した。火炎に巻き込まれた焼死体や破片に当たって亡くなった人もいる。私は到着した救助隊を誘導する。

 近場にいた人の救助が終わり、検察局のエントランス付近に倒れている人で生存者がいないか確認して回っている。何人か見て回るが死者ばかりだった。エントランス付近まで行ったときに助けを求める声が聞こえた。私は無謀にも声のする方向に駆けだす。

 いやな落石の音と地震のような揺れが発生した。

 いきなり足元が傾斜する。


 天井が抜け、私は騒音と砂塵の中で方向感覚を失った。私の身体は重力に逆らえず、下方に引き込まれるように一気に落下しだした。

 転落している。


 下の階まで落とされ、着地したショックで足首をひねってしまう。よろめいたこともあり、姿勢を保てず転んでしまった。

 いろんなものが私めがけて落ちてくる。魔法が切れると即死してしまう。
 ためらわず機能する結界の上に新たな結界魔法を上書きする。

 生き残った。


 視界が悪く天井から微かに光が射している。きっと間接光だろう。

 私は瓦礫を避けながら無理して立ち上がり照明魔法を使う。
 こんな時こそ魔導士でよかったと思う。

 砂塵が収まって来たので移動を開始する。倒れた鉄格子があるから留置所か似たような施設だろう。私は足元を注意しながら上階につながる階段を探している。

 とりあえずコーナーを目指して進んでいると階段跡があった。落ちてしまっていて、そのままでは地上に戻れそうにない。

 私は手摺の残骸が上から伸びているので、ジャンプして飛びつこうとした。残念なことにあとちょっと届かない。足首に痛みがあっても助走をつけて飛びつくことにした。

 駆けだした途端、足場が崩れて目の前には闇が口を開けている。

 私は体勢を崩して転倒、そのまま頭から下方に滑り落ちる。何処に向かうかわからない地獄へのスロープをただ流されている。

 パニックを通り越すと冷静になる。
 誰の言葉か忘れたけど、今の私がまさにそう。


 いきなり、広い空間に投げ出された。
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