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第11話 雨上がりの買い物

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 雨が降っていた。

 私は足早にポータルを目指している。それは精密検査を受けに行くため、休みを取得して病院に向かっているからだ。人通りは多いのに傘はぶつかり合いながらも追従してくる。とにかく魔導小物は便利だ。ポータルを潜るときには傘は自動で閉じてバッグに収まった。

 専門医院はポータルを出てすぐだった。

 古く歴史を感じさせる建物。受付を通り抜けると予約カウンターがある。手をかざして表示された部屋番号まで進む。待ち時間なしの快適診療。


 医師は診察をはじめ事前に送っていた一次検査を確認した。そして、これから実施する精密検査について同意を求められる。私は迷いなく肯定してサインした。そして、検査を受けに検査室まで廊下を歩いて向かっている。

 通路は少し薄暗いし、薬剤の臭いが微かにただよう。

 検査室は尋問部屋と似たような作りで、所狭しとばかりに魔導具が並んでいた。私は控室で全裸になって検査着を頭からかぶる。連絡ボードに貼ってある説明によると魔導具の持ち込みは禁止らしい。うっかりな人が居るから書いているのだろう。

 検査担当の魔導医は女医で検査技師は老人だった。

 検査技師が魔導検査機の調整を始めると背後の壁に影がうごめく。
 トカゲ、ヤモリかな?
 どこからともなく現れて次々と技師の後ろに集合する。

「あの、後ろの影って魔導具の影響ですか?」
「後ろかい?」

 検査技師の老人が振り向くと影が雲散した。

「正常だが。何か問題かな」
「いいえ……」

 何なのだろう。技師が魔導具を調整し始めるとまた影が湧いてくる。もう気にしないことにした。目の錯覚か何かの病気かもしれない。

 しかし、多すぎるよヤモリ。

 検査自体は長時間を要したものの、期待した大きなトラブルは発生せず完了してしまう。検査が終わり担当医から次回の診察は1週間後と伝えられた。

 この病院は居心地悪いし、また来ないといけないと思うと憂鬱になる。



 精密検査が中途半端に早く終わったので近くにあった寂れたレストランに入って時間をつぶしている。

 窓際から外を眺めると、さっきまで降っていた雨は上がっていて、肌寒いけれど散歩するにはいい天候かもしれない。おなかがすいたのでお茶とサラダに腸詰と揚げ物のセットを頼んで遅いランチにした。フライはちょっとしつこかったが、サラダとお茶で流しいれた。

「さて、早く終わったから買い物でもしておくべきね。食材買わなきゃ」

 記憶にある保管庫は空っぽにちかく、野菜や肉類と日持ちする調味料をまとめ買いすることにした。一人暮らしの買い物は楽しさと面倒臭さがせめぎあう。配送サービスを使わなければ女手では持ち帰りが苦痛でしかたない。

 なんとなく食べ足りないのでデザートを物色していたけど、あまり美味しそうにないので途中で買って帰ることにした。

 店を出ようとするとねっとりとした視線を感じる。振り向いても誰も私を見ていない。

 最近ちょっと自意識過剰かもしれない。


 家の近くのポータルから出て、近所にあるショッピングモールを目指す。ちょっと高くても一度に多種類の物が買え一括配送も可能なことから、手間を省いて手ぶらで帰ることにした。検察局の先にあるショッピングモールは魔導バルーンに吊り下げられ、さながら浮遊市場といった風情である。

 手前の緑地では親子連れが大勢いて、買い物に飽きた子供の相手をしているようだ。私は子供にぶつからないように避けながら、突き当りにある店内への短距離ポータルを目指した。

 店内に入って店内用の異空間収納バッグをタッチして認証を完了。あとは欲しいものを放り込むだけ、お買い物は手ぶらで便利なのだ。モール内は売り場もお店も関係なく共通会計になっていて、いうなれば入れたもの勝ち。勝負じゃないけれど。

 私は魔獣の肉の鮮度を確認しては収納バッグに放り込む。野菜の特売品をベタベタ触っていると店員が睨みつけてくる。触り過ぎかもしれないが気にしたら負けだ。しかし、収納バッグは買い過ぎに注意しないと家の収納庫が破裂する。何度かやらかして、保管庫を魔法再構築するはめになったので要注意である。

 買いたいものは一通り揃い、買い忘れや数に間違いがないか確認して、配送サービスを選んで店を出た。店から出るときに清算されるのでストレスはない。


 外に出ると太陽が顔を出し、陽光がとても眩しかった。
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