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冬は総括

ロールケーキとお尻

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 「余計な動きって?」

 あやかんは、凄く食いついてきたよ。
 今のあやかんは、2つの動作をいっぺんにやっちゃってるんだよ。
 FFの場合、安定してるんだから、2つもアクションは要らないんだよ。
 だから、思い切って

 「思い切って?」

 逆ハンドル切るのをやめるんだよ。

 「ええーー! 無理だよ!」

 それじゃぁ、アクセル開度、そのままでいける? 私の経験上、そっちの方が難しく感じるけど。

 「ううっ……」

 FFの場合は、お尻が流れ始めたら、ハンドルはそのままでアクセルを戻してあげると、元の姿勢に戻るんだよ。
 原理で考えてみても分かるよ。ティッシュの箱を前から引っ張るのと、後ろから押してあげるのをイメージしてみれば、前から引っ張って、お尻が暴れても、強引に引っ張っちゃえば収まるでしょ。

 「確かに……」

 本能的に動いちゃうのは分かるんだけど、そこを押さえて理論で運転できるかが、冬道の基本なんだよ。

 「運転って、めんどいなぁ……」

 でも、これを乗り越えないと、あやかんはまた去年までと同じバス通学に逆戻りだよ。このまま一生バス通学だよ。

 「バス通学は、今年で終わりだろー!」

 いーや、分からないよ。
 あやかんがどこに進学するかは聞いてないけど、でもって、これが乗り越えられないあやかんは、次の進学先でも、またバス通学なんだよ。そして、また、デカい団地の次の停留所に当たってさ、朝バスに乗れない日々に逆戻りなんだよ。

 「綾香、かわいそ~」

 そうだね、燈梨。
 でも、その頃には私ら関係ないからさ、あやかんが1人困ってる姿を遠くで見守ってあげようよ……ぷぷぷっ。

 「なんでお前らは、私が困るの前提で話してるんだよ~」
 「あぁぁ、綾香、お気の毒だね~」

 さぁ、あやかん、一生バス通学になる前に、今日ここで頑張ろうよ。

 「お前ら、あとで覚えてろよ~」

 さて、あやかんも落ち着いたところで特訓再開だね。
 でも、原理が分かれば、あとは体を動かすのみだと思うよ。
 問題は、あやかんの身体が順応できるようになるかにかかってるんだよ。

 「難しいよ~」

 そうかな? 今はFFで運転覚えてから、FRの運転覚えるのが一般的だから、そっちの方が大変だと思うよ。
 だって、FFはただアクセル戻せば安定するのに、FRは更に2アクションいるからね。

 じゃぁ、早速走行開始だよ。
 そこで大きめにハンドルを切って、姿勢を崩してみよう。
 そう、そこだよあやかん! そこでハンドルは行きたい方向にしっかり切り込んで、アクセルを戻してやるんだ。
 そうすると、やがてお尻の感覚が真っ直ぐに戻ってくるから、そこでもう1回アクセルを踏んであげるんだ。

 「おおっ!!」

 ホラ、ちゃんと元に戻ったでしょ。
 これなら、やっていけるでしょ?

 「確かに、こうやって運転してやれば、お尻が流れても大丈夫なんだね」

 そうそう、基本はこれで大丈夫だよ。これならあやかんも、ほぼ大丈夫だね。

 「ほぼ?」

 そう、ほぼ。
 そして、これは最後の関門になるよ。
 どんな駆動方式のどんな車に乗っても、滑っちゃうときは滑っちゃうんだ。それを立て直す方法は、今もレクチャーしたんだけど、それでもダメな時って、あるんだよね。

 「そんなになったら、どうするんだよ!」

 あやかんはせっかちだなぁ、せっかちすぎると死ぬのも早くなっちゃうよ。
 それじゃぁ、これは行きつくところの話だから、駆動方式はあまり関係ないんだけど、立て直しがきかなくなった時は、発想の転換だよ。

 「発想の転換って?」

 ズバリ、スピンさせて止めるんだよ。

 「ええーーーー!?」

 あやかんはオーバーアクションだなぁ。
 でもって、これは基本だよ。
 立て直しがきかない時は、いかに被害を最小限で喰い止めるか、ここが重要になってくるんだよ。場合によっては壁や、他の車にぶつかって止める事だってアリなんだよ。

 「そうなのかぁ……」

 あやかんは深刻そうな顔して考え込んじゃったよ。
 どうして、あやかんはそういちいち深刻に考え込んじゃうんだよ。
 それを最小限に喰い止めるための特訓なんじゃないか。

 そして、私はこの訓練と言って思いつき、スターレットに3人で乗り換えた。

 「この車で、あそこ大丈夫なの?」
 「そうだよマイちゃん。これで真っ直ぐ走れるの?」

 あやかんと燈梨が次々に口にしたが、燈梨は自分の言葉を聞いて気付いたみたいだ。
 そうなんだよ燈梨、この車、真っ直ぐ走れないからこの訓練に使えるんだよ。

 「でも、どうやって進むの? さっきみたいじゃ、話にならないじゃん」

 燈梨、それには私なりの考えがあるんだよ。
 私は、コースの遥か手前の乾燥地点からスタートして、助走を充分付けた上でコースに突入した。
 予想通り、スターレットはそのままの勢いを維持して、コースを走り続けた。

 「やったぁ!」

 あやかんが歓声を上げた。
 私さ、ふと思ったんだけど、スターレットはスタート時に、物凄い駆動力が前輪に集中するからまともに走らないんだよ。
 だから、今みたいに乾燥してる地点があるなら、そこからスタートさせちゃえば、あとは普通に進むでしょ、スタート時みたいにタイヤで搔かなければ良いんだもん。

 そして、スピードが乗ったところで、アクセルをグッと踏み込んでみる。
 やっぱりだ! LSDが無いから、片方のタイヤが掻かなくなって、そっちに巻き込むようにスピンし始めた。
 でも、ここでアクセル抜いて立て直したら教習にならないから、敢えてアクセルは踏みっぱにして、スピンモードに突入するよ!

 「あああ~、あぶない~!」

 あやかん案外うるさいな、まるで柚月みたいだよ。
 私は、アクセルを抜くと、ロックするまでガツンとブレーキを踏んでリアタイヤをスライドさせると、今度はアクセルとブレーキを微妙なタッチでコントロールして、トン、トンと2アクションで見事にスピンしかかった円の中心に車を止めた。

 これが正しい止め方だよ。

 「凄い! マイちゃんの止め方、感動しちゃったよ!」

 そう? 燈梨にそう言われちゃうと私は嬉しいなぁ~、思わず抱きしめたくなっちゃうよ……って、抱きしめちゃお~、ぎゅうぅぅぅ。

 「あはははは……」

 あやかんも、今の軌跡を見て分かるように、最小限でしょ。
 走って来た方向を最外側に、ロールケーキみたいな軌跡で車を止めたんだよ。

 「おおーー!」

 これがベストな止め方だよ。
 いざ道路でこのラインを維持するのは難しいだろうけど、なるべくこれに近い軌跡で止まるんだ。
 ダメなのは、反対方向に巻き込んだり、外周が大きすぎる円を描くパターンね。

 「なんでダメなんだ?」

 あやかん、考えようよ。
 反対に巻き込んだら、対向車線に飛び出すだろー、それに、これ以上大きな円を描こうとすると、やっぱり対向車線にはみ出すし、それに、車線内に収まらなくて、崖から落ちちゃうよ。

 そうだよ、コツは、“絶対に、内側に巻き込んで止める”っていう、強い思いと、行き先をしっかりと目線で追う事。
 これは普段の走りにも言えるんだけど、行きたい方向を視線でしっかり追ってる人は、アクシデントがあった時も、なんとか上手く切り抜けられることが多いんだよ。
 科学的に実証されてる訳じゃないけどさ、それでも統計学的には言える事なんだよね。

 そして、巻き込んだ後は、アクセルとブレーキのコントロールで、とにかく内側へと向けていく動作をする事。
 怖いだろうけど踏みっぱなしはダメだよ。特にブレーキの踏みっぱは、タイヤがロックしてハンドルもブレーキも効かなくなる要因だからね。

 よし、分かったらやってみよう!
 
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