女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

冬は総括

松竹梅と箱入り

　「よく知らないよ。最初からついてた物だし」　

　翌週の月曜日、学校にやって来た優子に訊いてみたんだけど、やっぱり詳しくは知らない様子だった。

　「ただ～、昔はクイックシフトの関連って、車検対応か否かってうるさくて、大抵の適合品には、認定証みたいなのがついてたはずなんだよね～」

　柚月は言って、優子の車の車検証入れの中を探していたけど、出てこなかったみたいだ。
　でも、実際のシフトを動かしてみて

　「ホントだ～。シフトがガッチリしていて、ストロークも短いね～」

　と感心しきりだった。
　
　そして、やっぱりと言うか、帰り道で感じたのは、シフトの違和感だったんだよね。今までは感じなかったんだけど、優子のガッチリしたのに慣れちゃったせいで、なんかグニャグニャで、ストロークってやつも長いように感じちゃったんだよね……。

　翌日の学校で、そんな話をしたところ、優子がやって来て

　「昨日の帰り道、参っちゃった。マイの車のシフトに慣れちゃったから、エンスト3回もしちゃってさ……」

　とボヤいていた。

　「結局さ～、やり過ぎるとそうなっちゃうんだよね～。違和感が大きくなっちゃうっていうかさ～」

　柚月が言っていたが、そうなんだろうねぇ。
　なんか強化クラッチ組むのも善し悪しで、凄いパワーに対応するやつとか組んじゃうと、物凄く重くなって、ノーマルクラッチ車に乗った時に、クラッチが無いくらいに軽すぎて、超長い半クラッチになっちゃって、傍から見たら『マニュアル乗った事ありませ～ん』くらいのヘタクソに見えちゃうから困るって、兄貴が言ってたなぁ……。

　話戻すと、私は優子の車を体感した身として、自分の車ももう少し短くしたいんだよね。

　「まぁ～、R32だからさぁ～、選択肢は色々とあるよ～。この年代の車としては、恵まれすぎてるくらいにねぇ～」

　なんか、柚月の言い方に妙に引っかかるところがあるんだけど、まずは訊いてみよう。じゃぁ、ベストなのは？

　「そりゃぁ～、やっぱり専用品を買うのがベストだよね～。ちなみに～、予算は2万～5万くらいだけど」

　うぅ……やっぱり高いね。
　車の部品ってのは、どうにも高すぎるんだよ。どうして、もっとこうリーズナブルにならないのかねぇ。

　「いやいや、充分リーズナブルなんだよ。ただ、マイのお財布がついて行ってないだけでさ」

　悠梨め、そこんところをズバッと言っちゃうと、身も蓋もないだろ、私は、どうにかする方法が無いかを訊きたいんだからさ。

　「まぁ～、予算に応じて、方法は色々あるよ～。ただ、効果は予算なりだろうけど～」

　まぁ、松竹梅で言うなら、梅から主義だね。

　「まず手っ取り早いのは～、シフトノブの交換かな～」

　なるほどね、確かに室内作業で真っ先に外すから、きっと交換できるんじゃないかな、とは思ってたけど、やっぱり交換できるんだね。

　じゃぁ、竹は？

　「真偽のほどは、確かめた事は無いけど～。GT-Rのシフトレバーに交換すると短くなるって聞いたことがあるよ～」

　なるほど、ここでも出てきたGT-R用だね。
　標準車のR32に乗ってると、GT-Rの存在が凄く助かってくるよね。
　ふむふむ、これが竹ね。
　一体、いくらするかが問題だな。

　え？　ネットで調べたところ、新品で5千円前後だって？
　なるほど、今年頭の情報だから、まだ在庫があるか分からないけど、あれば手が届きそうだね～。

　よし、こうなったらさ、竹と梅の合わせ技とかってのはどうだろ？

　「でも、シフトノブだってピンキリだぜ。ショップオリジナルのやつとかだと、結構いいお値段、するぜ～」

　なに悠梨、そうなの？
　それは困ったなぁ……それにさ、シフトノブでどれだけ変わるかってのは、正直分からないところだからさ、通販とかで買っちゃってから、なんか違う……とかなっちゃうと、マジで困っちゃうんだよね。

　「素材、形状、長さ、重さ。これだけでも大きく違ってくるから～、どれが自分好みかをよく見極めてから、選んだ方が良いと思うよ～」

　なんだと柚月、そんなに違うのか？
　ちなみに、私の車についてるのは、どうも純正っぽいんだけど、兄貴は恐らく社外品をつけてたと思われる形跡があるんだよ。

　シフトノブの上部に1からRまでのパターンが打刻されてるのに、灰皿の脇に同じパターンのアルミプレートが貼ってあるんだ。
　それに、記憶だと兄貴は、この車に赤いメタリックのアルミ製と思われるシフトノブをつけていたんだよね、どうしちゃったのかは知らないけど、また、家のどこかから出てくるのかな？

　まぁ、今日は部活もないし、ちょっとカー用品店にでも寄ってから帰ろうかな……って、いかんいかん、遂に車に毒されてきてるような気がする。
　学校帰りにカー用品店に寄り道するだなんて、私が最も唾棄《だき》している人種の行動じゃないか！

　「じゃぁ、やめる～？　でもって～、今日じゃないと、みんな忙しいと思うよ～」

　柚月の奴め、ニヤニヤしながら言いやがってぇ……後でトイレに連れて行ってお仕置きだ。

◇◆◇◆◇

　カー用品店に行って、シフトノブコーナーを見てるんだけど、全部箱に入っちゃってるから、どうにもピンとこないね。
　シフトノブの形は、何種類かあることは分かったんだけど、それくらいしか分からなかったよ。

　ピンポン玉みたいな、球状のタイプに、筒みたいな形をしてるタイプ、それに、ちょっと純正に似たバナナ型みたいなタイプと、3種類のノブがあったよ。
　3つのうちから選ぶしかないみたいだね……。

　「最近は、マニュアル車が少ないから、こんな扱いなんだろうね」

　結衣が商品ラインナップを見ながら言った。
　確かにそうなんだろうけどさ、これじゃぁ選びようがなくね？　
　こういうのって、実際に触ってみて、握り心地とか、そういうのを見るものじゃない？　見本が無いと分からないじゃん。

　カップホルダーとかは、見本品があるのに、シフトノブに見本品が無いのって、どうかと思うよ。
　だってさ、カップホルダーなんて、ぶっちゃけミスったとしても、1,000円くらいなのに、シフトノブはその3倍以上するんだよ。不公平じゃね？

　「マイ、ガミガミ吠えるなよ」

　ええ～い、うるさい悠梨。
　これが吠えずにいられますかっての。
　ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ……。

　なんか、私ら妙に注目を集めてね？
　みんなもこの不条理に賛同してるのかな？
　え？　違うって？　平日の昼間からJKのグループが来てるだけでも目立つのに、中で1人、ガミガミ言ってるのがいるからだって？

　なんだとぉ～、悠梨！
　悠梨は理不尽な事をされても、声もあげずに泣き寝入りするような、そんな腰抜けチキン野郎だったのかぁ？
　えぇ～い、悠梨め！　早く目を覚まして真人間になるんだぁ～！

　あれ！？　柚月があっちの方から手招きしてるぞ。
　なんだ、私にガミガミ言われたいのか？

　「ここにも～ノブが少しあるよ～」

　え？　あぁ、ここはスポーツ用品コーナーか。
　なるほど、ここにはスポーツ系のメーカーが作ったノブなんかが置いてる訳だね。
　今度はアルミ製のノブが主流になってるね。
　スポーティは、アルミ製なのかな？　一概にそうは言えない、だって？
　ジュラコンってなに？　樹脂の一種だって？　要は樹脂製ね。

　こっちも基本はさっきの用品コーナーのと変わらない形状だけど、ややバラエティに富んでるよね。
　なんか、上と下が広がって前方後円墳みたいな形のとか、筒型でも、茶筒みたいなガッチリしたやつとかさ。

　でも、やっぱり、これも全部箱に入ってて、どんな握り心地なのか分からないよ～。
　せっかく、時間を割いてカー用品店に来たのに、余計モヤモヤしてきちゃったじゃんか～！