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冬は総括

体型と着座姿勢

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 さて、シートってのはね、中古車を選ぶのと同じくらい、見極めが必要なんだよ、燈梨。なにせ、常に肌に触れてるものだからね~。
 燈梨が、とっても真剣な表情で頷いてるよぉ~、ホントに愛い奴《ういやつ》愛い奴……。

 「マイなんか、シートはおろか~、中古車だって選んだこと、無いだろ~」

 うるさい柚月め、場の空気も読まずに適当なツッコミ入れやがって。

 “ガンッ、ビシッ、バシッ”

 「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」

 うるさいよ、柚菌! 作業に関わってないアンタにツッコまれる覚えはないよ。

 「ユズキンって言うなよ~!」

 柚月は言ったが、直後に優子に背後から首を絞められて

 「ユズ、マイ達の作業の邪魔するなら、今日ここで、人生終わりにしても良いんだよ?」

 と言われると

 「覚えてろよー」

 と言って、向こうの方へと走り去っていった。
 なんか、最近の柚月の捨て台詞が、昭和のチンピラみたいになってるのは何故なんだろう? と思うけど、まぁ、放っておこう。本題と関係ないし。

 まず、結衣のシートで見ないといけないのは、座面と背面だよね。
 ここで重要なのは、やっぱり座面の状態なんだよ。
 新品ならともかく、以前の使用環境が分からない中古品、特にこの場合は解体車についてた程度極悪品になるから、しっかりと見極めないとね。

 「以前の使用環境って?」

 お? さっすが燈梨だね~。
 部長としての目のつけ処ってのが、芽生えてきた感じがするよぉ。

 世の中には、色々な体型の人がいるし、家族構成もまちまちなんだよ。だから、太っている人が、通勤とかで、ほぼ毎日車に乗っていた場合と、痩せてる人が休日だけ乗ってた場合は、座面や背面の痛みやヘタり方が全く違ってくるんだよ。

 「なるほど」

 まずは、それを踏まえて座面を見ていくんだけど、触ってみての段階で分かるほどヘタってるのはもうアウトだね。 
 ……この見た目が綺麗そうなのは、ダメだね。触った段階で、お尻の辺りがべこっと窪むからね。

 「でも、座面の他の部分はしっかりしてるよ」

 そうだね、燈梨。
 恐らくだけど、このシートって、痩せすぎの人が使ってたんだろうね。

 「ええっ!? でも、さっき太ってる場合はヘタる、みたいに言ってたじゃん」

 おおっと、結衣いたの? え? いるに決まってるって? しょうがないなぁ……。

 一般的には、太ってる人が座ってるとヘタるよ。それは分かるでしょ。
 でもって、このヘタり方の場合は逆なんだよ。
 痩せすぎてる人って、座った時に、お尻の骨が出っ張り気味になるんだよ。座った姿勢になるから、そうなると、座面の一番奥の部分に骨の尖った部分がいつも当たってる事になっちゃうから、段々とその部分だけがヘタってくるってわけ。

 「なるほどー」

 2人ともちょっと感動してるよ。
 
 「でもさ、これで綺麗なのがアウトだと、ちょっとヘコむな……」

 でも結衣さ、今までのやつは擦り切れてたんだからね。
 それから比べればずっといいと思うんだけど、それに『綺麗』って言ってもさ、それって汚れの話なんだから、洗濯すればいい話じゃん。
 それとも結衣は、中古品なのに、布のリフレッシュもしないで取り付けようと思ってたの?

 結衣は、考え込んだような表情になってたんだけどさ、ホントにそのままの状態で使おうと思ってたのかな?
 この倉庫だって、おじさんは綺麗に整理整頓してるけど、それでも車の部品が入ってる倉庫だから、空気が重くて油っぽいし、埃だってそれなりに舞ってるんだからさ。

 前から思ってたんだけどさ、結衣って、案外そういうところ、ガサツだよね。
 結衣の家って、おじさんが物凄く綺麗好きで、掃除にもうるさいって聞いたことはあるんだけど、あまりおばさんの話って聞いたこと無いんだよね。

 1年の頃、結衣の部屋にあったラジカセが凄く埃だらけだったのが印象に残ってるのと、柚月が結衣から本借りたら、くしゃみが止まらなくなって、柚月のおばさんが見てみたら、本の中から物凄く埃が舞ってて、柚月がアレルギー反応起こしてたせいだったって事があったくらいだからな。

 ホラ、いくらおじさんが綺麗好きでも、年頃の娘の部屋に掃除には入らないじゃん。だからだと思うんだよね。

 そう言われてみれば、車に乗り始めたばかりの頃、オーディオ交換結衣に手伝って貰った時に、結衣が、おばさんの車は、何故かCDプレーヤーがいつも故障するから、しょっちゅう交換してるのを見てて、デッキの交換方法を覚えた……とか言ってたな。

 そう考えると、結衣は掃除や片付けが苦手……っていう推測が出来ちゃうんだよね。
 
 結衣の掃除嫌い疑惑は、ひとまず置いておいて、本題に戻ると、他の2脚のも見てみようね。
 脇が破れてるのは、乗り降りの頻度が高かったことを表しているから、走行距離の多さを表してると言っても良いかもね。
 触ってみても、ちょっとヘタりが見えるね。

 そして、最後は、捩じれてるやつだね。
 これはどうしてこんな形になったんだろう? 事故車から外したのかな?
 まあ、もう座る事の出来ないシートだけど、こういうのの場合は、もしかすると……って事もあり得るよ。

 「どうして?」

 もし、これが、車が廃車になる前からこんな状態だったとすると、物凄く座り辛いし、身体が捩じれて痛みが走るはずだから、なるべく座りたくないと思って、座らないようにしたと思うよ。

 「正解だよ」

 あ、おじさんだ。
 このシートは、中古車で買った時についてたんだけど、捩じれて身体が痛いと思って外したら、こんなに曲がってるのに気付いたオーナーが、ここに来て、中古の純正シートを買って行った時に置いていったんだって?

 なるほどね。とすると、シートの程度は良いって事になるよね。
 やっぱりだ、このシートの座面も背面も、ヘタりも無くて、すごくフカフカだよ。
 よし、背面と座面はこのシートから頂きね。
 みんなに外して貰おう……って、柚月や優子は何処に行ったのさ?

 「あいつらは、用があるみたいだからさ、私がやるよ」

 そうなの?
 みんなは一体なんの用があるんだろう? ……って、いいから、早く続きを見ててくれだって?

 この捩じれてるやつは、もしかしたら布地も使うかも……だから、乱暴に外さないようにしてね。
 座面と背面のクッションは、それぞれ爪で引っ掛かってる構造だから、力任せに引っ張ると爪が曲がっちゃうからね。

 その間に、燈梨と他の2脚を見てみよう。

 「舞華、こっちの方が、布地は良いかも……だよ」

 どれ燈梨。
 そんなに変わらないように見えるけど、え? ちょっとさっきのシートを見てみて……だって?

 「この捩じれてる方のって、煙草吸ってたと思うよ。だから、あっちの方が良いと思う」

 どれどれ……って、結衣が座面外した所から、煙草の灰が出てきたよ。
 
 「あ……」

 ホントだよ、背面を結衣がはぐろうとしたら、布地の端の方に煙草の焦げ穴が開いてたよ。
 それにしてもよく分かったね、燈梨。
 え? 今までに色々な男の人のところを転々とした、家出時代の経験が役に立ったって? いいよ! その話は思い出さなくてさ。

 「とにかく、煙草吸ってたかどうかは臭いとかで分かるんだよ。芳香剤とかで誤魔化しても、染みついてるんだ」

 なるほどね。確かに、煙草の焦げ穴はやだもんね。

 「こっちには、穴は開いてないみたいだな~」

 結衣が言ったんだけど、一応見てみよう。
 ……うん、無いみたいだね。

 兄貴曰く、車の中で煙草を吸う場合、窓を開けて走りながら吸うから、風に乗って火の残った灰が、背面に当たるパターンと、灰皿に捨てる際にミスって、座面に火種を落として焦がすパターンに二分されるんだって。
 だから、その2点を注意して見てみるんだってさ。

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