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冬は総括

3つのドナー

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 おかしいな。今日は3年生は来ない日じゃなかったっけ? なんで柚月がいるんだ。

 どしたの柚月、マゾヒスト部の用事でななみんを迎えに来たの?

 「マゾヒスト部じゃないもん~!」

 じゃぁ、何の用なのさ。
 今日は、3年生の活動日じゃないじゃん。私は、特別にみんなから要請を受けてだね……って、柚月、人の話を聞けよ!

 なに? 私の手を引っ張ってさ、言っとくけど、私はマゾヒスト部には入らないからね。

 「マゾヒスト部じゃない~!」

 ええ~い、柚月め放せ! 何の用かって聞いてるんだよ。
 いい? 今の私は1、2年生のコーチ中なんだよ、それを連れ出すのに、何も言わないってのは、部に対して失礼だと思わない?

 え? ななみんったら、そんな羨望の眼差しで見ても、何も出ないよ~。
 凄いって? そう? 私はね、こういう筋の通らない話には、柚月に対してだって、1歩も引かないんだからね。

 「ユイが、すぐに解体屋さんに来てって、言ってるんだよ~」

 なんだ、みんなで解体屋さんに行ってたのか、でもって、そんな急を要する要件だったら、私じゃなくて、119番して、レスキューを要請しなきゃ……だよ。
 さぁ、気を取り直して次の走行にいってみよ~。ねぇ、燈梨。

 私は燈梨の手を取って、車に向かって歩き出したところ、反対の手を柚月に掴まれて、引っ張られた。

 オイ柚月、この練習車は2人乗りなんだよ。柚月の乗るスペースは無いんだよ。
 なに? さっきななみんと沙綾 ちゃんの3人で乗ってただって? あれは、体重制限クリアしたからだよ、デブな柚月乗せるのとは訳が違うんだよ。

 大体、どっちに向かってるんだよ、練習車はこっちだろーが。

 「解体屋に行くんだよ~!」

 行かないやい。今の私は部活中だい。
 これから、燈梨と2人きりでキャッキャウフフなドライブ……じゃなかった、今後の部活動についての熱いディスカッションをしながら、練習コースの下見をするんだからな。

 コラッ! 柚月! 行かないって言ってるだろーが、これ以上ムチャクチャすると、こっちにも考えがあるぞ、おばさんに、柚月が学校でパンツ脱いでるって、サクッとLINEしてやるからなぁ。

 「やめろ~!」

 うるさい、放せ柚月め。
 そうやって私と燈梨を連れ出して、娼館に売り飛ばそうって魂胆は見え見えなんだぞ~。

 「誰がそんなことするか~、それに燈梨ちゃんは別として、マイなんか、1円の価値にもならないもん~」

 さぁ、燈梨。バカは放っておいて行こ行こ。いざ、キャッキャウフフなドライブ……もとい、部の将来のための厳粛な打ち合わせに。

 「ねぇ、舞華。可哀想だから行ってあげようよぉ」

 燈梨、まだ分かってないみたいだね。
 こんな奴に情けなんて無用だって、文化祭の時に分かった事じゃん。
 こいつになんて、情けをかけたところで、あとで唾吐きかけられるのが関の山だよ。

 「そんなことしないやい!」

 え? 柚月じゃなくて、結衣の事が可哀想なんだって? そんな、結衣だって人に相談もなく勝手に買った挙句の結果だから、同情の余地は無いんだけどね。
 ……そんな、燈梨にウルウルした目で頼まれちゃうと弱いなぁ……仕方ないな、今回だけだからね。

 折角だから、部でも解体屋さんで探したいものがあるから、燈梨がついて来てくれるって?
 そう? それじゃぁ、行こっかぁ~。

◇◆◇◆◇

 オイ結衣、どういうつもりだよぉ~、こっちは部活中なのにさぁ、わざわざ呼びつけるなんてさぁ。

 「ゴメンゴメン……ちょっと見て貰いたいものがあってさ」

 なに、見て貰いたい物って、言っとくけど、くだらないものだったら、ナックルパンチをお見舞いするよ。

 「舞華、可哀想だよ……」

 燈梨、ダメだって、このメンバーに気を抜いちゃ。
 結衣だって、そんなこと言って、くだらないことの方が多いんだから。
 前だって、大事なプレゼントだって言うから箱開けてみたら、ムカデのおもちゃだったとか、『このハンドクリーム、マジでいいから使ってみて~』とか言うから手出したら、わさびが出てきたりとか、ロクな事じゃないんだから。
 
 「今日は違うってば、ほら見てよ」

 あぁ~、見たくない見たくない、目が腐る~!
 結衣が強引に私の手を引っ張ってコンテナ倉庫の中に入ると、そこにはいくつかのシートがあったよ。

 「どれ使えば良いと思う?」

 それはさ結衣、どれ使うかって、言えばやっぱ新品一択でしょ。
 やっぱりへたりが無いし、擦れや破れも無いからね、ウン、おススメだよ。

 「そんな話はしてないだろ。ここにある中で、どれがいいかって話だよ」
 
 そう言われて結衣の奥にあるシートを見てみた。
 そこには結衣の物と同じ機種のシートが置いてあったが、どれも難アリの物ばかりだった。

 1つは、脇腹と同じ側の腿の部分に穴が開いている物、もう1つは、リクライニングの調節ダイヤルが無くなっていて、布は無事っぽく見える物、そして、最後の1つは、見た目にねじれてるように曲がっている物だった。

 「舞華、どうやって選ぶの?」

 燈梨は、私に心配そうに訊いた。
 う~ん、いいねぇ、燈梨に頼られて、腕に掴まられるなんてさ、サイコーだよ!
 ここは、燈梨にバッチリと頼れる私を見せておけば、きっと燈梨のハートは、コンさんから私に釘付けになるに違いないよ。

 私は兄貴が前に言っていた事を思い出しながら、シートの表面や座面を撫でてみたり、叩いてみたりしてみた。そして、最後は座ったりしてみて、その感触を確かめてみた。

 そして、おもむろに結衣に聞いてみた。
 おじさんに、3脚それぞれの部分売りして貰ったらどうなるのかって、聞いた?

 「いや、てっきり1脚で済むものだと思っていたから……」

 じゃぁ、ちょっと聞いてきて。
 その間に、私は色々調べてみるからさ。

 それにしても、ここって、結構社外品のシートも入って来るもんなんだねぇ。

 「ホラ、ここと隣の県って、峠道多いから、昔からその手の事故車が多いんだよ」

 あぁ、優子も来てたんだ。
 え? 後学のために見に来てみたんだって?
 やっぱり優子もシートの交換に興味あったんだ。

 「私は、そこまで必死じゃないよ」

 うん、それくらいで良いと思うんだよ。サーキットに行くわけじゃないし、結衣の革シートだって、座れない訳じゃないんだからさ、そんなに必死にならなくてもさ。
 あ、結衣が戻って来た。

 「良いよ、だってー。どのみち捨てちゃうから、どう使って貰っても良いって」

 そうか、分かったよ。
 じゃぁ、これから結衣のシートの貧乏リフレッシュ作戦といくよ!
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