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冬は総括
桃とお尻と
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今日は、3年生の活動日じゃないんだけど、1、2年生に頼まれて、例のダートコースの同乗コーチに呼ばれたんだよ。
あの3台の専用車に乗るのも初めてなんだけど、結構生傷が増えたね。まぁ、そのために用意した練習車なんだけどさ、一番きれいだったチェイサーでも、フォグランプが片方割れちゃってるんだよね。
紗綾ちゃんの運転に、ななみんと一緒に乗って1周する最中に、途中で見事にスピンして土手にぶつかっちゃってたよ。
ちなみにななみん曰く、一番上手いのは燈梨で、次にななみん、紗綾ちゃんの順らしいから、やっぱり、経験値かバイクの上手い下手かも関係してるんじゃないかなぁ。
確かななみんは、バイクもスポーツ系の輸入車だったからね。
走行後に、2人に請われて、私の運転で同乗教習することになったんだよ。
どれも初めてだけど、じゃぁ、スカイラインに乗ることにしようか。
え? ハンドルが重いと思ったらベルトが切れてた? あぁ、じゃぁ、他にしようか……という事で引き続きチェイサーに乗ってスタートした。
うんうん、初めて運転するんだけど、結構軽快に曲がってくれて良い車だよ。
でもって、ハンドル切った時の反応に、若干紙一枚挟んだような違和感が無い訳じゃないけど、それも最小限だし、良いよね。
「ただ……ですね」
なに? ななみん。
「そのシートがぶよぶよ過ぎて、お尻が安定しないっス」
あぁ、この車、通常グレードだしね。
昔のトヨタの車は、シートの出来が悪かったからしょうがないよ。
ただでも出来の悪いところに加えて、通常グレードだから、見た目の豪華さだけを追い求めてるからね。
シートの上にクッション敷いて座ってるような感じだからね。
「なので、この車もシートを換えてみたいっス!」
良いんじゃないの?
でも、このコースって泥ついたりするから、新品とかは勿体ないよね。
「それは、予算的にも難しいと思います」
紗綾ちゃん。ななみんより台所事情に詳しくない? え? 会計部門も任されてるの?
「七海は、どんぶり勘定なんです。勝手に千円未満の単位を切り捨てたりするから、収支が合わなくなるんです」
なるほどね。
話戻すと、だから、結衣が買ってきたようなレベルのシートで良いと思うんだ。破れてるのは論外だけど、色褪せしてるのとかね。
モノがあれば、フルバケでも良いと思うけどね。このチェイサーなんて、シートのおかげで結構ダイレクト感を削がれてるから、換えるだけで結構走り方まで変わると思うよ。
うん、確かに、ちょっと車が滑り出した時の感覚が、シートによって打ち消されちゃってるんだよね。
だから、さっきの沙耶ちゃんは、この感覚を掴み損ねて、反応が遅れてスピン
……っていう感じじゃないかなって、私は見てるんだ。
「そうです! なんか走ってて、ヌルッとした感じになったと思ったら、急に巻き込んじゃって……」
やっぱりね。
そうなると、換えた方が良いかな。
シーズンオフは、ノートとかについてるフルバケ借りてこられないの? あれって、冬の間は練習できないじゃん。
ノートについてるのは、兄貴が置いていった、結構高いものらしいよ。
「他車種流用なんて、どうなんですか?」
紗綾ちゃんったら、免許取得前からいきなりビギナーを飛び越して、高度なところにチャレンジするねぇ。
悪くは無いんだけど、問題は2つで、1つ目は合うシートがあるのかって問題。純正流用だと、ドンピシャでレールの穴位置が合う車種が少ないんだよ。
この場合だと、ツアラー系のシートくらいしか無いんじゃない?
2つ目は、合うシートが流通してるかの問題。解体屋さんにタイミングよく入ってれば安く入手できるけど、ネットオークションとかで遠方から買った場合に、送料を含んだらコストに見合うのかってところだよね。
「GT-R用や、RX-7用なんかは無理っスか……」
ななみんね、それは無理だよ。
車って、床のレイアウトがそれぞれで、シートのレール形状も、それに合わせてそれぞれだからね。だから、社外品のシートレールなんてものが存在するんだからさ。
「レールを加工するってのは、どうですか?」
紗綾ちゃん。それはアウトだね。
あれって、結構丈夫に作ってあるんだよ。切った貼ったができるほど、柔らかくないし、仮に延長なんて事になったら、出来るの?
「溶接するってのは」
それもアウトだね。
実は昔、兄貴がやったんだよね。兄貴は、車いじりのためだけに溶接の免許取ったくらいだからさ。
だけど、あれも上手くやらないと折れるからね。
「ええっ!!」
昔、R32~34のフロントシートって、S13~15のシルビア系に、4ヶ所中、3ヶ所穴位置が一致するから、流用が流行った事があったんだけど、1ヶ所だけ、シルビアだと長さが足らない位置があったんだよ。
そこで、兄貴はレールを溶接して延長したんだけど、6回折れたり、剥がれたりしたからね。
5回ダメで、6回目に兄貴は鉄工所に持って行って頼んだんだよ。確かに、ガッチリ溶接されてて、そこは凄く丈夫だったんだけど、兄貴がそれをつけた180SXを横転させた時、レールが折れて、兄貴はシートごと投げ出されて骨折したからね。
「そうなんですか……怖っ!」
紗綾ちゃん。そうなんだよ、怖いんだよ。
原因はやっぱり溶接でね、溶接した箇所は、ガッチリしていてビクともしなかったんだけど、そこを補強したことによって、衝撃が周辺の溶接されてない箇所に集中して破断したらしいよ。
以降、兄貴はシートの流用は、ボルトオンでいける場合以外は、一切やらなくなったから。
「……」
分かってくれた?
ちなみに、シルビアにスカイラインのシート流用は、当時の雑誌なんかでも紹介されていてメジャーだったらしく、昔は結構多かったらしいけど、兄貴曰く、酷い例だと、ホムセンで売ってる汎用ステーで延長してる車もあったんだって。
時代が大らかだったってのもあるんだろうけど、舐めてるよね。
「恐ろしいっス!」
ななみんでも分かるよね、この意味。
そう、そもそもホムセンの汎用ステーって、穴位置合わせるために、中スカスカだし、しかも、シートレールの後端と、ステーをボルト留めしてるんだから、力はそこに逃げちゃうって事だよね。
ホムセンボルトの強度が、ドライバーの文字通り生命線になっちゃうんだよね。恐ろしや恐ろしや……。
でもね、1つだけそれまでの間、少しでもこの純正シートを有効に使う方法、教えてあげるね。
「なんですか?」
紗綾ちゃんが喰いついてるよ。
この、マークII系の上級グレードについてるパワーシートは、座面の調整も出来るんだよ。
だから、まずは、座面の後ろ側を、限界まで下げてあげるんだ。次に、今度は座面の前側を、自分の運転しやすい中でも限界まで上げてあげると、結構お尻がすっぽりはまって、座面も下がるから、車の動きが少しだけ分かりやすくなるよ。
「凄いっス!!」
そんなに感動されてもちょっと照れちゃうな~。
「マイ先輩は、レジェンドですね。憧れちゃいます!」
あはははは……は、いい気分だな~。
よし、次の走行は、燈梨と2人きりにしてもらって、キャッキャウフフなドライブしちゃお~♪
よし、スタート地点に戻って来たぞ……って、あれ柚月じゃね? アイツ、今日は3年生の活動日でもないのに、なんでこんな所に来たんだろ?
私達3人がチェイサーから降りると、柚月がそれを見てこっちに駆け寄ってきた。
「あ~、マイ、いたいた~」
一体何の用なんだろ? 柚月の奴。
あの3台の専用車に乗るのも初めてなんだけど、結構生傷が増えたね。まぁ、そのために用意した練習車なんだけどさ、一番きれいだったチェイサーでも、フォグランプが片方割れちゃってるんだよね。
紗綾ちゃんの運転に、ななみんと一緒に乗って1周する最中に、途中で見事にスピンして土手にぶつかっちゃってたよ。
ちなみにななみん曰く、一番上手いのは燈梨で、次にななみん、紗綾ちゃんの順らしいから、やっぱり、経験値かバイクの上手い下手かも関係してるんじゃないかなぁ。
確かななみんは、バイクもスポーツ系の輸入車だったからね。
走行後に、2人に請われて、私の運転で同乗教習することになったんだよ。
どれも初めてだけど、じゃぁ、スカイラインに乗ることにしようか。
え? ハンドルが重いと思ったらベルトが切れてた? あぁ、じゃぁ、他にしようか……という事で引き続きチェイサーに乗ってスタートした。
うんうん、初めて運転するんだけど、結構軽快に曲がってくれて良い車だよ。
でもって、ハンドル切った時の反応に、若干紙一枚挟んだような違和感が無い訳じゃないけど、それも最小限だし、良いよね。
「ただ……ですね」
なに? ななみん。
「そのシートがぶよぶよ過ぎて、お尻が安定しないっス」
あぁ、この車、通常グレードだしね。
昔のトヨタの車は、シートの出来が悪かったからしょうがないよ。
ただでも出来の悪いところに加えて、通常グレードだから、見た目の豪華さだけを追い求めてるからね。
シートの上にクッション敷いて座ってるような感じだからね。
「なので、この車もシートを換えてみたいっス!」
良いんじゃないの?
でも、このコースって泥ついたりするから、新品とかは勿体ないよね。
「それは、予算的にも難しいと思います」
紗綾ちゃん。ななみんより台所事情に詳しくない? え? 会計部門も任されてるの?
「七海は、どんぶり勘定なんです。勝手に千円未満の単位を切り捨てたりするから、収支が合わなくなるんです」
なるほどね。
話戻すと、だから、結衣が買ってきたようなレベルのシートで良いと思うんだ。破れてるのは論外だけど、色褪せしてるのとかね。
モノがあれば、フルバケでも良いと思うけどね。このチェイサーなんて、シートのおかげで結構ダイレクト感を削がれてるから、換えるだけで結構走り方まで変わると思うよ。
うん、確かに、ちょっと車が滑り出した時の感覚が、シートによって打ち消されちゃってるんだよね。
だから、さっきの沙耶ちゃんは、この感覚を掴み損ねて、反応が遅れてスピン
……っていう感じじゃないかなって、私は見てるんだ。
「そうです! なんか走ってて、ヌルッとした感じになったと思ったら、急に巻き込んじゃって……」
やっぱりね。
そうなると、換えた方が良いかな。
シーズンオフは、ノートとかについてるフルバケ借りてこられないの? あれって、冬の間は練習できないじゃん。
ノートについてるのは、兄貴が置いていった、結構高いものらしいよ。
「他車種流用なんて、どうなんですか?」
紗綾ちゃんったら、免許取得前からいきなりビギナーを飛び越して、高度なところにチャレンジするねぇ。
悪くは無いんだけど、問題は2つで、1つ目は合うシートがあるのかって問題。純正流用だと、ドンピシャでレールの穴位置が合う車種が少ないんだよ。
この場合だと、ツアラー系のシートくらいしか無いんじゃない?
2つ目は、合うシートが流通してるかの問題。解体屋さんにタイミングよく入ってれば安く入手できるけど、ネットオークションとかで遠方から買った場合に、送料を含んだらコストに見合うのかってところだよね。
「GT-R用や、RX-7用なんかは無理っスか……」
ななみんね、それは無理だよ。
車って、床のレイアウトがそれぞれで、シートのレール形状も、それに合わせてそれぞれだからね。だから、社外品のシートレールなんてものが存在するんだからさ。
「レールを加工するってのは、どうですか?」
紗綾ちゃん。それはアウトだね。
あれって、結構丈夫に作ってあるんだよ。切った貼ったができるほど、柔らかくないし、仮に延長なんて事になったら、出来るの?
「溶接するってのは」
それもアウトだね。
実は昔、兄貴がやったんだよね。兄貴は、車いじりのためだけに溶接の免許取ったくらいだからさ。
だけど、あれも上手くやらないと折れるからね。
「ええっ!!」
昔、R32~34のフロントシートって、S13~15のシルビア系に、4ヶ所中、3ヶ所穴位置が一致するから、流用が流行った事があったんだけど、1ヶ所だけ、シルビアだと長さが足らない位置があったんだよ。
そこで、兄貴はレールを溶接して延長したんだけど、6回折れたり、剥がれたりしたからね。
5回ダメで、6回目に兄貴は鉄工所に持って行って頼んだんだよ。確かに、ガッチリ溶接されてて、そこは凄く丈夫だったんだけど、兄貴がそれをつけた180SXを横転させた時、レールが折れて、兄貴はシートごと投げ出されて骨折したからね。
「そうなんですか……怖っ!」
紗綾ちゃん。そうなんだよ、怖いんだよ。
原因はやっぱり溶接でね、溶接した箇所は、ガッチリしていてビクともしなかったんだけど、そこを補強したことによって、衝撃が周辺の溶接されてない箇所に集中して破断したらしいよ。
以降、兄貴はシートの流用は、ボルトオンでいける場合以外は、一切やらなくなったから。
「……」
分かってくれた?
ちなみに、シルビアにスカイラインのシート流用は、当時の雑誌なんかでも紹介されていてメジャーだったらしく、昔は結構多かったらしいけど、兄貴曰く、酷い例だと、ホムセンで売ってる汎用ステーで延長してる車もあったんだって。
時代が大らかだったってのもあるんだろうけど、舐めてるよね。
「恐ろしいっス!」
ななみんでも分かるよね、この意味。
そう、そもそもホムセンの汎用ステーって、穴位置合わせるために、中スカスカだし、しかも、シートレールの後端と、ステーをボルト留めしてるんだから、力はそこに逃げちゃうって事だよね。
ホムセンボルトの強度が、ドライバーの文字通り生命線になっちゃうんだよね。恐ろしや恐ろしや……。
でもね、1つだけそれまでの間、少しでもこの純正シートを有効に使う方法、教えてあげるね。
「なんですか?」
紗綾ちゃんが喰いついてるよ。
この、マークII系の上級グレードについてるパワーシートは、座面の調整も出来るんだよ。
だから、まずは、座面の後ろ側を、限界まで下げてあげるんだ。次に、今度は座面の前側を、自分の運転しやすい中でも限界まで上げてあげると、結構お尻がすっぽりはまって、座面も下がるから、車の動きが少しだけ分かりやすくなるよ。
「凄いっス!!」
そんなに感動されてもちょっと照れちゃうな~。
「マイ先輩は、レジェンドですね。憧れちゃいます!」
あはははは……は、いい気分だな~。
よし、次の走行は、燈梨と2人きりにしてもらって、キャッキャウフフなドライブしちゃお~♪
よし、スタート地点に戻って来たぞ……って、あれ柚月じゃね? アイツ、今日は3年生の活動日でもないのに、なんでこんな所に来たんだろ?
私達3人がチェイサーから降りると、柚月がそれを見てこっちに駆け寄ってきた。
「あ~、マイ、いたいた~」
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