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秋は変化……

ゴリラとお祈り

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 なんだよ、もう水野の結論出てるんじゃん。
 でもってさ、ここの運用については、もう新体制の領分で、私らは手出し無用じゃね?

 「マイ~、冷たいな~。もう関係ないじゃ、みんなが可哀想じゃない~?」

 違うぞ柚月、いつまでも私らが意見を差し挟んでいたら、2年生以下がやり辛いだろーが。
 ななみんと柚月が不仲で意見が割れるように、私と燈梨とだってそうなったら、2年生が忖度するしかなくなっちゃう訳じゃん。

 「私と、ズッキー先輩とは、不仲じゃありません~!」

 そう? ななみんは、かなり遠慮してたけど、この間、噂で聞いちゃったんだよね~。

 『あのゴリラ、いつかブチ殺してやる!』

 って、言ってたってさ~。
 反面、柚月はさ

 『ちょっと強いからって~、調子に乗り過ぎなんだよね~。いつかヤッちゃうしかないかな~』

 って、言ってたし、この部の他に、マゾヒスト部までも乗っ取られるんじゃないかって、気が気じゃないみたいだしね。

 「そんな事、言ってません~!」
 「言ってないもん~! それに、マゾヒスト部なんて無いから~」

 まぁいいや。
 とにかく、柚月は、創部メンバーの上に、上級生って立場だし、ななみん以下を暴力で支配してるから、分からないんだろうけどさ、下のやり辛さってものを理解して、出しゃばらないのが、これからの私らの役目だと思うよ。

 「暴力で支配なんて、してないやい~!」

 そうだっけ?
 部室のロッカーのところに自分の写真貼り出して、下級生に着替えの前には必ず、写真の前に跪いてひざまずいて3回お祈りしろって、言ってるじゃん。しかも、隠しカメラまで仕込んで、お祈りサボった後輩を屋上前の階段室に呼び出してたじゃん。

 「そんな事、してないやい~!」

 私が柚月の説得に手を焼いている中、水野が割って入って

 「舞華君の言う事は、ごもっともだ。しかし、今回は、これから冬を迎えるにあたって、慣れておいた方が良い訓練も含まれているので、3年生の役員2名も招集させて貰った次第だ。 なので、3年生からも忌憚《きたん》のない意見が欲しい」

 と、説明したので、私は納得して矛を収めた。
 すると、水野が続けて

 「申し訳ないが、既に低μ路練習場というのは、確定させて貰っている。他に使いたい用途もあるのだが、何分急遽の話だったので、グラウンド整備の費用がほとんど出なかったのだ。だから、現状維持で考えられる使い方としては、これが最善と思われる」

 と、説明した。
 あぁ、どうせまた学校側の無茶振りだろ。
 活用案で対立したせいで、再来年の春まで、何もできなくなったここの土地を、どこかに管理させようとした時に、自動車部にでも貸して管理させときゃ、しばらくは自動車部も黙らせられるし、土地の管理も委託しないで済むし、一石二鳥じゃね? っていう感じだろ?

 あのさ水野、せっかく部員も運動部の主力並みに揃ってきてさ、学生ジムカーナと軽自動車の耐久レースで、ベテラン社会人チームの中での完走って、大快挙も成し遂げて、雑誌のインタビューまで受けたんだからさ……載るか分からないけど……。
 少しは学校側に強く出ようよ。……すると

 「ただし、今回の数々の実績を、学校側に誇示して譲歩を迫った結果……」

 と、水野が言い出したよ。おっ!? やったじゃん! 部費100万円とか獲得したのかな?

 「グラウンド整備用車と、運搬車の購入費用を捻出することに成功した」

 やったね、これで部費が……って、購入費用に限られての予算捻出だから、他の用途には使えないんだって?
 なんだよー、せっかく、部室にコーヒーメーカー入れようと思ってたのにさー。

 「では、まず時計回りで各自1周してきてくれたまえ」

 なんで、それでここにあるのが、よりにもよってGTEなんだ? これだけ広い土地なんだから、タイプMの方が、パワーが使い切れるんじゃね? むしろ、このGTEだと、パワー足らなくね? と思うのよね。

 メットを被るように言われたので、この間のレースの時に被ったメットを用意したよ。水野曰く、ここでの練習時は必須にするって事だけど、まぁ、ウチの学校の場合は、みんなバイクに乗って来てて、持ってるだろうから問題なしだね。

 私と柚月が乗って、スタートしたよ。

 「どう~?」

 どうって言われても、まぁ、タダの砂利道だよね。
 砂利道って言っても、ほとんど石とかは無くて、未舗装って感じの道だから、石跳ねには気を遣わなくても良さそうだけどね。
 時計回りって言うから、てっきりただの円形の周回コースかと思ったら、結構細々とカーブがあるんだね。まぁ、ミスっても、低めの土手に乗り上げるだけだから、さほどダメージもないけどさ。

 なんかさ、いつもに比べてハンドルが異様に軽いんだよね。……うーん、こう、
なんて言うか、水の上に浮いてるような感じでさ、物凄く軽くて、ホントは、この車、前輪だけジャッキアップしてるんじゃね? みたいな錯覚まで覚えちゃうんだよ。

 ハンドルも軽いんだけどさ、次に感じたのは、ハンドルを切った後の、お尻の動きも軽くてさ、なんか、切ったよりもはるかに激しくお尻が外に振り出されちゃってんだけど、これって、もしかしてドリフト走行ってやつ?
 もしかして、私って、既に初心者の域を超えたプロの走りに目覚めちゃった的なやつじゃね?
 さっきから柚月の奴も

 「マイ~、もうちょっとゆっくり~」

 とか

 「マイ~、リアがスライドしちゃってるよ~!」

 とか言ってるんだけど、別に、私は何も特別な事をしてる訳じゃなくて、車が勝手にそういう風に動いてるだけなんだって。
 現にスピードだって50キロも出てなくて、いたって通常速度なんだからさ。

◇◆◇◆◇

 いくつかカーブをこなしてきて、このコースの特徴が分かっちゃったよ。
 これがダートコースって、やつなんじゃないかってさ。
 そして、雪道もこれに近い感じなんじゃないのかなって、感じがしてきちゃったんだよね。
 ほら、春から秋までの普通の道路を歩く感じと、冬場の同じ場所を歩く時の感覚の違いに似てるよ。冬場は、結構ツルツルしてるし、靴の下に何かを敷いてるような感じがして、歩いた感覚も、軽い感じがするしね。

 となれば、走り方のコツは何となく分かってきちゃったよ。
 都会人は分からないだろうけど、冬場の道の歩き方にはコツがあるのと、歩き方自体が他の季節とは違うから、私ら地元民は、雪道や凍結路で転ばないんだよね。

 だから、この道の走り方も、そのコツに従っていけば良いんだよ、きっと。
 根拠は弱いし、走らせ方も勘でしかないけど、きっとこれで合ってると思う。思い切ってやってみよう。
 この次の右カーブを曲がれば、まっすぐな道なのは、さっき見えたから、ここは早めにハンドルを切っちゃうんだよ。土手にぶつかるんじゃね? くらいの勢いでね。

 「マイーー! ぶつかるーー!!」

 うるさい柚月だな、こっちは計算通りなんだよ。
 それで、この車はLSDのない、オープンデフで、アクセルを踏んでいっても、巻き込みはほとんど起こらずに、カーブの外へと膨らんでいくから、アクセルは一定で踏み続けながら、ハンドル操作で、心持ち壁に向かって行くように調整する。

 「イヤーーーー!!」

 えーい、うるさい柚月! 邪魔するなら降りろ!!

 そして、出口が見えてきたら、ハンドルは、心持ち戻してやりつつ、アクセルも戻してやって、スライドを止めてやるんだけど、全部戻すと今度は反対側に巻き込んじゃうから、こっちも心持ち戻してやって、姿勢が安定するのを待つ。

 だけど、やっぱりここでもLSDの有難みが分かるよね。
 GTEだとLSDが無いから、アクセルを戻してもなかなか後輪が地面を搔いてくれないんだもん。

 よし、ようやくお尻も戻ったし、直線路に入れるね。

 「イヤだーー! 降ろしてーー!!」

 もう、本当に柚月はうるさいなー! 何のために乗ってきたんだよ!!

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