上 下
201 / 296
秋は変化……

MDと黄色い車

しおりを挟む
 燈梨の運転で再出発した、私の車は軽快に山道を走り出したよ。
 室内は、さっきまでも明るくて楽しい雰囲気だったけど、メンバーが変わっても、それは変わらずだったよ。
 
 うん、それで良いんだよ。
 なにせ、ななみんと燈梨は、同じクラスで、且つ同じ部活なんだからさ。その2人が乗る車が、お通夜みたいな雰囲気だったら、私はどう対処すればいいのかで悩んじゃうじゃん。

 ところで、ななみん。
 柚月と2人で、競うように、こっちの車に来たがったけどさ、そんなに優子の車って、雰囲気悪かったの?

 「あの……なんか話題が、優子先輩セレクトの蘊蓄話《うんちくばなし》ばっかりで、私らは、ただひたすら、それを聞いてるだけの……ぶっちゃけ言うと、優子先輩の独演会みたいでした!」

 ななみんが、目を瞑って吐き出すみたいに言っちゃったよ。
 よっぽど酷い空間だったんだね。今度、優子には注意してやらないとダメだね。
 どうにも優子には、暴走癖があるからね。それを止められるのは、私と結衣なんだけど、今日は結衣がいなくて、私も、自分の車だから、優子の方に行けなかったからね。

 え? ちなみに、さっきの休憩所に着く直前までは、MDの歴史について話してたって?
 うわっ! しょーもねー話題だ。絶対に聞きたくないよ、そんな話。

 私らの世代で、MDに親しみある人って、少ないと思うよ~、私ら物心ついたころには、既に廃れてすたれてて、使ってた人いないし、逆に親の世代だと、カセットテープ全盛で、使ってなかったらしいし。
 兄貴は、世代的にハマってたけど、CDから直接聴く派だったから、ほとんど使ったことないって、言ってたよ。

 車のオーディオだって、カセットからCDに移行して、その後の一時期、MDデッキにはなったけど、CD派が結構強くてCDと入れ替われずに、メモリーオーディオが登場すると、CDが残って、MDが消えたような感じだって、兄貴が言ってたよ。

 そんなMDについての蘊蓄を、紅葉を楽しむドライブで延々語るって、優子の神経は、一体どうしちゃってるんだよ? って感じだよね。
 そうだ、MDで思い出したけど、車載MDデッキの第一号は、スカイラインなんだよ。

 「そうなの?」

 そうなんだよ、燈梨。
 R33の純正オプション品に初採用されたんだって。
 ……って、いかん、これじゃぁ、まるで優子みたいじゃないか!

 「いえ、優子先輩のは、ただ延々話してくるだけで、途中で何か話を挟める状況ではなくって……」

 そうなんだ、ななみん。
 私なんかは、優子が何話してようが、無視して違う話を被せてっちゃうけど、ななみんは後輩だから無理か……。

 まぁ、もうMDの話はいいよ。
 ここからは建設的で楽しい話にしようね。

 せっかく、ななみんと燈梨の2年生コンビがいるんだから、若い世代の何かイケてる話題とかは無いの?
 はぁ、特に無いっス……かぁ。
 思うんだけど、あっちの車がお通夜みたいだったのって、当然、優子によるところが大きいんだろうけど、ななみんの話題の無さにも原因があるんじゃないの?

 じゃぁ、少し話題を見つけよう。
 ななみんは、ちょっと先の話になるけど、免許はいつ取れるの?

 「私は、6月生まれです!」

 じゃぁ、すぐに取れるとして、夏には間に合うのか。
 ちなみに、ウチの部の2年生で、一番誕生日早いのって、誰? ちなみに、燈梨以外でね。

 「沙綾っちが、4月生まれなんですよ」

 あぁ、写真部に入りたかったけど、キックボクシングが強すぎて、それが叶わなかったって娘ね。
 確か、ななみんは空手部じゃなかったっけ? 紗綾ちゃんと子供の頃から仲が良くて、昔、陰キャだった紗綾っちって娘を、ななみんが誘って、一緒にキックボクシングやってたって?
 そうなんだ。ちなみにウチって、キックボクシング強豪校だったの?

 「沙綾っちと、私は、同じジムで習ったんですけど、沙綾っちは、その中でも強くて、そのお陰もあって、ウチのキックボクシング同好会は、県内では群を抜いた強さですよ。沙綾っちは、プロのお誘いもあったくらいなんです」

 へぇー、そうなんだ。
 でも、沙綾っちって娘は、元々、虚弱体質を治したくて、ななみんに誘われて無理矢理始めたキックボクシングだったから、高校までで引退して、大学に行ったら普通の女子になりたかったんだって?

 確か、沙綾っちって、ななみんと一緒に、移籍してきた初期メンバーの中の1人だよね?
 キックボクシングの大会とかって、どうしたの?

 「沙綾っちと自分は、夏の大会に出てますよ。その大会で引退して、掛け持ち終了で、2学期から自動車部専任になったんです」

 ななみんって、注意してるんだろうけど、ふと気が抜けた時に、一人称が『私』から『自分』になっちゃうんだね。体育会系の悲しき性《さが》だね。

 ところで、何か欲しい車とかってあるの?
 実はさっき、あやかんと、その話をしてたんだ。

 「う~ん、理想を言えば、フェアレディZとか、ロードスターですけど、それは現実的に無理だと分かってるんで、手近で手に入るとすれば、中古のS660とか、スイフトとか、ですかねぇ……」

 確かに、理想と現実をしっかり見据えた、大人の発言だねぇ。
 高2とは思えないしっかりさんだよ。柚月に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。
 ちなみに、昔、スバルにあった軽自動車レックスの3代目モデルの前期型のCMコピーは『しっかりさんの、しっかりレックス』だったんだよ。
 この3代目レックスが、世界で初のCVT搭載の市販車だったんだ。そして、古手川祐子、松田聖子、山田邦子と、1つのモデルで2度CMキャラが変わったんだよね。

 いかんいかん、優子並みの駄知識を挟んでしまったよ。

 話を戻すと、ななみんは、スポーティで黄色い車が希望か……。

 「いえ、黄色という条件は入ってないです!」

 そうなの?
 でも、黄色そうな車ばっかりだよ。

 「でも、黄色が希望ではないです!」

 なんだ、面白みがないなぁ、どうせななみんは、優子みたいに白い車とか買っちゃって、みんなから鼻をつままれるんだろうなぁ……。
 きっと燈梨からは距離を取られて、沙綾っちには絶交されちゃうよ。
 そして、部内でただ1人孤立したななみんは、世を儚んではかなんで……。

 「なんで、そんな展開になるんですか!」

 え? 柚月とか、いつもこういう話しない? アイツだって、いつもいつも下ネタばっかり言ってる訳じゃ無いっしょ。
 こういう楽しげな話で、みんなの心を解きほぐそうとしてるに違いないんだよ。

 「ズッキー先輩のイメージを、壊さないでくださいよ~」
 
 ななみんたちが持ってる、柚月のイメージが、そもそも分からないけど、柚月は、いつもいつもバカな真似をしては、私と優子が尻拭いをするって、定番の鉄板スタイルだったんだから。
 柚月は小学2年の頃、駅前商店街にあるお洒落な円形の水銀灯を、当時見てたアニメに出てきた、世界を破滅させる水晶玉だって言い張って、高枝切りばさみを改造して作ったロングハンマーでぶっ叩いて粉々に割っちゃったんだぞ。

 「ええっ!!」

 お陰で、止めに入った私たちまで、交番に連れて行かれて、柚月と一緒に思いっきり怒られたんだから。
 しかも、アイツったらさ、警官に向かって『貴様もブラックフェアリーの手先だなぁ~』とか言って、唾吐きかけて、余計怒らせてさ、本当に酷い目に遭わされたんだからさ。

 「ズッキー先輩のイメージが……」

 そうなの?
 私は疑問なんだけど。ななみん達、格闘系の部員に対しての、柚月って、どんな感じなの?
 まさかとは思うけど、よくテレビで見るコーチみたいに、厳つい顔で腕組みしながら練習見てて、気に入らない奴を怒鳴りつけて、挙句、引っ叩いたりしてる様な感じなの?

 「そうです! ズッキー先輩は、準備運動フケようとした後輩に喝を入れようとして、体育館の鉄扉を蹴りでひん曲げちゃいました」

 え? そうなの? 体育館の鉄扉って、結構頑丈なのでしょ。柚月が蹴った時だけ、樹脂製の波トタンか何かに変わってたんじゃね?
 大体柚月の授業中なんて、ポッキー喰ってるか、寝てるかして、先生に小突かれてるし、部に来たら、パンツ脱いでるかしかしてないんだからさ。

 「それが、私たちには、信じられないんですよ~」

 七海ちゃんは、ちょっと目尻に涙を浮かべながら言ったので、恐らく、格闘家の柚月はそうなんだろうね。
 なので、自動車部移籍組の中には、最近、あまりの柚月のギャップに戸惑いを感じてる娘が多いらしいよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...