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秋は変化……

七不思議と電源タップ

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 いやぁ~、楽しみだったんだよねぇ、燈梨のお昼食べるのがさ。
 そりゃぁ、私が言い出しっぺだからね、当然のごとく景色が目的なのは言うまでもないんだけどさ……ペロッ。

 「なんだよ~! マイだって、お昼が目当てだったんじゃん~!」

 バカ抜かせ! 柚月と違って、私は、ドライブが目的で、お昼はそれに付随する楽しみだったの。
 
 私たちは、ちょっと奥に行った広場の茂みの中にレジャーシートを広げてお昼にしたんだ。
 ここからなら、いい眺めも一望できるし、駐車場の騒音や排気ガスも気にならないから、うってつけの場所なんだ。
 え? なんで、こんな穴場を知ってるのかって? それは、私らが地元民だからだよ。

 雑誌やネットで調べた都会人たちは、駐車場脇の広場とかに陣取りたがるけど、あそこはアウトね。
 自販機コーナーがあって、ひっきりなしに人が来るから慌ただしいし、レストハウスを挟むから景色が見え辛いんだよ。
 しかも駐車場から近いから、下手に車が出入りしたり、アイドリングなんかしてると、排気ガス食べてるみたいだし、それよりなにより、人が多くて、せせこましい上に、落ち着かないんだよね。

 そこいくと、ここは奥まって見えないし、そのくせ景色はバッチリだし、私ら以外には2グループいるだけだし、最高だね。
 ここって、小学校の遠足で1回だけ来た事あるんだよ。その時の休憩とお弁当の場所がここだったってわけ。

 よし! 落ち着いてゆっくりできる場所も見つけたところで、いただきま~す!
 
 「どう? まだアパートのキッチンの勝手に慣れないから、上手にできたとは言えないけど……」

 そんな事無いよ! 美味しいよ燈梨、卵焼きは甘くない派だね。お弁当の卵焼きは甘くないのに限るよね。

 「一応、両方作ってきたんだ。もし、良かったら……」

 え? そうなの? それじゃぁ、甘い方も貰おうかなぁ? うん! こっちも美味しいよ! 甘い方も美味しいよね。

 「マイ~! どっちでも良いんじゃん~!」

 違わい! 柚月、どっちも美味しいって言ってるんだよ。柚月なんか、何にも作れないくせに、私の行動にケチつけるんじゃないやい!

 「ううっ! なにも作れないのと、何も言うなってのは関係ないだろ~!」

 そんな事無いね。
 作れないくせに、口だけ一丁前なのはダサいって言ってるんだよ。

 柚月は高1の頃、おばさんが入院して、お昼にサンドイッチ作って来た時、サンドイッチ用のパンを使わずに、普通の食パンを使って作ってきたから、分厚くてパサパサのサンドイッチになって、半泣きになりながら食べてたじゃないか!
 しかも、ツナは和えて作るって事を知らないで、ツナ缶から出したまんまのツナをパンに乗せてきたから、タッパーの中が油まみれになってたじゃん。

 それを聞いた燈梨とあやかんは、口を押えて哀れんだ目つきで柚月を見つめた。

 大体、柚月は卵焼き作れないくせに、私の卵焼き論にケチをつける資格なんて無いんだい!

 柚月は、料理が滅法苦手だ。
 子供の頃から、何を作っても天才的に不味くなったり、調理器具を破壊したりするんだよね。
 ちなみに、柚月のおばさんは、料理上手で、手作りのお菓子とかをよく、振舞っていて、その娘である柚月は、おばさんの手解きを受けているはずなのに、子供の頃から全く変わらずに、私も優子も不思議になってしまうのだ。

 そりゃぁ、私も優子も、そんな柚月を見かねて、一緒に何かを作ろうと誘ってみるんだけど、何故か柚月は、同じ材料を同じ分量使ってるのに、全く違ったものが出来上がってくるのだ。
 何度やっても、こんな調子だから、終いには、私は柚月におちょくられてるんじゃないかと思えてきて、イラっとし、ケンカになって終了してしまうのだ。
 
 「もし、良かったら、一緒に何か作ってみる?」

 燈梨がおずおずと言った。
 ダメだよ燈梨、こんな奴と一緒に料理しても、ド失敗するだけだから。
 コイツにはね、私も、優子も何度も一緒に教えながら、色々な料理にチャレンジしたんだよ。
 だけど柚月は、何を作っても失敗するんだから、ある意味才能だよ。味付け無しの卵焼きでも、トーストでも、何故か失敗して、とんでもない状態の物になってくるんだから。

 それを聞いて、優子も頷いて言った。

 「そうだよね、どうやったら、こうなっちゃうのか訊いてみても、『真面目にやってるもん~!』の一点張りだしね。私は、何度やっても、目玉焼きの黄身が行方不明になるのだけは、柚月七不思議の1つだよね」

 まぁ、柚月七不思議の残り6つは一体何なのか、気にならない事はないけど、確かに優子が言う現象は、私と一緒にやってる時も起こったね。
 何故か、蓋を閉める前にはあったはずの黄身が綺麗に消えて、白身だけの焼きが出来上がってるんだよ。
 目玉焼きの失敗で、黄身が爆発しちゃったり、崩れちゃったりすることはあるんだけど、綺麗さっぱり消えるなんて事は、まずあり得ないんだよ。

 「そうなの? でも、今度七海ちゃんとも一緒にやる約束したし、一緒にさ」

 燈梨はイイ娘だねぇ~。
 こんな奴、放っておけばいいのに、手を差し伸べてくれるなんてさ。
 それとも、もしかして柚月に何か弱味を握られてるの? 部屋に盗聴器とか仕掛けられて、会話を録音されたりとかしたの? それとも、パンツを人質に取られたの? だったら、私に言ってくれれば、コイツなんか、『成敗』して、そこら辺の木に串刺しにして置いて帰ってやるからさ。

 「パンツを人質なんて、マイじゃあるまいし~、誰がやるかっ!」

 柚月ならやりかねないからね。
 『コレ、便利だから~』とか言って、盗聴器仕込んだ三又ソケットとか、引っ越しのお祝いに渡してそうだからな。
 そして、盗聴器で留守のタイミングを見計らって、部屋に忍び込んでパンツを……このっ、人でなし!

 「痛いっ、痛いよ~、なにするんだよぉ!」

 その様子を見ていた燈梨が

 「大丈夫だよ。引っ越しの日に盗聴器が無いことは、確認済みだからさ」

 と言った。
 でも、コイツの事だから、三又ソケットとかを勝手に置いて行ってるかもしれないよ。

 「それも大丈夫だよ。部屋のコンセントは、今のところ、タップ使ってないから」

 そうなの?
 まぁ、柚月の料理は、超弩級に信じられない事が起こるから、心してかかった方が良いよ。

 「それに関しては、同意だね」

 でしょ、優子もそう言ってるからね。
 どうせだったら、柚月の家でやったら良くない? あそこのキッチンなら広いから3人いても動けるよ。

 「それは良いね~」

 だろ、柚月、すべて私のお陰だぞ。
 一生感謝しろよ、奴隷1号。

 「うるさいやい~! どっこもマイのお陰じゃないじゃんか~!」

 なんだと! 燈梨がここに来たのも、今回の料理に誘われたのも、全部私が声をかけたから実現したんだろーが!
 それをまるで自分がやったみたいに、いけしゃあしゃあと、このっ! このっ! こいつめっ!

  秋の良く晴れた爽やかな空の下、私が悪の柚月を必死に抑え込んでいる様子を、みんながお昼を食べながら、にこやかに見守っていた。
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