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秋は変化……
腹痛と問題児
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放せよぉ~! 私はお腹が痛いんだって~!
もし、明日重病になってたら訴えてやるぞぉ~!
「マイ! もう諦めろよ!」
結衣めー、無役で責任が無いから、そんな他人事みたいに言えるんだよ。私の身になってみろっての!
柚月が部室のドアを開けて、その奥にいる人物を見た時、私の目線はそこにいる人物に注がれて止まった。
「燈梨ぃ! 燈梨じゃない!?」
そこには、ウチの学校の制服を着た燈梨の姿があった。
燈梨の前の北海道の高校の制服って、見せてもらったことがあったんだけど、スカートの色合いとチェックのパターン、それからリボンの模様が少し違うんだよね。 ブレザーは同じものと言っていいくらい似てるから、流用できるねって、言ったんだけどね。
いつの間に、転校してきたんだよぉ。
「え? 先週かなぁ、夏休み後に、学校から連絡がきて、秋の初めに編入試験をやりたいからって、言われて試験受けたの。結果は、綾香が、みんなに伝えるからって言ってたから、特に連絡しなかったんだけど……」
燈梨は、驚いたような声で言った。
私は、優子の方をギロっと見た。すると、優子はビクッとして
「ちょっと、ここのところ、ケータイの調子が悪くて、連絡が行ってなかったかもしれないね」
と言って、明らかに誤魔化したような様子だった。
私って、優子に少し甘い顔しすぎだと思うんだよねぇ、優子も柚月みたいに、たまにはパンツ脱いでみる?
「悪気があったわけじゃないんだよ~、ギリギリまで伏せておいた方が、嬉しいかな~って」
やっぱり、そういう事か。
しかも、燈梨本人にまで伏せておくなんて、どういうつもりなんだよ、みんなして。
やっぱり柚月には責任取って、パンツ脱いでもらうしか……っていうか、さっき燃やすって言ったもんね。
「私は~、今週になるまで、知らされてなかったんだよ~、ホントだよ~!!」
柚月は狼狽えながら、必死に後ろに下がっていった。
「それは本当だよ。ユズは、特に顔に出やすいから、昨日の涼香のことがあった後に、呼び止めて話したの」
いつの間にか、本題から外れて裏切り者への制裁の話題でもちきりになってしまっていた。
私は、それを振り払うべく、燈梨の元へと行くと手を取って
「部の大体の流れって、説明したんだよね」
と訊くと
「うんっ!」
と、燈梨は笑顔で答えた。
前から思ってるんだけど、元より美人系の燈梨が、こう、屈託なく笑うと、すっごく綺麗に見えるんだよね。こう、なんて言うか、吸い込まれるような……っていう感じでさ。
よしっ! じゃぁ、早速今やってる活動を見て貰って、流れを掴んでもらうよ。
燈梨と柚月を連れてガレージへと向かう途中で、ふと気になる事があったので訊ねた。
「燈梨って、どの辺に住んでるの?」
「まだ、引っ越しは終わってないけど、麓の小学校の近くにあるアパートだよ」
小学校って、私の家と、柚月の家のちょうど中間くらいにある場所だから、学校からちょっと遠いね。
でも、まだ引っ越ししてないから、山向こうの別荘から通っているらしい。
でもって、そう考えると、おかしなことがあるんだよね。
「じゃぁ、燈梨は車通学なんだよね?」
「うん」
「じゃぁ、車は? 私、さっき駐車場から来たけど、燈梨のシルビアは無かったよ」
すると、燈梨は、ビックリしたような表情を浮かべた後、小さく頷いて「あぁ」
と言うと、へらっと笑いながら
「シルビアは、向こうを出発する時、バタバタしてて、置いてきちゃったんだ。もうしばらくしたら、沙織さん達が、持って来てくれるって。……それで」
「それで?」
「水野先生に、そのことを相談したら『しばらく、これを使いたまえ』って言って、車、貸してくれたんだ。サニーって車」
あれ? 最近、どこかで聞いたような名前の車が出てきたぞ。
「まさか、燈梨の借りてるサニーって、薄い青の混じったグレーで、5速マニュアルなのに、タコメーターが無くて、妙にアルミホイールだけが浮いた感じのじゃない?」
「うん」
私が訊くと、燈梨は頷いて答えた。
水野め、結衣がクーペを潰した時に代車で借りてたサニーを、解体屋さんから横領したな。
それを燈梨に貸して、恩を売って、私の燈梨に『エア風呂』とか、やらせる気に違いないよ!
あの変態教師め! 私が卒業した後、燈梨たちを毒牙に掛けようとしてるのか、抜け目ない奴、今のうちに潰しておかねば……。
「どうしたの?」
燈梨が、私の顔を覗き込んで訊いてきた。
いや、なんでもない、なんでもないよ。ところで、燈梨、生活はどうなの? 困った事とかない?
え? 部屋には家電がついてるらしいから、特に生活で困るような事はないみたいだし、車もあるから、買い物に行くのも、バイトに行くのも困らないって?
え? バイトしてるの? なに? 家賃と学費、生活費は、お兄さんに出させるようにフォックスさんって人と、紘一郎さんって人が決めたんだけど、燈梨自身でも、バイトして、車の費用や貯金にしたいって?
燈梨は偉いなぁ、え? そんな事ない、今まで恵まれてた分、当然だって? そんな事ないよ、燈梨がそれだったら、柚月なんか一生タダ働きだよ。
「なんで私が出てくるんだよ~!」
柚月なんて、子供の頃から、我儘しか言って来なかっただろうが、いつも私と優子に頼りきりでさ。
車買う時だって、駄々こねやがってさ、柚月の車、兄貴に頼み込んで探してくるの、大変だったんだからね。
「あのさ、舞華のお兄さんって、車屋さんなの?」
え? 違うよ。
ウチの兄貴は、この辺では名の売れたスピード狂の、暴走野郎で、数えきれないほどの車やバイクをぶっ潰して、親兄弟に迷惑しかかけてこなかった、とんでもない男だよ、そして、レーサーとして誘われて東京に行ったけど、チームが解散して、今や車とは何の関係もない会社に勤めて、セレナに乗ってるよ。
でも、業界に一時期いたから、その頃のコネクションがあってね、それで、柚月の車を探して貰ったって訳。
さて、そんな男の事は忘れて、部の案内だね。
今は、文化祭準備と、月末の耐久レースの準備をやってるんだ。
この耐久レースで、私ら3年は、実質引退しちゃうからさ、あとは、2年生メインの部になっていくからね。
それで、創部して初めての文化祭だからさ、今年は、車の展示だけかな……って、感じで進んでるんだけど、展示するって決めたら、展示する車はビシッと作ろう、って事で、今、ある部車全部の、外装のやり直しをしてるんだ。
それと、この競技車2台は別スペースで展示するんだ。
このノートで、ジムカーナ大会で3位入賞したから、この車とトロフィーの展示、そして、このエッセで、耐久レースの写真を引き伸ばしたパネルで、雄姿をバチッと掲示するからね。
まぁ、こんな感じ。
部品なんかは、水野に相談すれば、大抵なんとかしてくれるし、それに、山の上にある解体屋さんに行って調達することも多いからさ、今度、そっちにも行こう。紹介しておかないといけないからね。
「うんっ!」
燈梨は、嬉しそうに答えた。
私は、とても言葉に表せないほどの充実感と、嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
昨日とは打って変わって、部活をやってて良かったと、心の底から言える自分に気がついた。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『燈梨は、今どこから学校に通ってるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
舞華は、燈梨の現状を訊きつつ、3年生の紹介をしていきます。
お楽しみに。
もし、明日重病になってたら訴えてやるぞぉ~!
「マイ! もう諦めろよ!」
結衣めー、無役で責任が無いから、そんな他人事みたいに言えるんだよ。私の身になってみろっての!
柚月が部室のドアを開けて、その奥にいる人物を見た時、私の目線はそこにいる人物に注がれて止まった。
「燈梨ぃ! 燈梨じゃない!?」
そこには、ウチの学校の制服を着た燈梨の姿があった。
燈梨の前の北海道の高校の制服って、見せてもらったことがあったんだけど、スカートの色合いとチェックのパターン、それからリボンの模様が少し違うんだよね。 ブレザーは同じものと言っていいくらい似てるから、流用できるねって、言ったんだけどね。
いつの間に、転校してきたんだよぉ。
「え? 先週かなぁ、夏休み後に、学校から連絡がきて、秋の初めに編入試験をやりたいからって、言われて試験受けたの。結果は、綾香が、みんなに伝えるからって言ってたから、特に連絡しなかったんだけど……」
燈梨は、驚いたような声で言った。
私は、優子の方をギロっと見た。すると、優子はビクッとして
「ちょっと、ここのところ、ケータイの調子が悪くて、連絡が行ってなかったかもしれないね」
と言って、明らかに誤魔化したような様子だった。
私って、優子に少し甘い顔しすぎだと思うんだよねぇ、優子も柚月みたいに、たまにはパンツ脱いでみる?
「悪気があったわけじゃないんだよ~、ギリギリまで伏せておいた方が、嬉しいかな~って」
やっぱり、そういう事か。
しかも、燈梨本人にまで伏せておくなんて、どういうつもりなんだよ、みんなして。
やっぱり柚月には責任取って、パンツ脱いでもらうしか……っていうか、さっき燃やすって言ったもんね。
「私は~、今週になるまで、知らされてなかったんだよ~、ホントだよ~!!」
柚月は狼狽えながら、必死に後ろに下がっていった。
「それは本当だよ。ユズは、特に顔に出やすいから、昨日の涼香のことがあった後に、呼び止めて話したの」
いつの間にか、本題から外れて裏切り者への制裁の話題でもちきりになってしまっていた。
私は、それを振り払うべく、燈梨の元へと行くと手を取って
「部の大体の流れって、説明したんだよね」
と訊くと
「うんっ!」
と、燈梨は笑顔で答えた。
前から思ってるんだけど、元より美人系の燈梨が、こう、屈託なく笑うと、すっごく綺麗に見えるんだよね。こう、なんて言うか、吸い込まれるような……っていう感じでさ。
よしっ! じゃぁ、早速今やってる活動を見て貰って、流れを掴んでもらうよ。
燈梨と柚月を連れてガレージへと向かう途中で、ふと気になる事があったので訊ねた。
「燈梨って、どの辺に住んでるの?」
「まだ、引っ越しは終わってないけど、麓の小学校の近くにあるアパートだよ」
小学校って、私の家と、柚月の家のちょうど中間くらいにある場所だから、学校からちょっと遠いね。
でも、まだ引っ越ししてないから、山向こうの別荘から通っているらしい。
でもって、そう考えると、おかしなことがあるんだよね。
「じゃぁ、燈梨は車通学なんだよね?」
「うん」
「じゃぁ、車は? 私、さっき駐車場から来たけど、燈梨のシルビアは無かったよ」
すると、燈梨は、ビックリしたような表情を浮かべた後、小さく頷いて「あぁ」
と言うと、へらっと笑いながら
「シルビアは、向こうを出発する時、バタバタしてて、置いてきちゃったんだ。もうしばらくしたら、沙織さん達が、持って来てくれるって。……それで」
「それで?」
「水野先生に、そのことを相談したら『しばらく、これを使いたまえ』って言って、車、貸してくれたんだ。サニーって車」
あれ? 最近、どこかで聞いたような名前の車が出てきたぞ。
「まさか、燈梨の借りてるサニーって、薄い青の混じったグレーで、5速マニュアルなのに、タコメーターが無くて、妙にアルミホイールだけが浮いた感じのじゃない?」
「うん」
私が訊くと、燈梨は頷いて答えた。
水野め、結衣がクーペを潰した時に代車で借りてたサニーを、解体屋さんから横領したな。
それを燈梨に貸して、恩を売って、私の燈梨に『エア風呂』とか、やらせる気に違いないよ!
あの変態教師め! 私が卒業した後、燈梨たちを毒牙に掛けようとしてるのか、抜け目ない奴、今のうちに潰しておかねば……。
「どうしたの?」
燈梨が、私の顔を覗き込んで訊いてきた。
いや、なんでもない、なんでもないよ。ところで、燈梨、生活はどうなの? 困った事とかない?
え? 部屋には家電がついてるらしいから、特に生活で困るような事はないみたいだし、車もあるから、買い物に行くのも、バイトに行くのも困らないって?
え? バイトしてるの? なに? 家賃と学費、生活費は、お兄さんに出させるようにフォックスさんって人と、紘一郎さんって人が決めたんだけど、燈梨自身でも、バイトして、車の費用や貯金にしたいって?
燈梨は偉いなぁ、え? そんな事ない、今まで恵まれてた分、当然だって? そんな事ないよ、燈梨がそれだったら、柚月なんか一生タダ働きだよ。
「なんで私が出てくるんだよ~!」
柚月なんて、子供の頃から、我儘しか言って来なかっただろうが、いつも私と優子に頼りきりでさ。
車買う時だって、駄々こねやがってさ、柚月の車、兄貴に頼み込んで探してくるの、大変だったんだからね。
「あのさ、舞華のお兄さんって、車屋さんなの?」
え? 違うよ。
ウチの兄貴は、この辺では名の売れたスピード狂の、暴走野郎で、数えきれないほどの車やバイクをぶっ潰して、親兄弟に迷惑しかかけてこなかった、とんでもない男だよ、そして、レーサーとして誘われて東京に行ったけど、チームが解散して、今や車とは何の関係もない会社に勤めて、セレナに乗ってるよ。
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それで、創部して初めての文化祭だからさ、今年は、車の展示だけかな……って、感じで進んでるんだけど、展示するって決めたら、展示する車はビシッと作ろう、って事で、今、ある部車全部の、外装のやり直しをしてるんだ。
それと、この競技車2台は別スペースで展示するんだ。
このノートで、ジムカーナ大会で3位入賞したから、この車とトロフィーの展示、そして、このエッセで、耐久レースの写真を引き伸ばしたパネルで、雄姿をバチッと掲示するからね。
まぁ、こんな感じ。
部品なんかは、水野に相談すれば、大抵なんとかしてくれるし、それに、山の上にある解体屋さんに行って調達することも多いからさ、今度、そっちにも行こう。紹介しておかないといけないからね。
「うんっ!」
燈梨は、嬉しそうに答えた。
私は、とても言葉に表せないほどの充実感と、嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
昨日とは打って変わって、部活をやってて良かったと、心の底から言える自分に気がついた。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『燈梨は、今どこから学校に通ってるの?』など、少しでも思いましたら
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お楽しみに。
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