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秋は変化……

タイヤとたい焼き

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 「マイ~! 大丈夫だった~?」

 柚月が背後から抱きつきながら言ってくるので、柚月の顔を掴んで引き離しながら、言った。

 「それにしても、なんで涼香のやつ、今日になって私に絡んできたの?」

 優子は考え込んでいたが、柚月が、その様子を確認するように見ると

 「香菜美のやつが~、最近、涼香に直接会って、文句言ったらしいよ~。だから、涼香も~、追い込まれてるんでしょ~」

 と、言った。
 香菜美とは、涼香と一緒にバンドを脱退して、停学になった娘だ。
 元から、軽音楽部にいて、私とはウマが合わず、涼香を介しての付き合いになっていたような娘だ。
 停学処分のあと、軽音楽部が廃部になり、学内でのバンド活動で、承認欲求を満たしていたような娘だったので、その拠り所を無くすと、友達も殆どいない彼女は、存在理由を失って退学していったのだ。

 恐らく、バンド解散の失敗の事で、揉めてるんだと思うよ。
 香菜美にしてみれば、解散のせいで、人生ダダ滑りみたいに落ちていっちゃったから、その責任を、涼香に幾らかでも押し付けて、楽になりたいんじゃない?

 「香菜美は、マイの事、やっかんでたからね。あちこちで、マイの悪口とか言いふらしてたしね」

 優子がボソッと言った。
 それは分かるんだよ。後から始めた私が、自分と肩を並べるほどになれば、面白くないし、しかも、連れてきたのが、自分が信頼していた涼香だったってところも、面白くなかったんだろうけどさ、私に言わせれば、香菜美は、自分の技術と知識に溺れすぎてたんだよね。
 香菜美って、みんなで決めた課題曲の練習とかを、バカにしてやらないで、自分の弾きたい曲ばっかり弾いてたから、苦手なところが如実に分かるくらい、演奏に偏りがあったんだよね。
 だから、初心者だから地道に練習してた私に、追いつかれちゃったんだけど、そこで、自分を鼓舞させて練習とかしなかったからね、ハッキリ言えば驕っておごってたんだよ。
 
 「恐らく~、涼香が免許取ったから~、香菜美に接触したんじゃない~? そしたら、八つ当たりされた。だけど~、自分だって推薦無くなって、それどころじゃないのに~って、思って、今度はマイに嫌味でも言いに来たんじゃない~?」

 柚月は、いつも通りのおっとりした口調ながら、ズバッとした内容の分析を、話した。
 うん、私もそう思うよ。涼香の友達って、私と繋がってた娘達ばっかりだったから、私と切れた途端に、その娘達とも切れちゃって、涼香って、友達いなかったと思う。
 だから、私の所に文句言いに来たってお門違いだよ。
 涼香と香菜美は、自分の企みに足元すくわれた、自業自得なんだから、人に当たる前に、少し考える事、あるんじゃないのって、思うのよ。

 「まぁ、一言でいえば、羨ましいんだと思うよ。涼香は」

 優子が一言でピシャっと、締めた。
 そうなんだよね。涼香たちは、あの企みのお陰で、破滅していって、私は、音楽はやめたけど、友達もいて、部活にも打ち込んでいて、その部では大会入賞したりして、順風満帆に見えるんだろうね。
 きっと羨ましいんだろうね、涼香は、それが香菜美に文句を言われた事で、感情が爆発しちゃったんだよね。
 でもね……。

 「だったらさ~、なんで、素直に羨ましいって言わないんだよ~。マイに嫌味言いに来たって、マイにしてやられるか~、私に引っ叩かれるのが、分からないのかな~?」

 私のモヤモヤを、柚月が先に口にした。

 「ユズ、涼香は、プライド高いから、そんなこと絶対言わないと思うよ。あの事件から、友達の1人もいないのが、何よりの証拠じゃない」

 優子がそのままズバリと、柚月に言ってのけた。
 優子って、相手が敵だと分かると、物凄く毒舌になるんだよね。
 恐らく、ここに涼香がいたら泣いちゃうと思うよ。そのくらい酷いんだけど、核心はついてるんだよね。

 まぁ、私も人に羨ましがられてるって事かぁ……。
 全っ然、自動車部なんて羨ましくないんだけどね。

 「その割には、涼香に対して、魅力たっぷりに語ってたよ」

 そ、そんな事ないやい、優子!

◇◆◇◆◇

 涼香の件から一夜明けて、1限の休み時間に水野がやって来て

 「今日、新入部員の案内があるから、舞華君には2をしっかりと頼みます」

 と言うと、スタスタと去って行っちゃったよ。
 ちょっと、水野待ってよ! その件について、ゆっくり話し合いたいことがあるんだよ。
 ……って、悠梨と柚月、何の用?

 「マイ~、昨日発売の雑誌に載ってた、おススメコーデのアクセなんだけどさ~、これって、イアンに入ってる100均のビーズで作れると思わない~?」

 なんだよ柚月、今はそれどこじゃないんだよ! 私の一生がかかった大事な時なんだよ!

 「えぇ~? 今度の土曜に、イアンにラジオの収録見に行くのに、必要じゃね? マイの好きな俳優も来るんだぜ!」

 悠梨、それは昼休みでいいだろ、あぁ……2時限目が始まっちゃったよ。

 ……結局、昼休みに職員室行ったんだけど、水野はいなくってさ、放課後になっちゃったじゃん!

 しかも、柚月をはじめとした、他の3年生も見当たらないんだよね。
 まったく、昨日は涼香に追って来られて嫌味言われる、そして今日は、問題児の入部案内を押し付けられる……ホントに2日続けてついてないね。
 まったく、問題ある生徒の入部なんて、断っちゃえばいいだろ! なんでわざわざ私に、マンツーマンで案内させるんだよ。

 あ、七海ちゃんだ。
 あのね、七海ちゃん、私、今日お腹が痛いから、これから帰らなきゃいけないんだ。だから、新入部員の案内なんだけどね……。

 「せんぱーい! 2年生の新入部員は、部室で待ってるので、お願いしまーす!」

 あ、七海ちゃん! 私の話、聞いてたよね。
 私、今日は部に出られないんだって、七海ちゃん、七海ちゃーん!
 ……ダッシュで逃げられちゃったよ、一体どういう事なんだろう?
 それにしても、いつも私と一緒に部室に行く、いつものメンバーは、一体どこに行っちゃったんだろ?

 待てよ、誰もいないって事は、このまま、帰っちゃおう。
 七海ちゃんには、ちゃんと、お腹痛いって言ってあるし、堂々と帰って問題ないよね。

 靴を履き替えて駐車場までやって来ると、私の車の様子が変だ。
 なんか、左後ろが妙に上がってると思ったら、左後輪がホイールごと無くなっていた。
 車載のパンタジャッキで、上げてあるんだけど、ハンドルの棒が無い。

 誰だ! こんな時に限って、こんなイタズラする奴は!
 テンパータイヤと、車載ジャッキの棒を出そうと、トランクを開けようとした時

 「マイー! どこに行くつもりだよー!」

 と言う声と共に、羽交い絞めにされた。

 「放せ~!」

 と言うと、物陰から、タイヤとジャッキの棒を持った柚月と優子が現れた。

 「マイ~、どこ行くつもりなん~?」
 「マイ、まさか、逃げようってんじゃないよね?」

 ううっ、柚月め、いつぞやの、けったいな京都訛りを使いやがって……。

 「ち、違うよ! お腹が痛いから帰るんだよ!」
 「ウソばっか、さっき、学食でたい焼き買ってただろ」

 悠梨め……学食に、たい焼きがメニューに追加されて、今週は割引があるからって、誘ったのは罠だったのかぁ。

 「たい焼きに当たったんだよぉー!」
 「ウソつくなよ~、たい焼きで食あたりなんか、起こるもんか~!」

 私が言うと、即座に悠梨に打ち消された。
 次の瞬間、柚月はタイヤを私の車に取り付け始めた。
 それと同時に、背後から結衣に、右足を悠梨、左足を優子に押さえられて、私は無理矢理連れて行かれた。
 
 「イヤだ~、人さらい~!」
 「人聞きの悪いこと言うな!」

 結衣にどつかれながら、第二体育館の部室前まで連行された。
 すると、そこには、タイヤ取り付けに残っていたハズの柚月が、先回りしていた。

 「さぁ、マイ~、いこか~!」

 くそぅ、柚月め、あとでパンツ燃やしてやるからな、覚悟しとけよ。
 柚月に悪態をついたその瞬間、勢いよくドアが開いた。
 
 
──────────────────────────────────────
 ■あとがき■
 お読み頂きありがとうございます。

 『続きが気になる』『なんでみんなは、問題児の部活案内に、舞華を必死に連れて行こうとするの?』と、少しでも思いましたら
 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
 よろしくお願いします。

 次回は
 遂に問題児の登場です。
 舞華はその衝撃に耐えられるのか?

 お楽しみに。
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