女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

秋は変化……

前輪駆動と後輪駆動

　翌日の放課後、私と柚月は部車のS14に乗って、ディーラーへと部品を取りに向かった……って、柚月、いつの間にシルビアのフロント周りの色が揃ってるよ。

　「おおーーっ！」

　これで何となくみすぼらしい姿から、ようやくまともな車らしくなったね……でもって、なんか見た感じの印象が変わってない？

　「エアロバンパーに変わってるんだよ～」

　って事は、オプション品なの？
　当初はオプション品だったけど、このK'sエアロってグレードには標準装備だから、この車には、これが本来の姿なんだって？

　「燈梨ちゃんのS14が、そうだったでしょ～」

　あぁ、そう言えば、そうだった気がするね。
　そう言われてみれば、燈梨は、どうしちゃったんだろうねぇ、こっちに転校して来てくれればいいんだけどなぁ……。

　柚月め、余計な事を思い出させやがって、とにかく出発だ。

◇◆◇◆◇

　ディーラーで部品を受け取って来ると、急ぎでガレージまで戻って、部品を2年生に渡したよ。
　昨日のうちに、この作業の監督は、結衣にやって貰う事に決めてたんだ。
　ホラ、どうせ週末から、R32の移植作業で、ミッション載せ替えとかやるからさ、予行演習代わりに、クラッチ交換をきっちり監督として見ておくと、作業のイメージってものが湧いてくるよね。
　バカにしてるようだけど、これって、結構大事な事なんだからね。

　さて、私と柚月は、車をしまってきて、水野に領収書を渡せば完了だね……って、しまった、今日の部品の受け取りと、書類の流れの部分を覚えてもらうために、七海ちゃんにも同行して貰えば良かった……失敗！

　ガレージに戻ると、まだ作業は始まってなかったよ。
　作業の流れはね、そんなに難しくないんだよね。
　
　まずはミッションの後端から生えていて、後輪に駆動力を伝達している、プロペラシャフトを切り離すんだよ。
　次に、ミッションマウントを緩めて、ミッションを傾けてやる。この時、ベストなのはエンジンマウントも緩めて、エンジンごと傾けてあげると、結構、その後の作業が、やりやすくなるよ。

　どしたの、七海ちゃん？

　「前輪駆動(FF)の場合は、プロペラシャフトの工程は、どうなるんですか？」
　
　なるほど、良い質問だし、ちょうどいい機会だから、1、2年生は、ノートが地下が開いてるスペースにあるから、ちょっと全員来てみて。
　
　ノートのエンジンルームの下に来たんだけど、見て分かる通り、殆どのFF車は、エンジンを横向きに搭載してるの。
　その狙いが分かる人、いる？
　おっ、1年生だ、良いね、やる気があって。

　「かさばるエンジンを、横向きに搭載することで、室内を広くするのが狙いです」

　その通り、だから、ミッションは、エンジンルームの助手席側にあるんだよ。
　エンジンが横向きに搭載されてるからね。つまりは、ミッション単体でのマウントが無い代わりに、エンジンごと傾けないと、ミッションが外れないんだよ。
　ついでに言うと、FR車の殆どが、シフトをダイレクトにチェンジしているのに対して、FF車は、ワイヤーで操作しているからね。

　で、七海ちゃんの質問に対する答えは、その工程は無しだよ。
　見てみて、ここがミッションで、直接左右のタイヤにドライブシャフトが生えてるでしょ、エンジンで作られた動力を、ミッションで変換して、ドライブシャフトで伝えて前輪を回す。
　これが、FF車の走る仕組みだよ。

　柚月ー、ノート出して、何かスカイラインと入れ替えてー。
　おっ、GTEだね。
　みんな見てね、このクルクル回ってるのがプロペラシャフトで、その先端についているデフで変換して、ドライブシャフトで左右の後輪に動力を伝えているんだよ。
　え？　FF車のデフは、何処にあるんですか？　それは、ミッションの中だよ、FF車はあの小さなミッションの中に、変速とデフの機能を内包してるんだよ。

　さて、これがミッションで、このエンジンとの境目にクラッチがあるんだよ。
　なので、最初のプロペラシャフトを切り離して、ミッションの端の方に橋のように渡してある、ミッションマウントを緩めてあげて、ミッションを傾けるんだよ。
　すると、ミッションとエンジンを留めているボルトが、ミッションをぐるっと囲むようにあるから、外していってやる。
　ミッションの上の方を留めているボルトは、下からでは手が入り辛いし、目視も不可能になるので、結構大変になるよ。

　「だから、エンジンを傾ける必要があるんですね」

　う～ん、七海ちゃん。それだと50点だね。

　「えっ！？」

　エンジンとミッションは、動力をシャフトで伝えてるから、ミッションは、エンジンに対して、シャフトで突き刺さってる状態なんだよ。
　だから、抜き差しする時は、真っ直ぐに近くしないと、抜けないし、刺さらないんだよ。

　「なるほど～」

　基本構造は大体分かったね。
　この基本構造を、なんとなくでも理解することによって、整備のコツとか、マニュアルに書かれている事の意味とかが、理解できるようになるでしょ。
　これを踏まえて、作業を開始するからね。

　私が上に上がると、結衣がぽけーっと、こっちを見ていたので、言った。

　「結衣さ、他人事みたいに上で見てたけど、ちゃんと理解してるよね？　説明は、私が流れでやっちゃったけど、ここからの監督は結衣だからね」
　「う……うん」

　よし、クラッチ交換の監督は結衣に任せてと、悠梨、プレミオとか、どう？　カッコ良くなりそう？
　……って、結構カッコ良くなってない？　まだ、塗装にかかってないけどさ、ホイールが替わって、車高が下がっただけでも、充分、カッコ良いね。

　そう、すっかりみんなに言うのを忘れてたんだけどさ、夏休みに解体屋さんでバイトした時、アリオンって車の解体車が入ってきて、おじさんが言うには、プレミオと姉妹車だって言うんで、ダウンサスと、タイヤとホイールを貰ってきちゃったんだ。
　おじさんがゴミ山に捨てようとしてたからさ、プレミオの話したら

　「ゴミだから、持ってってくれると、ありがたいなぁ～」

　って、言ってさ。
　おじさん言うには、この辺は降雪地帯だから、プレミオやアリオンをいじる人なんていないんだってさ。
　分かるよ、だって、校長が乗るような車だもんさ、だってね、どうせあの校長の事だから、クラウンが良かったんだけど、FRだからって理由で、プレミオにしたんだと思うよ。
　あの校長は、カムリとか乗りそうに見えないしね。『内装に高級感が無い』とか言っちゃってさ。

　これだけでも、ちょい渋系で、カッコ良いんだけどさ、ここから悠梨先生の、抜群のセンスで仕上げて頂戴よぉ。

　「任せとけってぇ～！」

　悠梨のエリアを出て、練習場を歩いて1周して、ガレージに戻ると、柚月と優子が私の方へと歩いてきて

　「何やってるの？」

　と、声をかけてきた。
　なので、私は言った。

　「普段の活動において、大体何人くらいの監督者がいれば、部が回るのかを見てるんだよ。柚月には、昨日言ったけど、次期役員の配置と選出があるからね」

　すると、優子は

　「どういう風に考えてるのかを、訊かせてもらって良い？」

　と、訊いてきたので、私は、昨日、柚月に話した概要を話した。
　優子は、私の話を頷きながら訊いていたが、私の話が終わると

　「ちょっと、私の意見を言っても良い？」

　と言ってきたので、私は優子の意見を聞くことにした。


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　■あとがき■
　お読み頂きありがとうございます。

　多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
　この暑さの中でも、創作の励みになります。

　次回は
　遂にクラッチ交換に入りますが、優子と舞華の役員会議も同時進行していきます。
　お楽しみに。