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夏は休み
温泉街と動画と卓球
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チェックインをして、部屋に向かったんだ。
今回の部屋割りは、私、悠梨、柚月の3人部屋と、結衣、優子の部屋にしたんだ。
かなり思い切った部屋割りだけど、ここまでしないと、事態は動かないだろうし、この部屋割り自体は、優子だって一緒に決めたんだから、決して無理矢理やったって訳じゃないんだよ。
それで、メインイベントの花火はね、部屋の窓から見えるんだって、だから、わざわざ外に行かなくても、いや、むしろ外に行くよりも近くで見られるから、その時間は、部屋の中にいるのがお勧めだって、ホテルの人が言ってたよ。
まだ、外も明るいからさ、ちょっとこの辺の温泉街をブラブラと楽しまない?
という事で、みんなでロビーで待ち合わせて、その辺をブラブラとしてみることにしたよ。
たまには、こういうひなびた所ってのも、良くない? 普段は、イアンモールだの、アウトレットだのと行きまくってる私らとしては、なかなか新鮮じゃね?
なんかさ、普通だね。
足湯とかがあって、今っぽいよね。
私のイメージする温泉街ってのはさ、浴衣を着た人達がゾロゾロと歩いてて、橋の下からは、湯けむりがもうもうと立ち昇りの、道の両脇には同じようなものしか売ってないお土産屋さんが乱立して、ちょっと行くとストリップ小屋があってさ、そして、極めつけは、バブル崩壊の影響で、華々しく散った、大型観光ホテルの廃墟が乱立してる……そう、そんな感じなんだけどさ。
「マイさ、温泉街に対して偏見があり過ぎじゃね?」
なんだと悠梨、そんな事はないぞ、私の知る湖畔の温泉街はだな……
「分かるよ、マイが言ってる湖畔の温泉街が、何処の事かは、日本海側の某所なんだろうけど、こことは、事情が違うからね」
優子め、場所はそこで合ってるよ。
だけどさ……
「どうせ、マイは、動画投稿サイトにアップされてる廃墟探索動画とか見てるんだろ~『秘境の巨大温泉宿〇×ホテル』とかさ~」
うるさいやい! 結衣、そんなもん見てないやい、大体、なんで具体的なホテルの名前まで知ってるんだよ。
どうせ、結衣が見てるんだろ。この間、学校でスマホ見ながら『またねん♪』とか、言ってたじゃんか!
スキありっ! 結衣のスマホを奪ったぞ、柚月、結衣を押さえておくんだよ! さもないとパンツの命が……。
「イエッサー!」
「柚月ー! てめー!」
どれどれ……ホラ見ろ、『あなたへのおすすめ』のトップが『秘境の巨大温泉宿〇×ホテルsection12』になってるぞ、しかも、次点が『秘境の巨大温泉宿〇×ホテル従業員寮』になってやがるぞ!
やっぱり、廃墟探索動画見て、廃墟ホテルに欲情してるのは結衣じゃんか、どうせ今日泊まるホテルだって、廃墟になった後の事とか考えながら泊まってるに違いないよ。
現役稼働時は立ち入りできない従業員区画とか、どうなってるのか想像してハァハァしてるんだろ? 結衣の変態!
「マジ引くわー」
「結衣さ、いくらなんでも、自分の趣味を、マイに押し付けるのは良くないよ」
「結衣の、廃墟探索マニア~」
結衣は、形勢が逆転して、悠梨、優子、柚月にいじられまくっていた。
どうせ、結衣のやつ、手近なところで、みんなで8の字やってるタレントショップの廃墟とか入って、廃墟探索動画ごっことか、してるんじゃね?
ジョークのつもりで言ったのだが、結衣が俯いて耳まで真っ赤になったのを見て、私は言った。
「柚月! もう1回だ!」
「ラジャー!」
「やめろ……むぐぅ」
悠梨がスマホを操作していると、唯一の動画ファイルを見つけて再生した。
そこには、例のタレントショップの中とおぼしき廃墟の入口ドアが映っていた。
そして、結衣の声で
『おはようございま~す。今日は、大型のタレントショップに来てます。……有名だから、敢えて名前は言いませんけどぉ、この特徴ある壁の色でお察しください。それじゃぁ、行ってみようと思いま~す』
と言って、廃墟の中を探索する結衣の画像があったんだよ。
あぁ、やっちゃったよ。結衣ったらさ、これじゃ、まるで、あの廃墟動画みたいだよ。
もう、結衣ったら、こんなものにかぶれちゃダメだよ、これで、有名な動画投稿者になろうってか? 全国の廃墟を制覇するつもり? 廃墟は危険なんだからね。柚月みたいに閉じ込められたりしちゃったらどうするの?
「そうだよ~、得体の知れないモノが部屋の中にいたりするんだぞ~」
うん、結衣のためだから同意するけどさ、一体、柚月はあの時、何がいたって言うんだろうね? いまだに謎なんだよね。
さて、結衣の説得も無事済んだようなので、足湯ってやつを初体験して、温泉まんじゅうを食べつつ、他にもなんかスイーツを求めてあちこちブラブラしてみたんだけど、なかなかイケてるスイーツは無かったんだよねぇ……。
◇◆◇◆◇
ふぅ~っ、そして、帰ってきてから、すぐまた温泉に入っちゃったよ。
でもさ、折角の温泉宿なんだから、入れるだけ温泉に入っておいた方がお得じゃね?
「お得かどうかって、観点だけで、ふやけるまでお風呂に入るのは、どうかと思うぞ?」
悠梨、いくら私でも、そんなスーパーのサッカー台にある、ロールの透明ビニール袋を無意味にたくさん取ってるおばさんじゃないんだからさ、そんな観点だけで無闇に入ってる訳じゃないよ。
でもって、する事がないんだよ。そんなこと言う悠梨だって、入ってるじゃん。理由は同じハズだよ?
「ううっ……まぁ、そうだけどさ」
やっぱり、そうなんじゃん!
だったら、私に妙なちょっかいなんか出さないで、堪能してればいいんだよ。
やっぱり湖畔のホテルだけあって、大浴場の大きな窓からは、一面に湖が広がっていて、眺めが良いよね。
お風呂から上がると、柚月が私たちを待ち構えていた。
「マイと悠梨、私と勝負して勝たないと、ここは通さないよ~」
と、卓球のラケットを構えながら言っていたが、私らは、両脇を通り抜けてスルーした。
「なんで勝負しないんだよ~」
柚月は喚いていたが、私たちは、それを無視して、コーヒー牛乳を手に、乾杯した。
「折角お風呂上がったのに、そんな汗かいて、お風呂に逆戻りするバカが何処にいるんだっての? どうせ、柚月は本気でやるに決まってるしな」
悠梨に言われて、柚月は反論できずに、下を向いてしまった。
◇◆◇◆◇
夕飯のお肉、結構美味しかったね。
牛肉って、煮たり焼いたり、バリエーションは色々あるんだけどさ、ただ焼くだけで、味付けは塩っていう食べ方もあるんだね。
その味付けの塩も、柚子胡椒とか、わさび風味のとか、色々あってさ、なんか色々凄かったよ。
新たなお肉の魅力の開拓ってやつだね。
「でもって、それは、新鮮で、なおかつ美味しい肉に限るけどね~」
分かってらい、柚月。
でも、美味しかったなぁ……家で1人で食べようとしても、きっと芙美香に見つかって、取り上げられちゃうだろうしなぁ……。
さて、そろそろ花火の時間だよ。
折角だから、みんなで見たいからね、私らは、先に飲み物を買いに行ってから、結衣と優子のいる部屋へと行ったんだ。
「楽しみだね~」
優子が珍しくウキウキしながら言ってるよ。
優子って娘は、努めて無表情を貫くクールビューティーを、子供の頃から気取ってるから、そうそう表情に表して嬉しそうにしないんだよ。
つまりは、可愛げのない子供だったって事だよ……って、痛いなぁ。え? 黙って飲み物よこせだって? そんな優子には、わさびサイダーを渡してやる。
みんなでベランダに出て外を眺めながら、開始を待っていた。
なんかさ、私が言い出したから渋々……みたいなオーラを出してたけどさ、やっぱりみんなだって、期待してたんじゃん。
やっぱり夏は、花火だよね。
私たちの期待は、マックスまで登り詰めたんだ。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
この暑さの中でも、創作の励みになります。
次回は
遂に花火が始まり、舞華たちの夏休みの最後のイベントが更けてゆきます。
最後の夏を堪能した5人の締めの姿。
お楽しみに。
今回の部屋割りは、私、悠梨、柚月の3人部屋と、結衣、優子の部屋にしたんだ。
かなり思い切った部屋割りだけど、ここまでしないと、事態は動かないだろうし、この部屋割り自体は、優子だって一緒に決めたんだから、決して無理矢理やったって訳じゃないんだよ。
それで、メインイベントの花火はね、部屋の窓から見えるんだって、だから、わざわざ外に行かなくても、いや、むしろ外に行くよりも近くで見られるから、その時間は、部屋の中にいるのがお勧めだって、ホテルの人が言ってたよ。
まだ、外も明るいからさ、ちょっとこの辺の温泉街をブラブラと楽しまない?
という事で、みんなでロビーで待ち合わせて、その辺をブラブラとしてみることにしたよ。
たまには、こういうひなびた所ってのも、良くない? 普段は、イアンモールだの、アウトレットだのと行きまくってる私らとしては、なかなか新鮮じゃね?
なんかさ、普通だね。
足湯とかがあって、今っぽいよね。
私のイメージする温泉街ってのはさ、浴衣を着た人達がゾロゾロと歩いてて、橋の下からは、湯けむりがもうもうと立ち昇りの、道の両脇には同じようなものしか売ってないお土産屋さんが乱立して、ちょっと行くとストリップ小屋があってさ、そして、極めつけは、バブル崩壊の影響で、華々しく散った、大型観光ホテルの廃墟が乱立してる……そう、そんな感じなんだけどさ。
「マイさ、温泉街に対して偏見があり過ぎじゃね?」
なんだと悠梨、そんな事はないぞ、私の知る湖畔の温泉街はだな……
「分かるよ、マイが言ってる湖畔の温泉街が、何処の事かは、日本海側の某所なんだろうけど、こことは、事情が違うからね」
優子め、場所はそこで合ってるよ。
だけどさ……
「どうせ、マイは、動画投稿サイトにアップされてる廃墟探索動画とか見てるんだろ~『秘境の巨大温泉宿〇×ホテル』とかさ~」
うるさいやい! 結衣、そんなもん見てないやい、大体、なんで具体的なホテルの名前まで知ってるんだよ。
どうせ、結衣が見てるんだろ。この間、学校でスマホ見ながら『またねん♪』とか、言ってたじゃんか!
スキありっ! 結衣のスマホを奪ったぞ、柚月、結衣を押さえておくんだよ! さもないとパンツの命が……。
「イエッサー!」
「柚月ー! てめー!」
どれどれ……ホラ見ろ、『あなたへのおすすめ』のトップが『秘境の巨大温泉宿〇×ホテルsection12』になってるぞ、しかも、次点が『秘境の巨大温泉宿〇×ホテル従業員寮』になってやがるぞ!
やっぱり、廃墟探索動画見て、廃墟ホテルに欲情してるのは結衣じゃんか、どうせ今日泊まるホテルだって、廃墟になった後の事とか考えながら泊まってるに違いないよ。
現役稼働時は立ち入りできない従業員区画とか、どうなってるのか想像してハァハァしてるんだろ? 結衣の変態!
「マジ引くわー」
「結衣さ、いくらなんでも、自分の趣味を、マイに押し付けるのは良くないよ」
「結衣の、廃墟探索マニア~」
結衣は、形勢が逆転して、悠梨、優子、柚月にいじられまくっていた。
どうせ、結衣のやつ、手近なところで、みんなで8の字やってるタレントショップの廃墟とか入って、廃墟探索動画ごっことか、してるんじゃね?
ジョークのつもりで言ったのだが、結衣が俯いて耳まで真っ赤になったのを見て、私は言った。
「柚月! もう1回だ!」
「ラジャー!」
「やめろ……むぐぅ」
悠梨がスマホを操作していると、唯一の動画ファイルを見つけて再生した。
そこには、例のタレントショップの中とおぼしき廃墟の入口ドアが映っていた。
そして、結衣の声で
『おはようございま~す。今日は、大型のタレントショップに来てます。……有名だから、敢えて名前は言いませんけどぉ、この特徴ある壁の色でお察しください。それじゃぁ、行ってみようと思いま~す』
と言って、廃墟の中を探索する結衣の画像があったんだよ。
あぁ、やっちゃったよ。結衣ったらさ、これじゃ、まるで、あの廃墟動画みたいだよ。
もう、結衣ったら、こんなものにかぶれちゃダメだよ、これで、有名な動画投稿者になろうってか? 全国の廃墟を制覇するつもり? 廃墟は危険なんだからね。柚月みたいに閉じ込められたりしちゃったらどうするの?
「そうだよ~、得体の知れないモノが部屋の中にいたりするんだぞ~」
うん、結衣のためだから同意するけどさ、一体、柚月はあの時、何がいたって言うんだろうね? いまだに謎なんだよね。
さて、結衣の説得も無事済んだようなので、足湯ってやつを初体験して、温泉まんじゅうを食べつつ、他にもなんかスイーツを求めてあちこちブラブラしてみたんだけど、なかなかイケてるスイーツは無かったんだよねぇ……。
◇◆◇◆◇
ふぅ~っ、そして、帰ってきてから、すぐまた温泉に入っちゃったよ。
でもさ、折角の温泉宿なんだから、入れるだけ温泉に入っておいた方がお得じゃね?
「お得かどうかって、観点だけで、ふやけるまでお風呂に入るのは、どうかと思うぞ?」
悠梨、いくら私でも、そんなスーパーのサッカー台にある、ロールの透明ビニール袋を無意味にたくさん取ってるおばさんじゃないんだからさ、そんな観点だけで無闇に入ってる訳じゃないよ。
でもって、する事がないんだよ。そんなこと言う悠梨だって、入ってるじゃん。理由は同じハズだよ?
「ううっ……まぁ、そうだけどさ」
やっぱり、そうなんじゃん!
だったら、私に妙なちょっかいなんか出さないで、堪能してればいいんだよ。
やっぱり湖畔のホテルだけあって、大浴場の大きな窓からは、一面に湖が広がっていて、眺めが良いよね。
お風呂から上がると、柚月が私たちを待ち構えていた。
「マイと悠梨、私と勝負して勝たないと、ここは通さないよ~」
と、卓球のラケットを構えながら言っていたが、私らは、両脇を通り抜けてスルーした。
「なんで勝負しないんだよ~」
柚月は喚いていたが、私たちは、それを無視して、コーヒー牛乳を手に、乾杯した。
「折角お風呂上がったのに、そんな汗かいて、お風呂に逆戻りするバカが何処にいるんだっての? どうせ、柚月は本気でやるに決まってるしな」
悠梨に言われて、柚月は反論できずに、下を向いてしまった。
◇◆◇◆◇
夕飯のお肉、結構美味しかったね。
牛肉って、煮たり焼いたり、バリエーションは色々あるんだけどさ、ただ焼くだけで、味付けは塩っていう食べ方もあるんだね。
その味付けの塩も、柚子胡椒とか、わさび風味のとか、色々あってさ、なんか色々凄かったよ。
新たなお肉の魅力の開拓ってやつだね。
「でもって、それは、新鮮で、なおかつ美味しい肉に限るけどね~」
分かってらい、柚月。
でも、美味しかったなぁ……家で1人で食べようとしても、きっと芙美香に見つかって、取り上げられちゃうだろうしなぁ……。
さて、そろそろ花火の時間だよ。
折角だから、みんなで見たいからね、私らは、先に飲み物を買いに行ってから、結衣と優子のいる部屋へと行ったんだ。
「楽しみだね~」
優子が珍しくウキウキしながら言ってるよ。
優子って娘は、努めて無表情を貫くクールビューティーを、子供の頃から気取ってるから、そうそう表情に表して嬉しそうにしないんだよ。
つまりは、可愛げのない子供だったって事だよ……って、痛いなぁ。え? 黙って飲み物よこせだって? そんな優子には、わさびサイダーを渡してやる。
みんなでベランダに出て外を眺めながら、開始を待っていた。
なんかさ、私が言い出したから渋々……みたいなオーラを出してたけどさ、やっぱりみんなだって、期待してたんじゃん。
やっぱり夏は、花火だよね。
私たちの期待は、マックスまで登り詰めたんだ。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
この暑さの中でも、創作の励みになります。
次回は
遂に花火が始まり、舞華たちの夏休みの最後のイベントが更けてゆきます。
最後の夏を堪能した5人の締めの姿。
お楽しみに。
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