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夏は休み

人間地雷大会とターニングポイント

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 私は、そこまで優子の話を訊いた後、今度は優子に訊いた。
 ねぇ、優子さ、なんで、昨日は柚月の車を尾けてたのかな?

 「別に、尾けてなんかないよ!」

 狼狽しながら答えた優子に、私は表情1つ変えずに言った。
 そう? 私、確かに、昨日途中まで、白いR32に尾けられてたのを見てるんだけどなぁ~。
 この辺で、白いR32って、今や、優子の車くらいしか見た覚えないんだけどなぁ……。
 私がニタニタしながら、声のトーンを若干上ずらせて言うと、優子は、若干顔を赤くしながら

 「マイたちだって、私の車を撒いたでしょ! やましい事してる証拠だよっ!」

 と、今までより若干大きい声で言い放った。
 よし、引っかかった。
 優子はね、自分では、相手を罠にハメるような誘導をするんだけど、自分がハメられれた経験値が少なすぎるから、逆に罠にハメてやると、あっさりボロを出すんだよね。

 なので、敢えてトーンを一切変えずに言って放った。
 別に、撒いたりしてないんだけど。
 柚月と車の中で『どっちの20DETの方が速いか』って話してて、私の方が当たりエンジンっぽいし、2WDで軽いから、って話してたら、柚月が『そんな事ないもん~!』って、言って、飛ばし始めただけだし~。

 「ううっ……」

 って事はぁ? ホムセンの駐車場で、柚月の車、見かけたってのも、嘘なんだぁ~、優子マジで感じ悪っ!
 
 「……!」

 よしっ! 優子は落ちたね。
 こっちから訊き出していくよ。

 大体さ、なんで優子は、私らを尾けるのよ。
 私らは、優子から、尾けられる理由なんて無いんだけど?

 追い込んでいった結果、ようやく優子は吐いたよ。
 やっぱりきっかけは、柚月のLINEで、結衣の車が潰れたんじゃないかって、思って、探っていたらしい。
 でも、結衣に直接訊いても教えてくれないだろうから、ネタ元の柚月から直接訊き出そうとしたのが、昨日の行動の全てらしい。

 まったく、柚月は余計な行動しかしないよね。
 でもって、優子には、まだ話したくないって、いう結衣の意志もあるし、この2人のギクシャクしたところもあるからさ、しばらくは結衣の事は気付いてないフリだよ。

 あのさ、優子。
 私のところには、柚月から、そんなLINE来てないんだよ。
 アイツが、優子の事、からかったんじゃないの?

 「確かに、30分ぐらいしてから『ガセネタでした』って、スタンプが来たんだけど、私をからかうだけにしては、嘘が悪質過ぎない?」

 うーん、優子鋭い、確かにそうなんだよねぇ、だから、私も困っちゃってるんだよねぇ……よし!
 でもさ、優子、これ一昨日でしょ? 一昨日は、私、柚月と部の用事で、学校に行ってたよ、例の耐久レースの走行順の打ち合わせとかでさ。
 その後で、部車のS14の外装部品があるからって、解体屋さんに行ってきたんだよ。恐らく、時間的に、柚月、そこから打ったんじゃない?

 「でも、なんで、こんな内容なのよ?」

 解体屋さんに行ったら、ちょうどそのタイミングで、おじさんが、事故車の引き取りに行くって、1時間以上待たされた挙句、帰ってきたおじさんから、忙しくなるから帰ってって、言われちゃって、私ら、ちょっとムカついてたから、恐らくそれで、そういうLINE送ったんだと思うよ。

 うん、これも、昨日3人で打ち合わせして、しっかり落としこんでおいた事なんだよ。だから、揺らぎはないよ。
 むしろ、私監修で補強してあるから、綻びは無いはずだね。

 さて、今度は、優子側のケアをしないとね。
 夏休み前から続く、この2人のゴタゴタを解決しない事には、目前に迫った温泉旅行と、その後の耐久レースの2大イベントが、人間地雷大会みたいになっちゃうじゃん! 

 なんかさ、最近の優子って、結衣の事になると、妙にムキになってさ、マジでおかしいよ。
 この間の、ファミレスの事だってそうだしさ、なんでみんなの前で、わざわざ、ギスギスする必要があるのよ。

 「だって、それは……結衣が、私の車に妙に突っかかってきてさ……」

 やっぱり、この2人の話って、堂々巡りになっちゃうんだよね。
 でも、私は第三者だから、根本の原因は分かるんだ。
 だから、これから、そこに切り込んじゃおう。
 いや、切り込まないと、永遠にこの2人は、すれ違ったままになっちゃうよ。

 あのさ、優子、この際、ハッキリ言っておくけど、根本の原因って、優子だからね。

 「えっ!?」

 優子が、自分の車の事、結衣たちに、しかも結果的には、結衣にだけ隠してたでしょ。
 そりゃぁ、面白くないよ。だって、自分だけ知らない状態で、優子は車作っちゃってるし、しかも同じNA同士で、しかも排気量では勝ってるけど、優子の車は隠しててた上に、伯父さんの車でさ、謎だらけで、結衣は気になるに決まってるじゃん

 「でも、私のだってノーマルに近いじゃん。信じない結衣がいけないんだよ!」

 それが、優子のいけないところだよ。
 隠してたんだから、それなりのものを出してきたと思うのが普通でしょ?

 「そんな……」

 そんなもこんなも無いでしょ、私らって、仲良しのグループでしょ?
 なんで、悠梨が作業に参加する事になった段階で、結衣も入れなかったの?
 だって、バイクの時は、結衣に頼ってたでしょ!

 「だって、車だと私のが劣ってるなんて、嫌だったんだもん……」

 ホラ見ろ、やっぱりプライドの問題だよ。
 これが、問題を根深くさせた理由なんだよ。
 柚月の言う通り、これでどっちかがターボだったら、ここまで話はこじれなかったかもね、でもって、起こった結果はどうしようもないからね。
 ここは一気に畳みかけちゃうよ。

 そんなの優子の個人的な感情で、結衣にしてみれば、突然、優子が意地悪になったとしか思えないよね。
 それで、そういう雰囲気を結衣に対して出してるから、最近ギクシャクしてるんでしょ!
 結衣にも悪いところが無いかと言えば、決してそうじゃないけど、やらせたのは優子だよ。

 「……私?」

 そう、優子だよ。
 今回だって、私ら、誰ともなく言い出して、話し合ったんだから、花火に行く時は、私ら3人の中で車を出して、結衣と優子には、車を出させないって、アンタら2人の妙な意地の張り合いが、他の3人に、気を遣わせるほどにまでなってるの、分かる?

 このまま、この状態続けていくと、部活にも影響出るんだよ。
 この間の、耐久レースの出走順の編成会議、決まらなくて持ち越しになっちゃったんだからね。

 「えっ!?」

 私は、この間の会議内容を優子に話した。

 「そう……なんだ」

 分かる?
 結衣の精神が完全に不安定だから、走りがおかしくなっちゃってて、下手すると、優子も耐久レースに泊まりがけで行くのに、出走順が来る前に、結衣に車、潰されて、骨折り損のくたびれ儲けになっちゃうかも……なんだからね。
 みんなに影響出るんだからね。

 「どう……すれば良いの?」

 それは、優子次第でしょ。
 言い方キツイけどさ、いつも優子って、私らの言う事、無視して突っ走ったくせに、困った状況になると、私と柚月に助け求めてくるじゃん。

 山之内に告られた時も、私と柚月、悠梨も言ったハズだよ、アイツは、女にだらしないって、なのに突っ走った挙句、関係ない綾香って娘に絡みに行ってさ、大騒ぎした挙句、私と柚月とで、山之内、囲んで、話しつけに行ったんでしょ!
 こればっかりは、優子次第だよ。どうしたいの?

 優子は、しばらく俯いた。
 優子はプライド高いからね。子供の頃から、泣く時はこうやって俯いてるように見せて、絶対に涙とか見せないように泣くんだよね。

 これで、なんとかなった。
 私は、そう確信して、トイレに行こうと、部屋を出た。

 ドアを開けたすぐ脇に芙美香が立っていた。
 うわっ、なんだよ! 危ないじゃん!
 なに? アンタが、入り辛そうな雰囲気にしてるのが悪いんでしょ、だって?
 はぁ? まさか中の話、聞いてたの? マジサイテーなんですけど!
 え? アンタが代わりに飲み物とお菓子持って行きなさい、だって? ちょっと待ってよ、私はトイレなんだけど、なに? アンタ、子供の頃は、よく廊下で漏らしたでしょ、だと?
 子供の頃と、今とじゃ、影響力が違うだろーって、さっさと行っちゃったよ。
 仕方ないなぁ……。

──────────────────────────────────────
 ■あとがき■
 お読み頂きありがとうございます。

 多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
 この暑さの中でも、創作の励みになります。

 次回は
 遂に、花火大会に向かいます。
 お楽しみに。
 
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