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夏は休み

FBIと秘密のマシン

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 やっぱりだ。
 嫌な予感は的中して、優子は柚月を張ってたに違いない。

 「どうしよう~?」

 LINEで結衣に訊いたところ、優子から結衣に対してはアプローチが無いらしいから、優子は、私らを押さえて、現行犯で、このことを暴き出そうって、つもりだよね。
 なんだよ、尾けられてたんじゃないかよ、柚月のバカー!

 「なんでバカなんだよ~」

 バカじゃなくて、何だってんだ? 柚月の軽率な行動のおかげで、今、まさに危機的状況に陥ってるんじゃん! どうしてくれるんだよ? 私らがFBIの捜査官だったら、2人とも蜂の巣だぞ、柚月のバカー!

 「なんだよー! FBIじゃないだろー! マイのバカバカー!」

 柚月のバカバカバカー!

 「マイのバカバカバカバカー!」

 柚月のバカバカマゾのバカバカバカー……っと、結衣からLINEだ。
 この危機的状況になっても、結衣へ状況報告のLINEをしてたんだよね。
 さっすが優秀な捜査官の私だよ、そこの銃撃戦だけ頑張っていて、終盤で犯人に裏をかかれて殺されちゃう間抜け捜査官とは訳が違うんだよ。

 「なんだとー!」

 なになに……と、どういうことだ?
 オイ、柚月、上手いこと優子を撒くんだ。

 「ええ~!?」

 こっちはターボで4WDだからね。
 とは言え、公道バトルごっこはダメだからね。

◇◆◇◆◇

 よし、急勾配の上り坂で、しっかりと撒けたよ。
 じゃぁ、今から言う所に行って。
 なんで、すぐに言ってくれなかったのかって? だって、柚月に先に行き先を言っちゃったら、その途中で撒こうとするでしょ、優子は勘が鋭いから、絶対、行き先に目星をつけて追ってくるもん。
 これも、FBI仕込みの捜査能力ってやつだよ。

 「マイはFBIじゃないだろ~!」

 私たちは、ホームセンターの立体駐車場の端のスペースに柚月のGTS-4を止めると、隣に止まっているグレーのセダンに乗り込み、出発した。
 運転席に座っていたのは結衣だった。

 「よし! 行くよ」

 結衣の乗った車はホームセンターを出ると、山道を上って学校を過ぎて、解体屋さんを過ぎ、廃ホテルを過ぎると、県を越えて、燈梨と出会った道の駅までやって来た。
 途中、何度も後ろを確認したけど、優子のR32は、ついて来てなかった。ここまでの道のりで、一度も姿が見えてないという事は、完全に見失ったという事だろうね。

 道の駅の食堂に入ると、お昼にしながら結衣と話した。
 私と柚月に車の事を訊かれると、結衣は、へらっとしながら

 「昨日も聞いただろうけど、もう、ダメだろうね。リアが、あれだけやられちゃってるとね……」

 と、自嘲的に答えた。
 もう、昨日で悲しみは全て出し切ったような、サバサバした態度に、違和感を覚えてしまった。
 ところで、あの車は? と、訊くと

 「解体屋さんがね、しばらく足が無くなるから、あれを使えって、貸してくれたの」

 と言った。
 あぁ、おじさんって、厳しいんだけど、やっぱり優しいよね。
 ところであの車って何? サニーだって? あぁ、アレがサニーか、とは言っても、終盤の方のサニーだから、珍重されてるFRのスポーツカーもどきのじゃなくて、お爺さんが乗るような普通のセダンだって?

 そりゃぁ、私も知ってるよ。
 サニーが、2003年に終了してティーダになったんだけど、ティーダは2代目になる時に国内から姿を消して、日本国内ではノートに合流しちゃったんだよね。
 なるほど最終型なのか、なに? 最終型は、グレードが3つにまで整理されちゃって、寂しい終わりだったんだって?

 え? どこかのお爺さんが、息子一家と同居するから解体屋さんに回ってきたけど、まだバリバリ走る上に、車検が1年半も残ってるから、おじさんが代車にしようと思って、名義変更したばかりだったんだって?

 ふーん、じゃぁ、しばらくはこのサニーで過ごすの?
 私が訊くと結衣は頷いた。
 そして、少し口籠ったけど、次の瞬間、意を決したように話し始めた。

 「取り敢えず、あの車は残して貰って、おじさんに車は頼んでる。おじさんが『何かしら、探すから任せとけ!』って、言ってくれたからさ」

 こっちでも、伝手当たろうか? と、訊くと、結衣は両手を前に突き出して振ると

 「いや……一応当たって貰ってるのは、あそこに入庫してくる車をって事なんだよね。ホラ、お金もないし、アレ潰しちゃったから、親にも頼みづらいしさ……」

 あぁ、そういう事か、結衣としても、こんな短期間に事故で潰しちゃった以上は、頼めないけど、なんとかしたい、ってのがあるんだろうね。
 なるほどね。こういう事もあるから、最初は中古車で、軽はダメって、芙美香は言ったんだろうね。でもって、中古車でも、最初の愛車を潰しちゃったっていう心の傷は変わらないし、芙美香はケチだから、私が車を潰しちゃっても、『だったら、バイクあるでしょ、贅沢言うんじゃないの!』とか、言いそうだよ。

 そこまで黙っていた柚月だったが、ミックスフライ定食を頬張りながら、言った。

 「あそこに入る車をって、言ってもさ~、車種はある程度、絞ってるはずでしょ~?」

 そうだね。
 それに、結衣は、さっき、例の事故車を残して貰ってるって、言ってたから、考えられるのは……。

 「RB25DEが積める車種だよ。第一希望はR32だけど、そこまで贅沢言えないからさ、C33やA31でも良いし……と思ってるよ」

 なるほどね、R32スカイラインと同時期で、共通部品の多い、6代目C33型ローレルや、A31型初代セフィーロか、どっちも兄貴が乗ってたんだよね。確かに、どっちにもRB25DE搭載車が存在するから、それもアリだよね。
 スカイラインの遺品も使えるしね。
 すると、エビフライを食べながら柚月が更に訊いた。

 「でもさ~、ホントに25DEでいいわけ~? これを機に、タイプMとか、C33やA31のRB20DET搭載車でもよくない~?」

 確かにそうだ。
 確か兄貴、セフィーロはRB20DETで、ローレルは25DEを降ろして、R34用のRB25DETを積んでいたような気がしたなぁ。
 兄貴はC33に乗る前に、R34のセダンに乗っていて、ある晩、ドリフトして木にぶつかったとか言って、芙美香にブチ切れられて、R34からエンジン降ろして、ローレルにしたんだ。
 おっと、兄貴の話に脱線しちゃったけど、そうだよ。結衣も、折角だから、タイプMとかにするってのは、どうだろうね?

 すると、結衣は、迷いのない目で言った。

 「ターボにコンプレックスが無いかと言えば、嘘にはなるよ。でも、私は今回、25のパワーすら使いこなせないで、こんなになっちゃったのに、その上を手に入れても、結果は同じだと思う。それに、私自身、まだまだ、25DEにやり残したことがあるんだ。だから、もう1回乗りたいんだ!」

 なるほどね、ところで結衣さ、優子に今回の事、いつ切り出す? 悠梨にはバレちゃってるんだけどさ。
 どうせ、新学期になったらバレるでしょ? 

 「でもさ~、優子の奴さ、自分の車の事も、私にだけ隠してたでしょ。正直、そこまでやられてるんだったら、こっちも、夏休みいっぱいまで隠しておきたいよね。ホントは、次の車の目途が立ってれば、そこまで引っ張るんだけどね」

 それじゃぁ、私らも、優子には緘口令《かんこうれい》って事ね。
 え? 結衣ったら、既に悠梨には口止めしてるって?

 「ところでさ~、優子と悠梨に、今回の事、バラしたの、どっちよ~?」

 私はかき揚げを食べてる最中に訊かれたため、瞬時に柚月を指さした。
 次の瞬間、椅子から飛び退いて逃げようとした柚月が、結衣に捕まって、力一杯締め上げられている姿が、私の目に映った。

──────────────────────────────────────
 ■あとがき■
 お読み頂きありがとうございます。

『結衣の計画通りに簡単に見つかるの?』『結衣に捕まった柚月は、どうなっちゃうの?』と、少しでも気になったら【★、♥評価】、ブックマーク頂けますと、創作の励みになります。

 次回は、結衣の決意が分かった2人に優子が迫ります。

 お楽しみに。
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